Archive北九州会場 講師レクチャー:鬼木 和浩

横浜市の文化政策と文化施設の関係

鬼木 和浩横浜市文化観光局文化振興課 施設担当課長(主任調査員)

1988年横浜市に入庁。2004年4月から新設された文化芸術都市創造事業本部文化政策課、2006年4月から市民活力推進局文化振興課に配属。「横浜市芸術文化教育プラットフォーム」設立、指定管理者選定、文化施設整備等を担当。2009年4月から横浜市役所初の文化芸術の専門職員に就任。

1. 横浜市の文化施設

横浜市の文化施設は全部で24施設あります。このうち非公募で10年間という指定管理期間にしているのが2施設、非公募で5年間が3施設、公募で5年間の施設が18施設あります。1施設だけPFI事業で、14年間の期間です。これらの施設を財団か、それ以外の民間のどちらが指定管理の代表構成団体になっているかで分けると、財団が8施設、民間事業者が16施設となります。
専門文化施設としての課題は、1つは行政が専門施設の運営を担うのは難しいという点があげられます。例えば美術館の場合、求められる専門的人材があり、ネットワークや美術館ならではのノウハウも必要なため、人材育成の観点からも行政が担うことは難しいと言えます。また、行政の意思決定ラインは美術館の事業内容を決めるのに向いていません。しかしながらもう1つの課題として、自治体が設置している施設であることから、外部任せの放任にもできないという点もあげられます。

2. 指定管理者の公募・非公募のメリット・デメリット

これらの課題を克服しながら運営をしていきたいというのが横浜市の考えです。指定管理者を選ぶ際、公募・非公募どちらにもメリット・デメリットがあります。公募の場合、競争性があって一見良いように思えますが、最終的に総合点でどちらか高い方を選ぶというやり方をするため、全ての項目で最適な事業者を選べるわけではないという基本的な問題があります。反対に、非公募の場合、他に担える団体がないというような理由で非公募にする場合が多いですが、その場合、その団体との関係が曖昧になり、競争性がないため緊張感がなくなるという課題が出てきます。

3. 横浜市の課題解決策

現時点での横浜市の解決策を、政策協働型指定管理と呼んでいます。非公募の専門文化施設では、10年間という指定管理の期間を3年、3年、4年と区切り、それぞれの期間で中期目標を作り、外部委員に評価してもらいます。また、行政と指定管理者が選定後も継続して、政策経営協議会という場を中心に協議を続けていくシステムとしています。提案書を絶対視せず、社会情勢や文化政策の変化に、柔軟に対応していくという考えで、その時の状況を双方で随時共有しています。さらに、馴れ合いの批判を防ぐために、毎年事業報告に対する外部評価を実施し、行政自身の対応もこの評価の対象に含めています。

4. 文化的コモンズ

政策では、「文化的コモンズ」形成に向けた取組を進めたいと考えています。コモンズとは、入会地というような意味ですが、このイメージを文化的に実現できないかと考えています。地域には様々な施設・団体等がありますが、その中で文化施設がネットワークの結節点となり、地域で一つの繋がりを作っていくことに貢献する、そういった役割を担ってもらいたいのです。特に文化的コモンズの中心になってもらいたいと考えているのが、横浜市の18行政区ごとに設置を進めている区民文化センターという施設です。区民文化センターは指定管理者を公募して選定している施設ですが、その「業務の基準」の今後期待される役割に、拠点として地域の文化的ネットワークの形成を牽引することを掲げています。併せて様々な区民の社会参加の機会の創造という、ソーシャルインクルージョンも、区民文化センターに期待することとして書き込んでいます。

5. 事例

「大岡川アートプロジェクト」というアートプロジェクトでは、高速道路の橋脚にアート作品を投影し、日ごろ暗い印象があって人が集まりにくい場所に逆に人を集めるようなイベントを行っています。このイベントの中心になっているのが、吉野町市民プラザという文化施設です。このイベントに町内会の方や地域の様々な方が参加することによって、文化的コモンズが少しずつ形成されてくるのではないかと期待しています。
もう一つの事例は、「横浜市芸術文化教育プラットフォーム」です。これは市内の小中学校、特別支援学校で、芸術体験をしてもらう事業です。こちらは参加者数の拡大に課題があり、担い手としてのコーディネーター確保の必要性から、2008年3月に「芸術文化教育プラットフォーム」を設立しました。NPO法人が担う事務局が、コーディネーターに対象となる学校を割り振り、それぞれのコーディネーターが授業を作っていきます。

6. ネットワーク型ガバナンス

こうした事例の背景には、「ネットワーク型ガバナンス」という考えがあります。近年、文化政策は、行政と財団だけではなく様々な人たちによって担われるように大きく変化しました。その中で、行政はそうした全体をコーディネートしていく役割に変わってきたのではないかと考えています。文化施設、行政、NPO法人といった各主体は、例えば文化的コモンズには参加し、芸術文化教育プラットフォームや芸術フェスティバルには参加しないという施設もあるでしょうし、逆に芸術フェスティバルにしか参加しないNPO法人があるかもしれません。様々な主体が、複数のネットワークに関わったり関わらなかったりするというような地域社会を作ろうとしているのが横浜市の文化政策の全体像です。そのためには、政策実行段階で政策ごとにそれに相応しい担い手を選んでいくことが重要になると考えています。

7. 横浜市の課題

このような状況に進もうとしている政策立案者側、すなわち自治体側の課題の一つは、政策立案者側に強い権限が来てしまっているのではないか、が懸念されることです。また、最適な実行者、執行者を見極められる行政側の専門性が適切に育っているのだろうかということも、もう1つの課題です。

8. 最後に

自治体と文化施設のそれぞれ固有の専門性が必要です。自治体側では政策立案により、市民や議会から合意を得ることが大きな役割になってきます。自治体職員は、市民、地域の状況を把握して、市民の人格形成や地域課題の解決に貢献できるような今後の政策を模索していく必要があります。加えて、施設がその力を十分に発揮できるような仕組みを作り、最適な担い手を把握して選択する、こうしたことを通じて結果的に市民、納税者に対する責任を果たすことが自治体職員に求められます。
一方で、文化施設、財団側では政策を実行する中で、時には行政の想定を超えたものを提示し、文化芸術の力を最大限発揮していくことが求められてくると感じています。
それぞれの専門性を有した自治体と文化施設の健全な対立関係こそが、アウフヘーベンを生み、文化芸術の力によって市民の未来を拓くことにつながると考えています。
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