Archive名古屋会場 講師レクチャー:下澤 嶽

民間非営利組織のミッションとは

下澤 嶽公立大学法人 静岡文化芸術大学 文化政策学部国際文化学科 教授

(特活)シャプラニール=市民による海外協力の会の駐在員としてバングラデシュへ、帰国後1998年に同会事務局長。2002年7月に退職し、NGO・ジュマ・ネットを友人たちと設立。2006年7月から2010年3月まで(特活)国際協力NGOセンター事務局長。国際協力、NPOの研究以外にも、ビジネス性を意識したフェアトレード、地産地消などの研究も行っている。

1. はじめに

NGOで25年間勤務した実務経験をもとに、包括的な問題提起をさせていただければと思います。ミッション・ビジョンを作りましょう、明確にしましょう、再構築しましょうといった提案に否定的な人はいません。昔は本当に必要ですか、と声を上げる方がいましたが、今はそれを言うことが恥ずかしい時代になりました。
私は、これまでの業務でミッション・ビジョンを考えましょう、ゴールを整理しましょう、というのを7、8回やったかと思いますが、多くの場合、かかわっている組織が肥大化・弱体化し、それを見直すというタイミングだったと思います。
初歩的なことを確認してから本題に入りたいと思いますが、NGO・NPOの場合(財団、公益財団の場合もそうかもしれません)、最初に望ましい活動のイメージが先行します。このイメージがあってこそ、ミッション・ビジョンの言葉と一体化していくのだと思います。しかしながら、活動量が多くなっても共通言語化が組織内でなされていないことがある。そうしたときに初めて、ミッション・ビジョンの確認、必要性が意味を持ってくるのだろうと思います。

2. 上手くいくミッション・上手くいかないミッション

これはダメだなと分かるミッション・ビジョンがあります。それは、美文だが抽象度の高いものです。耳障りはいいけれど、何がしたいか伝わってこないものです。また、ミッション・ビジョンと中長期計画のイメージの乖離がひどい場合も上手くいきません。ミッション・ビジョンを呼んで具体的な次のアクションがイメージできるのであれば、ミッション・ビジョンは組織的にインパクトを持つだろうと思います。

3. ミッション・ビジョンづくりのワークショップ

洞爺湖サミットが行われた際、私はNGO団体を取りまとめるリーダー役を担いました。非常に多様な団体が集まったため、一度全員でワークショップを行ってミッション・ビジョンを明確にしようということになりました。このワークショップには、電通と博報堂にも協力してもらったのですが、様々な立場の人とワークをしながら一つの言葉に収斂させる難易度の高い課題に取り組みました。
その中でうまくいったワークショップが、「明日の朝、あなたの組織がこれまでにない最高の評価で新聞全国紙の一面を飾ることになったと仮定します。それはどんな記事でしょうか。そこにはどんな写真が飾られていますか、掲載されていますか」について、簡単な絵をを書いてみるというものでした。絵があって、次が言葉という考え方のほうが、中期計画にもつながりやすい力を持っているのではないかと思います。

4. 組織の2つのタイプ

行政によって誘導的につくられた中間支援組織が多いことは日本の特徴だと思います。欧米ではこういった形はあまりみられず、あったとしても民間のお金で動かされています。
こういった組織の場合、事業が肥大化し、管理施設が多くなると硬直化が起こりやすい傾向にあります。行政の政策に応じて組織が変わることも多く、そういった変化への対応も必要です。積極的に行政へ働きかけて望ましい組織を維持することもあれば、行政側からトップダウンで変更が伝えられる場合もある。私が見た印象では、こうした組織は規律的、調整的な意味でミッション・ビジョンを考える傾向があるように思います。
一方、市民系の主体的なグループは、組織は小さめで、事業の縮小や弱体化が常に起きやすい傾向にあります。また、職員のやる気が重要なため、その人のやる気につながるような何らかの組織上のスパイスが求められます。そのため、市民系のグループでは、組織の活性化を意識したミッション・ビジョンづくりが目立ちます。
どちらが良い・悪いということではないですが、やはり団体によっていくつか傾向があることを認識すべきだろう、というのがポイントです。

5. 事例

私は、シャプラニールという国際NGOで主に寄付金集めの仕事をしていました。そこでは、わずかなリソースでいかに資金源を獲得するかの使命が中心にありました。また、寄付してくれる市民は同じ仲間であるという話し方、接し方に気を配っていました。ですからミッション・ビジョンは、職員だけでなく協力者の市民も喜ぶ、共感しやすい言葉を使っていました。特に、分かりやすい、伝わりやすい、短いことを注意していました。

6. 最後に

これから作業されるときの重要な要素をいくつか確認します。まず、ミッション・ビジョンづくりにかかわる人の広さと深さです。全員参加が望ましいということを一番言いたいです。同じ時間に全員が関わることは無理でも、分担していくとなど全員の関与が望ましいでしょう。
あとは、タイミングと長さです。私が前に体験したものでは、大体1年間かけて仕上げることが多かったです。タイミングは、何周年記念というものが多かったのですが、前事務局長が離職したためすぐに作らなくてはならない、といった場合もありました。
過去の振り返りの深さ、自分たちの弱点と強みの分析も非常に大きく影響します。さらに、表す目標は、言い意味で楽観的な表現の方がいいものができることが多かったように思います。活動資金の制約は最後に話すようにしています。お金の話をしてしまうと、必ず話題がしぼんでいきますので。お金のことは考えずにまず話せ、ということをよくやりました。ただし、わくわくどきどき感だけでは軽くなってしまうので、本当にやれるか、という最後の引き締めは必要です。
ミッション・ビジョンづくりは、今の自分たちが反映されます。本当に組織を変えたいのであれば、若い人にまかせ、影響力の大きいシニアは確認と修正をしていくといった、引いた形でやることがいいのではないでしょうか。言葉からではなくても、まず絵を描いてみて、それを言葉にするという思考法も大切です。ビジョンを新たにしたところ、活動資金も集まるような空気になっていくことが望ましいと思います。
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