青木 健

新ゾロアスター教史
―古代中央アジアのアーリア人・中世ペルシアの神聖帝国・現代インドの神官財閥

出版助成「新ゾロアスター教史」青木健

青木 健 [著]

乃水書房 2019年3月
ISBN 978-4-88708-450-6

著者からのメッセージ

本書は、古代オリエント学(最近の呼称では古代中近東学)を構成する主要な柱 ―アッシリア学、エジプト学、イラン学、ユダヤ学― のうち、イラン学の概説を意図した書物である。オリエントを巡って思いを千古に致すならば、イラン学(紀元前1700年~)とは、先行するアッシリア学(紀元前3300年~)及びエジプト学(紀元前3000年~)と、後行するイスラーム学(7世紀以降~)を繋ぐ中間的存在であるとご理解頂きたい。

古代研究の方法論は、古代の文献資料を解読する為の言語学か、さもなくば遺跡資料を発掘する為の考古学にならざるを得ないが、本書は完全にイラン言語学に依拠している。イラン考古学に依拠した研究成果は言及されないので、古代イラン学の研究成果を標榜すると雖も、本書がカバーする範囲には限界がある。本書は茫々たるイラン語文献の大海の中、偶々伝世した九牛の一毛について、研究者たちが議論百出、甲賛乙駁とした内容を汲み取ったものに過ぎない。

本書は対象を、古代イランの主要な宗教 ―少なくとも、文献が多く残っていると云う意味で主要な宗教― たるゾロアスター教に絞り、その歴史を紀元前1700年ごろから、古代オリエント学の範疇を越えて、現代に至るまで叙述している。古代の文献資料は宗教関連が主流で、政治史や文化史はそこから派生的に語られる場合が多い。本書はゾロアスター教の思想史を語るを以って能事足れりとせず、その背景にあるハカーマニシュ王朝史、アルシャク王朝史、サーサーン王朝史などにも言及することにした。

『新ゾロアスター教史』と名付けられた本書が扱う内容が、世界史全体の上に占めるべき位置を明確にするならば、以上のような説明になる。