教育・研究

2022年07月07日

「美術史(西洋)Ⅰ」にて静岡県立美術館学芸員の方をゲスト講師に特別授業を開催(6月30日実施)

静岡県立美術館学芸課長 南美幸様

芸術文化学科専門科目「美術史(西洋)Ⅰ」(担当:立入正之教授)では先史時代から近世ヨーロッパの美術の変遷と美術史研究の方法論を学びます。

この度、6月30日に「古代を描く-18世紀ローマと南イタリアを中心にー」というテーマで、静岡県立美術館学芸員の南美幸さんによる特別講義が行われました。普段なかなかお目にかかれない静岡県有数の美術館学芸員の方に直接ご教示いただくということで、学生たちは熱心に講義に耳を傾けていました。

古代を描いた版画

主に講義の前半はローマ、後半は南イタリアの古代遺跡を描いたそれぞれの版画作品についてご紹介いただきました。

古代ローマ遺跡は476年のローマ帝国崩壊後、破壊が進み廃墟化します。その後、15世紀から16世紀頃に古代の遺跡や遺物への関心が高まり、古物の収集や調査などが行われるようになります。18世紀にはイタリアの画家・建築家のジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ(1720年から1778年)が古代ローマ遺跡を主題とした版画を多く残し、ヨーロッパ美術や考古学に多大な影響を残しました。その版画の3つの特徴と魅力について解説いただきました。

【ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ版画作品の3つの特徴】
  1. 考古学的アプローチ
    建築構造(測量、製図、建設方法、道具など)を熟知して描かれたもの。『ローマの古代遺跡』を刊行。
  2. 当時のローマを描く(景観画)
    景観図に番号を振って説明付き、後のガイドブックの走りとなる。『ローマの景観』を刊行。
  3. 綺想画
    古代風な建築に空想的なイマジネーション込められた作品。『牢獄』が有名。
美術史Ⅰ特別講義の様子
後半では南イタリアのヘルクラネウム遺跡からポンペイ遺跡の発掘、その後、遺物を展示する美術館の建設、発掘品をまとめた国家的出版事業『ヘルクラネウム出土の展示品』の刊行についてなどご紹介いただきました。また、芸術と考古学の出会いで生まれた版画作品のスライドを見ながらその特徴の解説と、影響を受けたフランスの画家ユベール・ロベールや、英国画家ジョン・ロバート・カズンズの作品にまで話が及びました。
静岡県立美術館学芸員 南美幸様
静岡県立美術館学芸員 南美幸さん

学生からは「自分は美学に興味がり、遺跡や歴史はもちろん尊重されるものだと当たり前のように考えていたが、全ての人がそうではなく、破壊されることもあるのだということが分かった。」「考古学的であり、芸術作品でもある古代遺跡の版画の見方が変わった、今度美術館に行ったら本物をじっくり見てみたい」といった感想が寄せられました。

遺跡を記録、収集、展示するなど、価値あるものという今の認識を創り上げた、最初の起源と変遷、考古学的見方から生まれた版画作品の迫力や精巧さ、芸術的魅力を今回の講義で学ぶことができ、静岡県立美術館に足を運びたくなる取材となりました。有難うございました。

発行部署:企画室