曽根 秀一

老舗企業の存続メカニズム
―宮大工企業のビジネスシステム

老舗企業の存続メカニズム ――宮大工企業のビジネスシステム

曽根 秀一 [著]

中央経済社 2019年3月
ISBN 978-4-502-29981-0

著者からのメッセージ

本書は、老舗企業の存続メカニズムをテーマにして、経営学とくに経営戦略論と経営史学の橋渡しを意識した学術書です。なぜ、老舗企業は時代の変化を乗り越え、存続してこられたのでしょうか? この問いに対し、経営学とくに経営戦略論、そして史的な観点から検討したのが本書です。

近年着目される老舗企業論やファミリービジネス論の変遷について、検討および問題提起し、世界最古の企業ともいわれる金剛組をはじめとした宮大工組織(他に竹中工務店、松井建設、大彦組など)の事例分析を進めてきました。これらの企業の複数の存続パターンを示すとともに衰退についても論じています。また、その裏付けともなる複数の江戸時代に記された一次史料も付録として掲載しました。

読者の皆様が、老舗企業の存続というダイナミズムを実感し、経営の研究のみならず、地域社会や文化、歴史から、その奥深さや魅力を感じとっていただけたならこれ以上の喜びはないと考えます。

老舗は、元来、「仕似す」という何かに似せてするということであり、やがて限定され父祖代々の商売をしにせた店、信用、繁栄などを得た店が老舗となっていき、そこには、守成の意味があります。こうした、老舗や宮大工などと聞くと一般性の低い、ある種、特別な事例のように思われがちですが、決してそうではありません。大手企業も含めた、現代企業においてもこれらの先人の叡智をいかしていることも散見されます。

では具体的に、老舗を研究することの魅力とは何でしょうか。第1に、長いスパンでその企業行動が観察可能である。第2に、幾度もの危機的状況を乗り越えてきた経験を学び取ることができる。第3に、これまでの経営学で論じられてきた成長拡大のみではなく、存続の視点から論じることができる。第4に、地元地域に根差し、ファミリーという存在に着目した企業であるがゆえに、経営の研究に加え、地域の社会や文化とのかかわりといった視点から論じることができる。こうしたものがあげられると考えます。

本書を執筆するにあたって、本学の助成により実現できましたこと、心より感謝申し上げます。長年にわたり、150名以上の宮大工をはじめとした伝統建築に携わる方々にインタビュー調査や史資料を提供いただきました。お世話になった皆様に謹んで、本書を捧げ感謝の意を表したく思います。そして、多くの読者が、老舗企業の存続というダイナミズムを実感し、その歴史の奥深さや魅力を感じとっていただけたならこれ以上の喜びはないと考えます。