村中 洋介

条例制定の公法論

「条例制定の公法論」表紙

村中 洋介[著]

信山社 2019年12月
ISBN 978-4-7972-8234-4

著者からのメッセージ

本書では、条例制定権に関する研究の観点から、災害行政や受動喫煙防止対策等についての検討を行いつつ、アメリカにおける地方自治との比較を通じて、わが国における今日の地方自治の位置づけを公法学の視点で検討することとしている。
具体的な次のような構成による。

1章では、比較研究の対象として、アメリカ地方自治の事例を参照し、検討している。アメリカの地方自治に関して今日も判例において用いられているディロンの原則を紹介しつつ、アメリカの地方自治の成り立ち、今日に至るまでのアメリカの地方自治制度について概観している。その上で、州憲法における地方自治に関する規定、ホームルール制度などのアメリカ独自の地方自治制度、アメリカにおける地方自治に関する判例を参考にして、アメリカの制度がわが国の地方自治の比較を行っている。

2章では、わが国における地方自治の歴史を概観し、今日の地方自治が確立されるまでの沿革を検証することによって、今日の憲法上の地方自治の保障が意味するところを検討している。

3章では、災害に関する条例制定の事例について検討している。東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨など、近時の大規模災害から、災害に備える条例制定についての注目が集まっている。災害対策基本法は、市町村を第一義的な災害対応の行政主体と位置づけており、条例を活用した災害対策あり方も重要視されているものといえるだろう。そうした前提の下で、本章では、地方公共団体の条例による災害対策の例について検討をしている。

4章では、受動喫煙防止に関する条例制定の事例について検討している。東京五輪を前にして、国や東京都は、受動喫煙対策を強化することとして、平成30年に健康増進法の改正、東京都の受動喫煙防止条例制定が行われた。東京都では、これに先立ち、「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」が制定されるなど、近時、受動喫煙対策が強化されている。各地方公共団体では、路上での喫煙防止、ポイ捨て、受動喫煙対策などを目的として、対策が講じられているところであり、本章では、この点に関連して、兵庫県の受動喫煙防止条例の事例を基に、喫煙の自由等の観点を踏まえた検討をしている。

5章では、地方公共団体の条例制定に関する事例として、地方公共団体の職員の派遣に関する、神戸市外郭団体第2次訴訟の事例、地方税法の規定と抵触するとされた企業税条例に関する事例を基に、最高裁の判例から、条例制定のあり方を検討することとしている。

6章では、本書のまとめとして、地方自治の本旨の内容の理解、日本国憲法における地方自治の保障、条例制定権の限界、アメリカの地方自治とわが国の地方自治の比較を行っている。ここでは、地方自治の意味、地方自治の本旨の意味を探るほか、従来から地方自治の本旨論における中心的な考え方である制度的保障説についての再考、近時の補完性の原理にかかる議論を踏まえた地方自治の考え方、条例制定のあり方について検討をしているところである。