教育・研究

2022年06月29日

「博物館情報・メディア論」にて都庁職員の方をゲスト講師に多文化共生について特別講義を開催(6月17日実施)

6月17日、「博物館情報・メディア論」(担当、田中裕二准教授)にて、「東京都における多文化共生の取組み及びアートと多文化共生」をテーマに特別講義が行われました。講師には東京都庁職員の村田陽次さんにお越しいただき、東京都の多文化共生の様々な取組みや、外国人に伝わりやすい「やさしい日本語」、芸術文化と多文化共生について幅広くお話しいただきました。
特別ゲスト田村さんの写真
村田陽次さん
東京都 生活文化スポーツ局 都民生活部 地域活動推進課 課長代理(活動支援国際担当)
1999年に東京都庁入庁、都立博物館・美術館の管理運営や首都圏のホール・劇場などのネットワーク推進活動に携わり、2018年からは現在の部で多文化共生の社会づくりに尽力。ラグビー愛好家でもあり、「日本代表ラグビーチームこそ多文化共生そのものである」と語られました。

多文化共生の取組み

博物館情報・メディア論特別講義の様子
2021年6月現在、日本の在住外国人数は約280万人、都内では約54万人、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で多少減少はしたものの、長期的には今後も増加傾向にあります。
近年はベトナム、ネパール、ミャンマーからの人々が急増し、国籍が多様化しています。外国人が日本で安心して暮すために、生活情報の多言語化や通訳などコミュニケーション支援、相談窓口などの生活環境の整備、地域交流イベントや異文化理解の醸成など、多文化共生の社会づくりが不可欠であり、行政、国際交流協会、NPO、民間企業などが様々な支援事業を行っています。
また、支援の対象は外国籍を持つ「外国人」ばかりでなく、日本に帰化した人々や、ハーフ、ダブル等呼ばれる人々、難民2世・出生届未提出等の無国籍の人々など「外国にルーツを持つ人々」なども広く含みます。村田さんはまだまだ支援が行き届かないのが現状であり、地域格差があると言います。さらなる支援拡充のために、令和2年には市区町村・外国人支援団体等を応援する「一般財団法人東京都つながり創生財団」の設立や、コロナ緊急対策として相談員が適切な専門機関に繋ぐ「東京都外国人新型コロナ生活相談センター(TOCOS)」の開設、感染予防の新しい生活様式について16言語で発信するなどの取組みについてご紹介いただきました。村田さんは緊急時のみならず、平常時でも外国人が日本人同様に暮らせる社会づくりがいかに大切かを再確認され、その最も重要な取り組みの一つが「やさしい日本語」の普及であると強調されました。

「やさしい日本語」の普及

「やさしい日本語」とは外国人等にも分かるように配慮して、簡単にした日本語のことで、今では英語よりも注目されているコミュニケーションツールとなっています。1995年の阪神・淡路大震災で多くの外国人が被害を受けたことから考え出され、東日本大震災では、「高台」「避難」といった言葉は外国人には伝わりにくく、被害が拡大したことから意義が再確認されました。

やさしい日本語のポイント
  • 文章は短く、一文で一つの情報提供に→情報の整理が重要
  • 主語を明確にし、二重否定やあいまいな表現を避ける
  • 漢字にふりがなをふる→「全部ひらがな」はかえってわかりにくい
  • 漢字の熟語、カタカナ語、略語、オノマトペなど難しい言葉は避ける
  • 敬語は使わない→です、ます調が基本
  • 写真やイラストなどを併用する
  • 話す時はゆっくり、はっきり、書くときは分かち書きを
博物館情報・メディア論の特別講義の様子
しかし、「やさしい日本語」は使う語彙を絞り込み、文章を短くするため情報が限定されてしまうことを念頭に置かなければなりません。また、相手を子ども扱いするのとは違います。時には難しい言葉を使う方が伝わりやすいなど、決まった答えがないという注意点があります。村田さんは、時と場合による使い分けと、何が「やさしい」のか考え、試行錯誤しながらコミュニケーションをとっていくことが重要だと伝えました。

芸術文化と多文化共生

講義の最後は芸術文化と多文化共生の関係性についてお話いただきました。在住外国人は若者人口が多く、高齢化が進む日本での芸術の担い手や受け手として貴重な存在であると言います。美術館や博物館、劇場などの文化施設は多文化共生に向けて新たな運営方針を打ち出し、多言語に対応した施設案内や解説、「やさしい日本語」を活用したツアーなど文化プログラムに取り組み、積極的に外国にルーツを持つ人々の参加を促しています。多様性を享受する芸術文化を誰もが楽しめる取組みは、多文化共生社会づくりにおいて重要な取り組みであり、幸福で豊かな社会づくりに貢献していると講義を締めました。
学生からは「自分が考えるやさしい日本語とのズレがあった。特に敬語は、外国の方に伝わりにくいことが分かった」「アルバイト先で外国の人と話す機会があるのですごく身近な話題。やさしい日本語を使うことと、子ども扱いするのは違うこと。相手に応じて難しい日本語も使った方が伝わりやすいことが印象に残った」などの感想が寄せられました。
ここ静岡文化芸術大学がある浜松市も、在住外国人の割合が多く、多文化共生社会について無関係ではいられません。「やさしい日本語」を含め、日本人と外国人がともに対等に暮らせる社会とはどうあるべきかを考えされられる貴重な機会となりました。
田村さん、」と安達さん、田中准教授の写真
左から 安達萌絵さん(同課活動支援国際担当、ゲスト講師補佐)村田さん、田中准教授

発行部署:企画室