教育・研究
2021年09月16日
デザイン学科「ユニバーサルデザインⅡ」の夏季集中講義が行われました(8月18日・19日・20日)

デザイン学科共通科目「ユニバーサルデザインⅡ」(担当、小浜朋子教授)では、異なる特性をもつ人との共感を通して課題や潜在的ニーズを発見し、解決策となるデザインを考えるプロセスを、3日間連続の集中講義で学びます。
今年度は、30名の受講生が、視覚に障害のある3人の講師(葭原滋男さん、芳賀優子さん、山城ウェンディさん)と実際に対話し、行動を共にしながら様々な体感や問題点を共有することで、「視覚にたよらないことにより活きてくる感覚」とはどのようなものか理解を深め、デザインへの反映を考え、発表しました。
1. 視覚に頼らない自己紹介
18日の講義は、全員がアイマスクをして目を覆うところから始まりました。
一度に30人の自己紹介を聞いても覚えにくいため、まず、視覚に頼らないで4つのグループに分かれました。「雫、霧、雪、滝」4種類の模様が凹凸でデザインされた市販のペットボトルが1本ずつ配られており、自分の模様を触って判断します。「滝」は縦のラインがイメージと結びつきやすくわかりやすかったのですが、その他の模様は細かな形状や抽象的な表現が手で触っただけでは理解しにくく、凹凸のデザインのあり方や可能性について考える機会となりました。


2. 視覚障害者の移動と買い物の行動観察






3. 視覚に頼らない空間認知


4. ブラインドサッカーの体験
19日の午前中は体育館で、葭原講師のプログラムに従って、ブラインドサッカーを体験しました。
ブラインドサッカーは、転がると「音」の出る特殊なボールを使いプレーをします。敵に向かう時はボイ!と「声」を出して危険な衝突を避け、シュートはゴールの裏にいるガイドの「声」やポールをたたく「音」を頼りにします。
まず、2人組になり、アイマスクをした人に準備体操の動きを伝えるところからはじまりました。続けて、4つのグループに分かれ、ボールをもって歩く、走る、誕生日順に一列に並ぶなどの課題を1つ1つこなし、仲間と声を掛け合うコミュニケーションの取り方を徐々に学びながら、体を慣らしました。



特に、相手がどこにいるのか、ボールがどこにあるのか、様々な感覚を研ぎ澄ましてプレーをするのは、初めての体験です。参加した学生は「ボールがどこにあるのか最初分からなかったが、声を頼りに少しずつ動けるようになって楽しかった。」「目が見えなくてもこんなにスポーツを楽しむことができるということを身をもって体験できたので本当に良かった」とブラインドサッカーを経験して満足そうな様子でした。
3時間にわたるプログラムを通して、「声」や「音」を介したコミュニケーションの大切さを学び、視覚に頼らないで空間を認知し、イメージして動く難しさを経験することができました。



5. 提案の検討、発表、フィードバック
19日の午後は、これまでの体験や観察、講話などからの気づきをもとに、各自1つのテーマを決め、最終日の発表の準備に入ります。講師の方々と直接お話をしながら、いかにリアルに、具体的に、背景や提案内容などを深めるかが、この授業の大切なポイントになります。
20日は一日かけて、全員が持ち時間10分で発表し、講師の方々からコメントをいただきます。視覚に頼らないゲーム、気軽におしゃれを楽しめるツール、新しいパラスポーツの提案など、様々な視点から興味深い提案がたくさんあがってきました。さらに授業後に、心に残った発表や一人一人の発表に対して講師の方々から丁寧なフィードバックが共有され、具現化が期待されるアイデアもいくつか見出されました。




学生からは「視覚に頼りすぎていたために意識していなかった様々な感覚に気づくことができた」「当事者の声を聴き、事案に反映することの大切さを身をもって感じた」「これまでの授業の中で一番面白かった」など、3日間、実際に視覚障害者の方と共に「視覚に頼らない」というテーマを考えた経験のインパクトの大きさがうかがえる感想が多く聞かれました。これからのデザインに活かされることが期待されます。
コロナ禍の厳しい環境の中ではありましたが、細心の注意を払いながら対面で実施し、無事終えることができました。ご理解、ご協力をいただきました皆様には感謝申し上げます。3人の講師のプロフィール

非常勤講師 葭原滋男
走高跳び、自転車競技で金・銀(2)・銅、4つのメダルを持つパラリンピアン で、サッカー、サーフィンの現役選手。「障害者スポーツ」に20代から参加して、障害の有無に関わらず社会生活に必要な学びの機会になると実感。ブラインドスポーツクラブを創設し、現在は、東京2020パラ応援大使、参天製薬の社員として、共生社会の実現を目指している。
ゲスト講師 芳賀優子
ラジオ講座から聴こえてきたスペイン語の響きに魅せられて大学で学び、スペインに精通した話題も豊富。人を惹きつける話術に長け、NHKラジオの司会の経験もある。ヤマト運輸に勤めていた時、不在連絡票が視覚障害者にもわかるように「猫の耳型」の切込みを入れることを提案し採用された。先天性の弱視で、ご自身の様々な経験は多数の書籍になっている。
ゲスト講師 山城ウェンディ
ペルー出身で20歳の時に家族と浜松に移住。視覚障害者支援施設NPO法人六星「ウイズ」で仕事をしながら全盲と言葉の壁をのりこえ、パソコンやスマホのアプリも使いこなす。お化粧やおしゃれも大好き。2代目の盲導犬「パオラ」と生活を共にする。視覚障害者の理解を深める出張講座では、親しみやすい人柄と巧みなコミュニケーション力で大活躍している。発行部署:企画室