教育・研究

2022年07月07日

「地域福祉論」第2回特別講義が行われました(6月27日実施)

文化政策学科のカリキュラム「地域福祉論(小林淑恵准教授)」の授業では、外部講師による特別講義が取り入れられています。前期授業第2回目となる今回の講師は田中浩敬さん(ビオネストグループ グループ本社 株式会社ビオネスト 組織開発室長)にお越しいただき、「民間企業によるヘルスケアエコシステム構築の試み」についてお話を伺いました。
ビオネストグループ傘下には、障がい者グループホームを全国展開する株式会社ラシエルもあり、浜松市にも2か所のグループホームを開設しています(2022年6月時点)。

地域福祉論特別講義田中さんの写真
地域福祉論特別講義田中さんの写真
地域福祉の担い手となる組織には、行政、医療法人・社会福祉法人・NPO法人、そして民間企業(株式会社)などがあります。民間企業(株式会社)が他の組織と大きく異なるのは、「利益」を出さなければいけない点です。「社会貢献性が高い活動」を組織で行っている点では同じですが、その点では大きく違います。「社会貢献」などの社会的価値だけを生み出すだけでなく、経済的価値としての「利益」を出すことの両方が求められます。

「ヘルスケアエコシステム」の構築

ビオネストグループは全国に事業所200か所、従業員2,000名規模で「医療」「介護」「障がい福祉」の3つの事業を展開しているトータルヘルスケアカンパニーです(2022年6月時点)。グループビジョンに「ヘルスケアエコシステムをつくる」というものを掲げています。これは、一つの事業体・サービス単体で完結するのではなく、より大きな価値を提供するために、他の事業体・サービスと連携することで、「ヘルスケア」という軸を持った「ビジネス生態系」を構築することを意味しているそうです。
例えば、障がい者グループホームを開設して、そこで障がいをお持ちの方が入居するとします。するとそこに医療ケアニーズが生じ、訪問看護師のサポートが必要となり、障がい者グループホーム事業と訪問看護事業という二つの事業体が連携し、「より健康的に過ごせる生活環境」を提供することができます。
また、ビオネストグループ内で事業連携して「エコシステム」を構築するにとどまらず、社会全体の仕組みや活動と連携していくことで、新しい「アイデア」や「価値」を生み出すことができると田中さんは語られました。
また、今回の講演もヘルスケア産業と大学との「産学連携」活動であり、大学以外でも他業界の企業との「異業種連携」、自治体との「地域連携」など様々な社会全体の仕組みや活動の中で、「ヘルスケアエコシステム」を構築していくことが大事だと強調されました。
田中さんはプロジェクトリーダーとしてこれまで多くの他業界との「イノベーティブな企画」を行ってきました。その一例を紹介いただきました。

他業界との連携企画例
  • 大学と連携して、学生起点で介護イノベーション企画を考える「産学連携ゼミ」
  • 自治体と連携して、介護現場起点で本当に価値ある製品・サービスを考える「産官連携ワークショップ」
  • 松竹芸能社と連携し、14の介護施設をオンラインで繋いで実施した「バーチャル寄席」
  • 元タカラジェンヌとコラボして開発した「宝塚式オリジナル健康体操」
これらの企画は珍しく、新しい着想のため読売新聞など多くのメディアにも取り上げられたことがあるそうです。業界の枠を超えて、異なるものを掛け合わせることで、その業界内の知見でしか考えられなかった課題に外からの新しい視点が加わり、新しいアイデアが誕生します。いわゆる「オープンイノベーション」によって相乗効果が得られるということを学生たちに伝えていました。

<学生からの質問>

Q. メディアへの掲載や情報発信により、介護のイメージが変わったという印象はありますか
正直な話、まだまだ介護や障がい福祉のイメージを変えることは出来ていない、と思っています。メディアへの掲載を通じて採用面接時に「介護のイメージが変わった」と言ってくださる方が少しずつ増えてきた感覚はありますが、まだまだ少数です。一度、出来上がってしまったイメージを変えることは簡単ではありません。しかし、今回のようにこれからの未来を創る若者に介護福祉業界の魅力、そして社会性を伝え続けることが大切だと思っています。

Q. 産学連携など様々な試みをされていますが、ビジネス面でどのようなメリットがありますか。
「イノベーションを起こすキッカケになる」ことが最大のメリットだと思います。イノベーションを起こすためには、自業界や既存事業の「前提の外にある視点や情報」が大事です。今回の講演も、今ビジネスの中核で働いているX世代や私のようなミレニアル世代(Y世代)の次の世代である「Z世代」である学生との触れ合いを通じて、「前提の外にある視点や情報」を得ることができます。また、Z世代の若者と触れることで、企業ブランディング、教育コンテンツの拡充、採用活動の強化に活かすヒントが得られることも多々あります。

Q. (担当教員より)行政や社会福祉法人等と比べて、民間企業で地域福祉を担うことのメリットはどのような点がありますか。
(制限はありますが)「自由に様々な試みが行える」という点だと思います。行政や社会福祉法人よりも、民間の柔軟な視点で自由にアイデアを実現しやすい、他業界との連携によるオープンイノベーションにもチャレンジしやすい組織体だと思います。

発行部署:企画室