教育・研究

2022年12月28日

「博物館資料論」にて上原美術館学芸員による特別講義が行われました

博物館学芸員養成課程科目「博物館資料論」(担当:田中裕二准教授)にて、上原美術館(静岡県下田市)の主任学芸員、田島整さんを講師に招き、特別講義が行われました。
上原美術館には、博物館学芸員の資格取得のための必修科目である「博物館実習」において、本学学生を受入れにご協力いただいています。田島さんには学芸員として上原美術館を育てていく過程を含め、学芸員に必要なスキル、エッセンスが凝縮されたお話をいただきました。
上原美術館は伊豆半島の先端近く、下田市にある私立の美術館です。もともと上原近代美術館と上原仏教美術館の別々の美術館だったものが、2017年11月に一つとなりました。多様な収蔵品の中核は、大正製薬株式会社名誉会長の上原昭二氏より寄付を受けた近代絵画コレクション。仏教美術は上原氏の両親である正吉・小枝夫妻の寄付によるものです。
上原美術館の紹介

上原仏教美術館との出会い

講師の田島整さんはもともと日本彫刻史(仏像)がご専門。高校教員を10年間した後、転職。そのあと上原美術館で学芸員として勤めています。

上原美術館のはじめの印象は、展示品に時代が新しい作品が多く「レプリカ」感があったそう。コレクションは明治時代から昭和時代の仏像がほとんどでした。自分の専門が活かせないのではないかと考えたといいます。個人コレクションの美術館であるため、所蔵方針が定まっていない自由なコレクションでした。単品で貴重な古い仏像や絵画の名品もあり、どう扱えばいいかを苦慮した田島さん。一方で、寄託作品や静岡県指定文化財でいいものはある中で、どう活かし、どう扱っていくかを考えることからはじまりました。

さて、どうするか

講義をする田島さん

作品の購入資金はありますが、良い作品が出た時に、個別で収蔵の是非を判断して購入する傾向があり、一貫した収集方針が決まっていませんでした。そこで田島さんはコレクションの充実を図ることからスタート。古く本格的な仏教美術を収蔵したいと考えましたが、仏画は入手不可能で、仏像はなかなか購入できず、コレクションはしにくいのが現実です。そこで、古写経を体系的にコレクションすることを提案。コレクションの核・軸にしていくことにしました。

作品を購入する上でいくらいいものであっても、美術館に必要なのか、何に使うのかを考えることが重要という田島さん。ただのお宝コレクションにならないようにしながら、かつお客さんが来て見栄えがすることも大事です。田島さんが作品収集方針を決めてからこれまで、20年かかりました。
上原コレクションとしての選択
「美術館の目指すところは何なのか」。田島さんはそのことを大切にしています。上原美術館の場合は個人美術館。規模も大きくなく、アクセスも良いわけではありません。そんな上原美術館の良さはプライベートコレクション。お客さんを自宅に招いて上質なものを見てもらうような雰囲気を目指します。
それは作品を購入するときにも活かされます。もともと興福寺に藤原摂関家が納めた千体観音は、ひとつひとつ作者やグレードが違いますが、「質が高いもの」と「質は普通だが雰囲気があるもの」が並んだ時に、後者を買うのが上原美術館の選択。やわらかくてかわいらしい表情の仏像です。

調査を展示につなげる 伊豆半島を上原美術館の収蔵庫に

開館以来、伊豆の仏像調査を継続してきた上原美術館。館内には膨大な資料やデータが蓄積されていました。それをもとに展示会を企画していきます。

函南町・大竹千体観音堂調査(2010年4月21日から2012年8月9日)
733体の千体観音の調査を依頼された田島さん。調べていくうちに一つ一つ観音像に時代の違い・作者の違いがあることに気づきました。分類し文献資料も発見したことで、詳細がわかってきました。それを展示したのが企画展「伊豆の観音像」(2011年10月28日から12月11日)。調査して、その成果を展示する。その繰り返しで美術館の独自性を出していきます。

河津町・南禅寺仏像群調査では、造形や造像技法といった美術史的な調査に加え、光線を用いた内部構造調査など自然科学の調査も実施しました。この成果をもとに構成した開館30周年記念企画展「癒しの仏・薬師如来」(2013年10月26日から12月8日)は、研究者の間でも反響が大きく、調査による新知見を多数盛り込んだ内容でした。しかし、押し寄せたお客さんには展示室が狭く、これを機に展示室を拡張しリニューアルすることになります。

生まれ変わった上原美術館

田島整さん
田島整さん
(上原美術館 主任学芸員)

壁紙、照明、作品の配置を変え、柵も取った展示室。コレクションは変えず、ランダムな配置からストーリーを考えた配置へと変更。コンサルタントや専門家の力も借りながら、頭の中にイメージを持ってリニューアルに取り組みました。田島さんのこだわりの一つは「指示(サイン)」を書かないこと。視線を誘導する空間設計で、展示物の配置で人の動きを誘導します。小さな美術館だからこそ、丁寧な空間づくりを大事にしました。

最近は交通機関や他の美術館との連携もあります。アナウンサーと仏教美術の魅力を伝えるラジオ番組を放送するなど、田島さん自身も美術館の顔として尽力。こだわりの図録は、学芸員が見てほしいところ、グッとくるところを大きく載せます。
今後も伊豆半島を中心に調査を続け、企画展や特別展として開催していくという田島さん。博物館学芸員資格を目指す学生にとって、様々な特徴を持つ美術館・博物館をどのように発展させていくのか、事例を交えながらリアルにお話いただきました。

開催中の展覧会

展覧会チラシ画像

仏教館 特別展 無冠の仏像 伊豆・静岡東部の無指定文化財
近代館 上原コレクション名品選 まなざしをみる 画家とモデルの隠された視線

【会期】2022年10月8日(土曜日)から2023年1月9日(月曜日・祝日)
【時間】 午前9時30分から午後4時30分(入館は午後4時まで)
【会場】上原美術館 近代館・仏教館
【休館日】 展覧会会期中は無休
【入館料】 大人1,000円、学生500円(高校生以下無料)
注1:仏教館・近代館の共通券
注2:団体10名以上は10パーセント割引(障がい者手帳をお持ちの方は半額)

発行部署:企画室