Archive茨城会場 講師レクチャー:米本 一成

かすがい市民文化財団の人材育成

米本 一成公益財団法人 かすがい市民文化財団 チーフマネジャー

1998年より民間企業で地方都市のまちづくり計画に携わる。2005年かすがい市民文化財団宣伝グループスタッフに採用。
宣伝・総務・施設管理のマネジャーを経て、2017年より現職。愛知県公立文化施設協議会セミナー講師も務める。

1. 概要

かすがい市民文化財団の設置されている春日井市は人口31万人の都市です。名古屋のベッドタウンとして発展してきましたが、現在の人口はほぼ横ばいです。春日井市は、ベッドタウンからライフタウンへの転換を図ろうとして様々な施策を展開しています。かすがい市民文化財団の事業は、自主文化事業、市委託事業、春日井市文芸館・春日井市民会館の貸館事業、施設管理の4つの柱で成り立っています。

2. 組織

職員は33名在籍しています。グループは4つに分かれており、それぞれのグループに現場責任者であるマネージャー、係長職が在籍しています。専門職は事業企画の取りまとめを行うプロデューサーと、技術統括の技術長の2人です。会議には、チーフマネージャー、マネージャー、プロデューサー、技術長が出席するマネージャー会議があります。この会議を毎週行い、現場の問題を解決していくために意思決定を早くするフラットな組織運営を心掛けて事業を行っています。無期雇用の正規職員20名の内訳は、男性7名、女性が13名と女性が多い職場です。

3. 職員配置の変遷

2000年に財団が設立されたときは、市の出向職員中心の運営でした。2004年度に指定管理者制度導入の前に、市と財団と協議し、職員配置計画を作成しました。2005年度から3年ごとに採用試験を実施し、市の職員は順次引き上げていきました。現在、在職している市職員も3月で引き上げるため、これで館長職を除いてすべてプロパー職員になります。2012年の労働契約法改正と劇場法の施行をきっかけに、翌年から正規職員の無期化を検討しました。2016年度に在籍していた職員18名を無期雇用へ変更しました。

4. 財団ミッション・事業

事業は6つのミッションに基づいて企画実施しています。ミッションの6番目に「人材育成―はぐくむ」が含まれています。ミッションの中に職員の人材育成について謳っている意義は大きいと感じます。地域に根ざした事業については、「どこでもアート・ドア」というアウトリーチ事業、文化財団サポーター&レポーター事業、自分史事業、若手音楽家&美術家支援事業、文化フェスティバル、市民美術展、道風展、短詩型文学祭などに取り組んでいます。地域との繋がりを表現するメディアとして、情報誌「FORUM PRESS」の発行も行っています。財団職員が顔写真付きで登場します。これは意図的なもので、地域の中に財団を浸透させるには顔を出していくしかない、と考えこういった取り組みを行っています。

5. 雇用形態の見直し

2016年4月に、正規職員全員の無期雇用化を行いました。これは、地域に根差した事業は地域の人との信頼関係が不可欠であり、それには時間がかかるということや、人材育成には時間、労力、費用がかかるためせっかく育成しても辞められてしまっては困る、ということで無期雇用に転換しました。また、再任用以外の嘱託職員制度も廃止しました。様々な身分の人が混在して働いていると待遇も異なり、待遇が異なれば不満に思う人もいます。職責が明らかに異なる無期雇用の正規職員と、1年契約のパートアルバイトの2種類に絞って運営しています。専門職のキャリアアップは、プロデューサー職と技術長職を新設し、これによって専門職が自分のキャリア形成を考えられるようになりました。また、総務グループのプロパー化が大きいです。組織で働く職員が長期的に安定して仕事に集中できる環境を、自らの手で作るということを心がけて運営をしています。

6. 学びの場づくり

若手職員の意見を運営に活かす取り組みとして、自主勉強会を企画実施する「スタッフ会議」があります。若手職員が自分たちで学びたいことを学ぶ主体的な取り組みで、学び成長する機会となっています。「事業企画会議」は、正規職員全員が参加する会議で、誰でも企画が出せる環境にあります。また、年4回、職員全体の研修を行っていますが、この中で頻繁にグループワークを行っています。これは、組織のベクトルを合わせるためです。何をするにも時間はかかりますが、ボトムアップが春日井流だと思っています。

7. 経験を積む機会

「のだめカンタービレの音楽会全国ツアー」に12年取り組んでいますが、このツアーには財団の職員が演出、映像制作、舞台監督を務め、全ての公演に同行しています。オーケストラによるクラシック公演を自館で行うと恐らく年に2本ぐらいが限界だと思いますが、ツアー同行という形で短期的に経験を積むことができます。また、この公演は地元のオーケストラに出演してもらうということもあり、人脈も広がっていきます。最大のメリットは、劇場職員がほかの会館を借りる立場になることです。他館の良いところを自館の運営に活かすという流れを作っています。
最近では、他館のプロデュース事業の制作現場に職員を派遣するという取り組みも始めています。あとは、職員の講師派遣を事業化し、年間の講師派遣回数をカウントして指定管理のモニタリングの際の評価指標に入れています。その他には外部研修に積極的に参加し、外で学んだことを財団内で他の職員に伝えられるよう、普段からよく会話をして風通しのよい職場環境を作るよう心がけています。

8. 他の団体との関係

市内にある外郭団体が連携して「春日井パートナーグループ」を作っています。これを緩やかに運営しており、一緒に研修をしたり、市の職員も交えて市の施策や指定管理について話し合います。市と財団の関係は、職員配置計画で専門性を高めるために財団職員をプロパー化したことで、専門家集団として認知してくれています。市からは市役所の隣にあるため文化芸術以外の相談もたくさんきますが、親身に対応するようにしています。一時期、毎年5%ずつ予算が削減されるということがありましたが、今はなくなり、逆に新しい事業を財団にお願いされることも増えています。こういった関係性を築くことで、市や市民から頼られる存在を目指しています。
最後に、愛知県内の劇場が連携して、人材育成を行っている事例を紹介します。愛知県の公立文化施設協議会という組織で新人向けのセミナーを行っています。各館のベテラン職員6人が検討を重ねて6つのセミナーを開催し、毎回40名くらいの新人職員が受講しに来てくれています。ベテラン職員の経験をもとに、皆で県内の新人を育成していこうという取り組みです。
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