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教員からのメッセージ

小針 由紀隆 教授写真

「もの」はきわめて雄弁であるということを
自らにいつも言い聞かせています。

小針 由紀隆 教授 文化政策学部
芸術文化学科

研究・取り組みの内容について教えてください。

研究分野に明記したとおり、私は西洋美術史の研究者です。学生時代は15世紀フィレンツェ絵画を研究していましたが、風景画コレクションで知られる静岡県立美術館に長く勤務したことから、研究テーマはおのずと「人間と自然との関わり」に向かっていきました。もともとイタリア美術に軸足を置いていたため、現在は17~19世紀のイタリアにおける風景画の諸問題に取り組んでいます。風景画芸術が著しく発展した17世紀ローマには、実に多くの研究素材が集積しています。カラッチ、クロード・ロラン、プッサンらの理想風景画を、兆候、成立、発展、受容などの観点から美術史的に説明していく、という手ごわい課題に取り組んでいます。

研究・取り組みについてのモットーを教えてください。

この一年で自分自身の感覚に、ある変化が起こっています。2014年春まで公立美術館で仕事をしていた私にとって、絵画や版画などの美術品はすべて「もの」でした。美術品はつねに重さをもち、照明の下で光を跳ね返し、時には臭いすら放つ「もの」だったのです。ところが、大学に籍を移してからは、美術品は私の目の前から消え去り、画像として扱うしかなくなりました。「もの」に触れているという喜びと安堵は喪失したのです。とはいえ、実証的な美術史研究を進めるという姿勢は、何ら変わるものではありません。美術史家がいかなる解釈を展開しようとも、「もの」と照合したときにズレが生じてはならないように思います。不一致が生じた時、その解釈は本物とは言い難いでしょう。研究には都合と目的が付きまといますが、「もの」はきわめて雄弁であるということを自らにいつも言い聞かせています。
注)このインタビューは2014年度に行なったものです。
小針 由紀隆 教授
●担当学科・授業
博物館学概論、博物館実習、芸術と文化、現代芸術論Eなど
●研究分野
博物館学、西洋美術史
●主な経歴
静岡県立美術館(2014年3月まで)
●著書
『ローマが風景になったとき』春秋社、2010年
『ローマ─外国人芸術家たちの都』(共著) 竹林舎、2013年
『絵画と受容 クーザンからダヴィッドへ フランス近世美術叢書Ⅱ』(共著) ありな書房、2014年
●論文・解説
「ジャック・カロ《大狩猟》――狩猟画と風景画」『美学』43(1)、1992年
「ドメニキーノとG.B.アグッキ――《エルミニアと羊飼い》の風景描写をめぐる一考察」『静岡県立美術館紀要』第18号、2002年