ヴェルディ作曲「アイーダ」 Aida(歌詞:イタリア語) vol.2

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(7)】
初演:1871年12月24日 カイロ劇場

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ(つづき)

第3幕 ナイル河畔 イシス神の神殿の前
神殿の中では、神官たちが祈りを捧げている。祭司長にうながされ、アムネリスは、ラダメスとの婚礼を豊穣の女神イシスに祈るため、神殿に入っていく。ラダメスに呼び出され忍んで現れたアイーダは、ラダメスを待つ間二度と見ることのできない故郷を思い、アリア「わが故郷」を歌う。そこに思いがけず現れたのは父アモナスロ。彼はアイーダに、エチオピア軍を侵攻させるためエジプト軍の駐屯していないルートをラダメスから聞き出すよう迫る。二重唱「まあ、お父さま!」。躊躇するアイーダにアモナスロは、親子の縁を切るとまで脅す。ラダメスの現れる気配に、アモナスロは物陰に身を隠す。現れたラダメスに「アムネリスの夫」と言うアイーダ。「本当に好きなのはアイーダだけだ」と告げるラダメス。アイーダは、私を連れて逃げてと訴える。初めは躊躇するラダメスだったが、アイーダと二人ならと逃亡を決意する。しかし、エジプト軍の駐屯するルートは避けなければならない。思わずラダメスは、軍のいない道を答えてしまう。機密を知り喜び、飛び出してくるアモナスロ。驚くラダメスに、三人で逃げようとアイーダ。その様子を察知して、アムネリスたちがやってくる。ラダメスは二人を逃がし、自らは捕らえられる。
第4幕 第1場 王宮内
アムネリスは、アイーダと逃げようとしたラダメスの裏切りと、報われないこの恋について悩んでいる。しかしラダメスを牢から連れ出し、自分の気持ちをぶつけることにする。衛兵に連れられて現れたラダメスに、助命のために力を貸すので弁明するよう言う。しかしラダメスは、言い逃れせず死を受け入れる覚悟を述べる。アムネリスは「アモナスロを戦闘で死に、アイーダは生きている」と告げる。さらに「逃げて行った女のことなど忘れ、自分を愛するなら助命しよう」と訴えるが、ラダメスの決意は固い。絶望するアムネリス。ラダメスは裁判の場へと引き立てられていく。神官たちによる裁判の場。何を訊かれても沈黙するラダメス。裏切り者として死刑が言い渡される。この判決にアムネリスは、神官たちを呪う。
第4幕 第2場 火の神の神殿と地下牢(舞台は神殿と地下牢の二層構造になっている)
地下牢に生き埋めにされたラダメスは、死ぬ覚悟をし、アイーダに思いを馳せる。そこに思いがけずアイーダが現れる。彼女は先回りして、この地下牢に来ていたのだった。二人は天国で結ばれることを約束し、死の時を待つ。二重唱「さらば大地よ、さらば涙の谷よ」を歌う二人には、眼前に天国への扉が開かれるように見える。地上の神殿では、巫女たちが火の神プタハに祈りを捧げ、アムネリスが死にゆくラダメスに平安を祈っている。

自選役

このオペラからは、アムネリスが、静岡国際オペラコンクール第二次予選自選役リストに含まれています。

これからの上演

2021年9月22日、練馬文化センター小ホール(つつじホール)で、「アイーダ」の公演(主催:百合の会)があります。この公演に第8回コンクール三浦環特別賞の城宏憲さんが、ラダメス役で出演します。
大ホールで、大掛かりな舞台装置があり、オーケストラの伴奏で行われる公演ばかりがオペラではありません。この公演は、小ホールでピアノ伴奏の公演です。この公演のチラシによると、像もスフィンクスも出てこないとのこと。しかし、小ホールには小ホールの利点がたくさんあります。大ホールでは見落としがちな小さな演技やちょっとした目の動き、歌手の息遣いや発声の方法なども感じ取れるのではないでしょうか。ぜひ足を運んで、悲哀のオペラをお楽しみください。
城宏憲さん 「ふじのくにオペラweek」インタビュー&アリア歌唱
※下のバナーをクリックするとYouTubeの動画ページが開きます。
公演詳細:「百合の会」代表の荒牧小百合さんのブログをご参照ください。
http://yurinokai-office.cocolog-nifty.com/blog/2021/07/post-bfd1ae.html

参考CD

よく聴く4種類ご紹介します。
 
参考CD(1)
指揮:オリヴィエーロ・デ・ファブリティース
アイーダ:マリア・カラス
ラダメス:マリオ・デル・モナコ 他(1951年録音)
これはメキシコ・シティでの録音です。歴史的な事情から中南米に渡った欧米人は多く、「こんなところにこんな豪華なオペラハウスが!」というものがあるそうです。ヨーロッパから高名な芸術家を招いての公演も多かったとか。このCDもその1つです。70年前のメキシコ(失礼!)での録音ですが、意外なほど音がクリアで驚かされます。アイーダ役のマリア・カラスは、「清教徒」でもご紹介しましたね。カラスのオペラ歌手としての活動期間は20年弱と短かったですが、この録音はその初期に当たるもの。1947年にイタリアデビューした彼女は、イタリア各地で歌ったのち満を持して1950年4月ミラノ・スカラ座に「アイーダ」でデビューします。カラスは1949年から1952年に中南米でオペラ公演を行い、複数の録音が残されています。この1951年のメキシコ公演は、オーケストラの稚拙さも見られますが、観客の熱狂を聞けば、素晴らしいものであることがよくわかります。「黄金のトランペット」との異名をとったマリオ・デル・モナコ(1915-1982)の好演、アモナスロ役のジュゼッペ・タッデイ(1916-2010)の第3幕での強烈な歌唱は、一聴の価値があります。先生が特に惹かれたのは、アムネリス役のメキシコのメゾソプラノ、オラリア・ドミンゲス(1925-2013)です。デビュー後間もないと思いますが、すでに王女の風格。この後ヨーロッパで大活躍し、ワーグナーなどドイツ物も手中に収めています。夏のメキシコでの、とにかく熱い熱い「アイーダ」です。
アイーダ(マリア・カラス)
参考CD(2)
指揮:ジョージ・シック
アイーダ:ガブリエッラ・トゥッチ
ラダメス:フランコ・コレッリ 他(1962年録音)
第2回コンクールから3回、6回、7回、8回の計5回、審査委員として参加してくださったガブリエッラ・トゥッチ(1929-2020)先生。トゥッチ先生は大の日本びいきで、先生もとてもかわいがっていただきました。日本との関わりは1961年(昭和36年)に行われた「第3回NHKイタリア歌劇団」の公演が最初とか。この時「アンドレア・シェニエ」、「リゴレット」、「トスカ」、「アイーダ」、「カヴァレリア・ルスティカーナ&道化師」という演目が、9月28日から11月2日にかけて、東京で3公演ずつ、大阪で1公演ずつ上演されたと記録が残っています。もしかしたら、読者の方の中にもご覧になったオペラファンの方がいらっしゃるのでは。この時トゥッチ先生は、「リゴレット」のジルダ、「アイーダ」のアイーダ、「道化師」のネッダで出演されました。トゥッチ先生と身近に接することができた時間はとても貴重でした。マスタークラスなどでは暖かくも的確な指導で、若い歌手の将来へのアドバイスを行っていたのがとても印象に残っています。イタリアの人間国宝的な人でしたが偉ぶらず、気さくな人柄やその笑顔が今でも脳裏に焼きついています。この録音はその翌年のもの。トゥッチ先生曰く、東京からメトロポリタン歌劇場への道が開いたとか。
アイーダ(トゥッチ)
参考CD(3)
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
アイーダ:ミレッラ・フレーニ
ラダメス:ホセ・カレーラス 他(1979年録音)
先生は特にカラヤンが好きというわけではないのですが、いろいろ聴いてみて、「やるな、おぬし」と唸らせる良さがあります。フレーニカレーラスも、アイーダやラダメスを歌うには少し抒情的すぎるとの意見もありますが、ただただ「イベント」だの「祝祭」一辺倒の「アイーダ」は、もう卒業してもよいとのカラヤン先生のお考えでのキャスティングです。ちなみに、この録音で鳴り響く「アイーダ・トランペット」は、YAMAHA製!この録音とこの後の公演のため特注されたとのこと。ウィーンフィルと日本との強い結びつきを感じさせるエピソードです。
アイーダ(ミレッラ・フレーニ)
参考CD(4)
指揮:ニコラウス・アーノンクール
アイーダ:クリスティーナ・ライヤルド=ドマス
ラダメス:ヴィンツェンツォ・ラ・スコーラ 他(2001年録音)
アーノンクール(1929-2016)がアイーダ?アーノンクールは古楽器の指揮者として知られています。バッハやヘンデルなどの作品を演奏するため「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス」という古楽器オーケストラを立ち上げます。後年、普通のオーケストラも指揮するようになり、2006年にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と来日したので、お聴きになった方もいらっしゃるでしょう。最後の来日は、手兵ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスを率いての2010年でした。アーノンクールのアイーダを聴くと、まるで宗教曲を聴いているような印象を受けます。CDの解説書の中でアーノンクールは、ヴェルディが「凱旋行進曲」を「インノ=Inno(聖歌)」と呼んでいたことを強く意識して、「アンチ凱旋行進曲」と述べています。声の饗宴と対極にある「アイーダ」なので、好き嫌いは分かれると思いますが一聴の価値あり!
アイーダ(ドマス)