Archive北九州会場 意見交換会

公開セミナー北九州会場「自治体の政策と地域を牽引する文化施設」意見交換会

横浜市と新潟市における文化政策の立ち位置

横浜市、新潟市はなぜこれほど文化政策に力を入れているのか?
鬼木:私は現在「主任調査員」という肩書ですが、これは「文化の専門官」という意味で文化部署以外には異動しないことになっています。この役職は、それ以前からあった「主任調査員」という制度を活用し8年ほど前に発令されました。横浜市が文化政策に力を入れている背景としては、歴代の市長が文化に熱心であったということがあげられるかと思います。

樋口:新潟市は歴史的文化遺産の多くない都市で、そうした現状に対し、「新潟市に新しい文化拠点をつくる」という方針を当時の市長が掲げられ、「りゅーとぴあ」が建設されました。りゅーとぴあが開館を控えていた頃、私は新卒でりゅーとぴあに採用されました。その当時、市職員の「りゅーとぴあを何としても成功させ、新潟に文化拠点をつくる」という意気込みが非常に強かったことをよく覚えています。私も含めてその当時を知っている職員はそうした影響を強く受けていて、先輩たちが心血を注いできたという気持ちは受け継ぎたいと思っています。

人材育成と内部における情報発信

文化専門人材の育成についてどのような取り組みを行っているか?
鬼木:職場の職員向けに「文化政策講座」を年に2回私が講師として実施しています。また、たとえば文化芸術基本法が改正されたときには、その要旨を作り庁内で周知するといった情報発信を行っています。

プロパー職の確立について

新潟市芸術文化振興財団の任期制は初めからなかったのか?
樋口:準備室を立ち上げる段階で、そもそも任期をつけて採用しようとは当時の市が考えておらず、任期のない若手を採用して育成しようとしていました。今思うと、開館準備もしなければならなかった中で当時の市職員は大変だったとは思いますが、立ち上げの時期を経験させて育てるんだという考えがあったのではないでしょうか。

文化権の保証と指定管理者制度

文化権の保証という観点から指定管理を考える場合、公募と非公募のどちらが望ましいか?
樋口:公募・非公募の問題ではなく、行政が指定管理者に何を求めるか、その求める役割を果たせるのはどこなのか、ということが重要であると考えます。

中川:経営の公開・評価、民主的ガバナンスとその透明性のシステムが整っているという条件付きで、財団は市民財産であるがゆえに競争選定の対象にすべきではなく非公募が望ましいと思います。そうでなければ、地元の文化に明るい人や、キュレーター、コーディネーターといった人材を十分に育成することは難しいと考えます。

財団職員と市の文化担当課の協議

財団職員が市の文化行政担当課と協議する場のようなものは何かあるか?
樋口:定期的な会議はありませんが、不定期に毎日のように行っています。文化政策課の指定管理を担当する部署の職員は、財団の各課の課長をよく知っていて様々な話をしています。双方に課題があるので、新潟市からこういうことをやって欲しいんだけど、という話もありますし、反対にこちらの方からこういうことをして欲しい、という話も常々あります。

鬼木:同じく横浜市でも市内の文化施設とは常時連絡を取り合っています。市と施設の係長クラスと担当職員が、前月の事業報告を受けてやりとりするというモニタリングを毎月行っています。これ以外に、市と施設の部長、課長、係長、担当が出席する政策経営協議会を年3~4回くらいのペースで開催しています。この会議では、日常的な維持管理ではなく、施設の大規模改修の考え方なども含めて翌年度の計画や市側の大きな政策トピックについて話し合われます。

課題

良いお話だけでなく、どのようなところに課題を抱えているか伺いたい。
樋口:1つは、新潟市の財政状況が厳しく、財務的なところで課題を抱えています。開館から大切にしてきた「コンサートホールへようこそ」という子ども向け事業を来年度中止にせざるをえない、という話もあがっているような状況です。子ども向け事業は将来の投資だと思っているので、職員は何とか復活をさせたいという強い思いを持っています。もう1つが人材育成に関することです。私が若いころの上司には、いわゆるワーカホリック気味な人が多くいたのですが、そのやり方では下の世代がついてきませんので、同じようなことを求めず仕事をどうやって引き継いでいくか、ということが課題となっています。

鬼木:行政から見て指定管理者側が消極的だと映るような時に、もう少し積極的に展開してはどうかといった意見をすると、「お金がないからできない」というような返答を受けてこちらが落胆するということがあります。そうした状況の中で、指定管理者と市側の双方の間に一致点を見つけ出していくことが課題であると感じています。

文化の持つ2つの方向性への対応

一般市民向けの事業と芸術性を求める事業について、自治体はどのようにそれらを補っていけばよいか?
中川:神戸市に「神戸文学館」という施設があるのですが、最近にぎわいを取り戻しつつあります。この施設は、文字を書いたりエッセイを執筆するといったことは一般の人でもできるということを教える施設であるとともに、優れた作品や作家の足取りを展示しています。そのため、自分たちでも作家のレベルに到達しようと思ったらできるんだ、という雰囲気がありそこまでのルートが示されているという点で、一般市民向けという特性と芸術性が上手く融合していることが私はすごくいいなと思います。

ノウハウの蓄積

財団と設置自治体の職員のノウハウについて、その蓄積具合は同等であるのか偏りがあるのか?
鬼木:横浜市の場合、ノウハウは基本的に市と財団の双方に蓄積されているといって良いと思います。ただし、政策という形にするのは自治体側であるため、検討段階で財団側に様々な助言や提案をいただいているとはいえ、行政の意向が最終的には通るということが多いように感じています。

樋口:文化政策については、基本的に文化スポーツ部で担当するということになっています。ただし、実際に政策を実行する段階においては、行政側だけでは実現しませんので、その段階で財団側に市の方から相談をいただくことがあります。そこで、財団の意見が通ることもありますので、頭脳としては一義的には新潟市にあるのですが、それを具現化する段階では双方の知恵を出し合おうという形になっています。

子どもを対象とした文化政策

子どもに対しどのようなことに積極的に取り組んでいるか?
鬼木:各学校の子どもの状況を一番把握しているのは担当教諭であると思いますので、まずはその教諭たちがどのような問題意識を持っているかを知ることが第一だと考えます。横浜市の実施している芸術文化教育プラットホームでは、学校教諭の問題意識をもとにプログラムを作り、可能な限り子どもたちにあった内容を提供することを原則としています。そのため、事業実施前の段階で、何度も学校を訪れ、そのうえで子供たちの様子を見てプログラム内容を決めるということもやっています。教育現場における芸術文化への取り組みが薄くなっている中で、教員が自主的に開催している研究会でも、事業の説明を行い、逆にそういったところから協力を求められるような関係性が作られてきています。

樋口:先ほどお話した「コンサートホールへようこそ」は、何とか復活をさせたいと考えているところです。小学生の時にコンサートホールに来たことがある子どもは、皆りゅーとぴあのことを認知してくれます。大人になってもその時の経験が忘れられず、りゅーとぴあで働きたいという人が現れた事例もありますので、そういった子どもへのアプローチは非常に大事だと思っています。りゅーとぴあ専属舞踊団のNoismについても、中学校にアウトリーチをして実際に踊りを体験しようといった事業を展開しています。