Archive名古屋会場 意見交換会

公開セミナー名古屋会場「地域を育てる民間非営利組織~ミッション・ビジョンの重要性~」意見交換会

行政との関係について

行政の派遣職員が財団から引き上げたことによる弊害はあるか?
渡辺:地域文化課の担当職員とは今も同じフロアで仕事をしているため、密接に連絡を取り合っています。それまで市からの派遣職員が担当していた事務局長を私が担うことになった時、財団職員に任せてもらった以上はかえって連絡を密にしようと思いました。特に、マイナス要因のことこそ相談や報告をしようということは常に心がけています。

文化における評価について

文化における明確な評価指標はどのようにしたら良いか?
渡辺:たとえば「コンサートに何人きました」、「入場料がいくら入りました」といった数値は出せるのですが、それは私たちの仕事の成果を図るうえで適当ではないと思います。数値的に表すことがなかなか難しいのですが、結局のところ市民の方に評価していただくしかない、というのが私の実感です。市からの評価についていえば、立川市の方から財団に多くの仕事が回ってきていることが間接的な市の評価であると考えています。

石田:文化関係団体の計画策定に携わると成果指標の話がよく出るのですが、過度に成果指標を見据えることも危険だと感じています。ただし、コミュニケーションツールとしての評価指標は作らないと組織の変化を定義できなくなってしまうため、ミッション・ビジョンを再定義したときに事業との繋がりを考えてその年の計画を承認するということをしています。また、助成の際は特定の期間にその事業が到達する目標を設定し、毎年その過程を測ることができるように来年、再来年をかけて仕組みを変えようとしています。

下澤:厳密には完全なる評価指標はないという前提で進めていく必要があるかと思いますが、多少の領域では測定が可能です。私が前にいた組織では、1度だけ10年目の量的測定をしました。指標を10個程度設定し、それらの増減やbefore/after、with/without で変化を測ったのですが、この結果は非常に大きな波紋を組織に投げかけました。10年に1度くらい固定指標による何らかの変化をもとに、思い込んでいる情熱が本当に正しいのかを改めて振り返るための予算と余裕があると理想だとは思います。

ミッション・ビジョンと寄付の関係/地域性について

ミッション・ビジョンと寄付の関係について地域性も踏まえつつ伺いたい。
石田:寄付は組織の評価にも直結する話だと思います。ミッション・ビジョンによってその組織が目指す方向がはっきりしていると、その方向性に共感する人は寄付をしやすいように感じます。地域性について触れると、東京では寄付行為に慣れている人が多いかもしれませんが、岡山では特に年配の人ほど高尚なものとして捉えがちです。ただし、テーマが決まっているものには寄付が集まる傾向があると実感しています。寄付で集まったお金というのは、もらうお金ではなく思いのお金であると思います。1つ事例をあげますと、ある方のところへ寄付の提案に伺った際、心の中では100万円くらいいただけたらなと思っていました。そして、そのプロジェクトの内容と500万円規模のものであることを説明すると、その方から「それでは1000万円出します」と言われました。その時、私は「もっと早くやりなさい」という激励に感じ、当初1年間の実施計画であったところを3か月間の計画へ3日間で書き換え再提案しました。つまり、お金はもらうものではなく、一緒に実現したい思いのためのものであって、そのためにはやはり共通のゴールの認識は重要だと考えています。

下澤:地域で寄付を集めるときに「テーマ性」と「属人性」という2つのベクトルがあると思います。一般的に、緊急性と人道性の高いものの方が寄付の説得はしやすく、その点で文化は非常に難しい領域だと感じます。また、地域だと人との距離が近いので、ブランドに頼らずとも誠実な態度を示したり、説明の時間を十分にとれるような距離感でのファンドレイズをもっと考えた方か良いかなと思います。

遺贈について

寄付の1つに「遺贈」という形があるが、それについてはどうか?
下澤:日本に「遺贈」の概念が取り入れられて日が浅いため戦略的な事例はあまり見受けられないのですが、赤十字によれば継続的な「表彰制度」は特に年配の方にとっては名誉なことであり、繋がり感を強くし、1、2%が遺贈に繋がっているという話を聞いたことがあります。日本おいて核家族化、独身化が今後進むことを考えれば、総資産額からみても遺贈を巡った戦略はもっと活発に検討すべきだと思っています。

石田:文化にとって遺贈は親和性のある寄付だと思っていて、特に地域の文化的な活動を続けて欲しいと思う人たちのためには、遺贈も受け入れることをはっきりと表明しておくことが重要です。もう1つ文化の関係で親和性の高い寄付として、企業の周年寄付等は可能性があると思っています。

文化の支え手について

日本の場合、チケット購入者の消費者意識が非常に強く、なかなか支え手としての意識が芽生えない。消費者から支え手へ転換するためにはどうしたら良いか?
下澤:「応援してください」というメッセージを打ち出したり、「このコンサートはこのような仕組みでできている」といったことを伝えて、「あなたが支えている」という方向に文言を集めていく方法があると良いと思います。私が前に所属していた組織では、支援者の方々は自分たちと同じであると思い込む傾向がありました。寄付者を自分たちと対等に扱うとか、同じように議論に参加してもらうという捉え方が強かったために、議論になったことがありました。その際、支援者をランダム抽出して「なぜ私たちを応援してくれるのか?」というアンケート調査を電話で行いました。その答えは「私たちができないからです」「代わりにやってくれるからです」ということで、つまり支援者は私たちと同じではないということが分かりました。スポーツ観戦に例えると、観戦している人も選手と同じようにグラウンドに出てプレーしたいという思いはあるけれど、自分はとてもそこに行こうとは思っておらず、プレーを観戦し感動することで選手と一体になります。そして、「皆さんが応援してくれるからできるんだ」という選手のメッセージを聞いて、観衆は癒されるんです。だから、「観衆(応援する人)」と「プレーヤー(応援を受ける人)」という軸を明確に持つということが、寄付の関係においても必要なんです。また、応援者はずっと1つのものを応援しようという傾向を強く持っているので、コミュニケーションをしっかりとっていくと、固定客化し10年20年の支援者になることも含めて開拓していくという視点が大切だと思います。

組織内におけるミッション・ビジョンの影響

ミッション・ビジョンを掲げることで、組織内にどういった影響があるか?
石田:特に新しい事業を始める際に、「それは私たちがやることなのか?」といった議論が起こったときに、共通の物差しとしてミッション・ビジョンを活用しています。日常の仕事の中でも「つなぐ、つたえる、シェアをする」ということを念頭においています。たとえば、委託のお話が来た時に、他にもっとうまくできる団体があったり、財団の目的と合致しない場合は他を紹介するようにしています。それはまさに「つなく、つたえる、シェアをする」という私たちのやることです。すでにそのサービスが他にあるならば、それを使うことによって、自分たちのミッション・ビジョンを達成するための活動に時間を使うようにしています。

渡辺:ミッション・ビジョンがあることで、「私たちは何のために何をしているのか」ということが少なくとも明確にはなっています。また、将来的にもミッション・ビジョンによってやることが明確になっているので、たとえば市長や担当者の交代によって左右されないという点がありがたいと思います。

協賛金

渡辺:寄付金と違って、協賛基金に関しては年間を通じて活発にいただいています。今年度は、市民の方たちが地元の企業を回ってオペラ事業に数百万単位の協賛金を集めました。寄付という形で年間に数百万円を集めることは難しいのが現状ですが、具体的に事業を明示して協賛でいただくことが現実的であると思っています。お金ではなくとも、事業によってはたとえば市内を回るバスを出してくれる会社があったりもします。