教育・研究

2023年01月19日

「文化施設の管理と運営」で兵庫県立芸術文化センター職員の特別講義が行われました

芸術文化学科専門科目「文化施設の管理と運営」(担当:南田明美講師)にて、兵庫県立芸術文化センターの寺田卓矢さんを講師に招き、特別講義が行われました。寺田さんは同センターを拠点に活動する兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオーケストラ)で総務を担当。「『みんなの広場』を目指す劇場とそのオーケストラ 兵庫県立芸術文化センターと兵庫芸術文化センター管弦楽団の取り組み」と題し、オーケストラを持つ文化施設の取り組みをお話いただきました。

1.兵庫県立芸術文化センター

兵庫県立芸術文化センター外観
兵庫県立芸術文化センター外観 (c)飯島隆

兵庫県立芸術文化センターは、兵庫県西宮市にある舞台芸術の創造拠点。大・中・小の3つのホールとリハーサル室、スタジオ等の設備を持ちます。阪急電鉄神戸三宮駅や大阪梅田駅から特急電車で約15分、西宮北口駅南改札口から徒歩2,3分と交通アクセスが良い立地にあります。

地元に本社を置く神戸製鋼所がネーミングライツを持つ「KOBELCO(コベルコ)大ホール」はPACの活動拠点にもなっています。音響反射板を下げると、オペラ仕様の舞台に。全国でも珍しい4面舞台を持ちます(ちなみに、浜松市のアクトシティ大ホールも同様です)。「阪急中ホール」は吸音性能が高く、セリフが聞きやすい構造。演劇、伝統芸能、舞踊などに利用されます。「神戸女学院小ホール」はソロ、室内楽などの小編成に向いているリサイタルホールです。

兵庫県立芸術文化センターは指定管理者制度で運営されており、現在の指定管理者は公益財団法人兵庫県芸術文化協会。本部機能と同センターを含む5つの施設を運営しています。
同センターは、総務部、事業部(主催公演企画)、舞台技術部、さらに兵庫芸術文化センター管弦楽団の業務を行う楽団部で運営。さらに、館内外の業者と連携しながら舞台芸術公演を制作しています。

2021年度の事業数を見てみると、主催事業は241、貸館事業は268、その他事業61となり、コロナ禍の中で2020年度よりは盛り返してきているといいます。年間来場者数は公演のみで48万人、総来場者数71万人でした。
2005年10月に開館した同センターですが、2018年1月から3月には大規模修繕を実施。稼動率が高いホールのため、設備の劣化損耗が激しく、大・中・小ホールを順番に1か月ごとに修繕しました。

2.兵庫芸術文化センター管弦楽団の活動

兵庫県立芸術文化センター管弦楽団(PAC)第135回定期演奏会 (c)飯島隆
兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオーケストラ) (c)飯島隆

兵庫県立芸術文化センターは、国内では珍しい専属のオーケストラをもっているホールです。兵庫芸術文化センター管弦楽団(通称:PAC(パック)オーケストラ)は、「フレッシュでインターナショナルな」プロオーケストラとして、オーケストラ奏者を育成するアカデミーとしての機能を持ちます。楽団員は「コアメンバー」と呼ばれ、最大定員は48名。入団時の年齢は35歳以下で優秀な若手演奏家を日米欧で実施するオーディションで募ります。最長3年所属することができ、その間にコアメンバーたちは国内外のオーケストラオーディションに挑戦し、活躍の場を広げていきます。PACに集まるコアメンバーは国際色豊か。そのため、コアメンバー向けの配布物、掲示物、メールなどは日英表記。楽団員同士の会話も英語をはじめとしてフランス語、ドイツ語、スペイン語なども使用されます。

オーケストラのシーズンは世界標準に合わせ、9月スタートで8月で終わります。楽団主催公演のほか、ホール事業部が主催する公演など年間100公演以上を行います。プロのオーケストラ奏者として活動するための技術や経験を身に着けてもらうサポートをする目的もあるため、ベテラン指揮者による客演、幅広いレパートリーから選曲され、国内外で活躍するゲストプレイヤーによる指導もあります。オーケストラの入団オーディションに慣れるため、模擬オーディションも行っています。
寺田卓也さん
寺田卓矢さん
楽団部で総務担当として働く寺田さん。演奏会の開催以外に意外な仕事もあります。
PACオーケストラでは、県営団地の一部を借り上げ、希望するコアメンバーに住居として提供。防音室も完備されています。日常的な建物や建具の補修、インフラのトラブル対応、コアメンバーの入れ替わりにあたっての入居計画、部屋の状況調査など、多岐にわたる業務が総務担当の仕事。自治会で配布される資料の翻訳などもあります。

3.「劇場はみんなの広場」 多様なニーズに応えるための取り組み

PACの小学校アウトリーチ

近年は「劇場法(劇場・音楽堂等の活性化に関する法律)」でも前文において「新しい広場」と謳われていますが、兵庫県立芸術文化センターのキーワードが「みんなの広場」。文化施設には舞台芸術鑑賞の場としてだけでなく、幅広い役割が求められています。

PACオーケストラで行っているアウトリーチ活動は、日本海側から瀬戸内地方まで広がる兵庫県全域を対象として行っています。豊岡、洲本、篠山、赤穂、養父、明石、丹波篠山など、それぞれの地域のホール、文化振興財団と連携して演奏を届けています。演奏に赴いた先の住民の方々が地元の伝統芸能を外国人団員に紹介してくれることもあります。また、子どもたちとの交流も目的の一つです。小学校、特別支援学校へのアウトリーチは(公財)地域創造のコーディネーターから指導を受け、コアメンバーが45分の「音楽授業」プログラムを作成。積極的に企画に携わっています。

美術館、博物館、公民館、福祉施設では室内楽を演奏。先述したコアメンバーが暮らす県営住宅では、同じ団地に住む住民を招いたミニコンサートも行っています。(2020年度以降は新型コロナウイルスの影響により休止中)
わくわくオーケストラ教室2020年
わくわくオーケストラ教室(2020年) (c)飯島隆

青少年芸術体験事業「わくわくオーケストラ教室」は2006年から続く「兵庫型体験教育」の1つ。県内すべての公立中学校1年生が兵庫県立芸術文化センターを訪れます。毎年40公演が開催され、生の劇場体験をする貴重な機会となっています。演奏はPACによるオーケストラ演奏。施設(舞台・音響・照明)の紹介なども行います。分かりやすい曲目解説や鑑賞マナーなどが掲載されたパンフレットは、事前学習の資料となっているそう。来場する特別支援学校や養護学校、障がいのある生徒などへの対応もきめ細やかに応えます。

県民への劇場開放イベント「ひょうごプレミアム芸術デー(2022年は11月9日開催)」は、平日にもかかわらず延べ5500人が来場しました。「わくわくオーケストラ教室」の一般公開版では、0歳から鑑賞可能とし、佐渡裕芸術監督と建築家・安藤忠雄氏の対談、調律師によるピアノ講座、ホール機構の紹介なども開催されました。

初めの10年から次の10年間へ。兵庫県立芸術文化センターはこれからも、県民や利用者のより深いニーズに応えるために活動していきたい、と締めくくりました。

写真提供:兵庫県立芸術文化センター

発行部署:企画室