Archive岡山会場 講師レクチャー:鈴木 一郎太

黒板とキッチンの運営と人のつながり

鈴木 一郎太株式会社大と小とレフ 取締役

静岡県浜松市生まれ。イギリスで10年ほどアーティストとして活動後、NPO法人クリエイティブサポートレッツにて、深澤孝史と起草した「たけし文化センター」事業の様々な分野と連携した企画を主に担当。2013年、建築設計から企画、必要に応じてハードとソフトを連動させて扱う会社を、建築家の大東翼とともに設立。過去事業は、コミュニティスペース運営、住宅・店舗等の建築設計、研究事業企画マネジメント、展覧会ディレクション、トークイベント企画、まちあるき演劇作品制作、ゲストハウス立ち上げなど多岐に渡る。2016年より、静岡県文化プログラムのコーディネーターもつとめる。

1. 株式会社大と小とレフ

会社名「大と小とレフ」は、「大」という俯瞰する視点と「小」という個人の目線を行き来しながら、いろいろな物事を参照(refer)して、お客さんに返していく(reflect)「レフ」という意味で、自分たちが仕事をしていく上での戒め的な名前にしています。建築設計や、イベント、プロジェクトの企画や、大小さまざまな特殊案件を扱っています。

2. 黒板とキッチン

「黒板とキッチン」という場所を運営しています。黒板とキッチンがあるという本当にただそれだけの場所で、静岡県浜松市の中心部にあります。2014年にオープンし、その前は私が以前いたNPOが3年ほど実験的にやっていました。機能はコミュニティースペース、レンタルスペース、レンタルキッチンが主で、システムとしては1時間あたりの料金が決まっています。来訪者は1年目の3,000人弱が少しずつ増えていって、4年目の今年は恐らく延べで4,000人位で、だんだんと使ってもらうようにはなっています。主催講座もやりますが、今は持ち込む人を増やそうとしていて、講座は月に2~3回位しかやってない状態です。
レンタルスペースは、きっちりと料金を公開したのが2017年4月からです。最初の2年間は料金を公表せず、「ご相談ください」にしていました。ただのレンタルスペースになってしまうと、レンタル中は一切他の人が入らないですよね。貸部屋の隣の部屋で何をしているか興味持たないのと同じ分断が起こってしまいます。できるだけ、例えば入り口のスペースだけは誰が入ってきてもいいようにしてもらえないかといったやりとりを続けるために、2年間は料金公表せずに、相談を受けるという形でやってきました。
収支はほぼトントンです。収入の多くは駐車場の管理業務です。ビルの社長に話をして、立体駐車場の2人分の業務と費用をもらい、それを収入として人件費に当てています。

3. 万年橋パークビル

「黒板とキッチン」というスペースが入っているのが、「万年橋パークビル」という立体駐車場になります。ネットワークをつくりたいというモチベーションは、商店会長でもある、立体駐車場の社長のなかにあるので、「黒板とキッチン」が拠点化しているし、ネットワークをある程度回していこうという目的になっています。
10階建てのビルで、1階にテナントスペースとオフィススペースがあって、2階から7階までが駐車場です。9階、10階に住居があり、8階は駐車場としてほぼ機能させずに、フリースペースになっています。建物の東側は、オフィススペースで、その内ひとつは能の練習ができる能舞台になっています。そして1階に黒板とキッチンがある。また7階にはショップ、工房のような形で、透明のキューブに入居している人がいます。8階がフリースペースになっていると言っても、整備はされてなく駐車場のままで、唯一古民家の二間分を移築した囲炉裏があります。火を使って鍋を囲んだりできるようになっています。要は、活動の受け皿ばかりです。フリースペースも、工房も、コミュニティースペースも、能舞台も、全部何かしらの受け皿なのです。ビル自体が全部、人の活動を受け入れるためのものを用意しています。
もともとは市営の駐車場だったのですが、民間が買い取ってこの形になって、最初の3年で稼働率が4倍になっています。そこから4年、5年ぐらいずっと右肩上がりで上がっていて、一時期少し横ばいになりましたが、下がることはないみたいですね。マルシェやトークイベントやライブや、いろいろなイベントがありますが、車で来て駐車場にとめるので、結果的にそこが潤っていく。その活動の受け皿を緩い感じに開いていると、壁で仕切られているわけではないので、横の活動が見えたり、たとえば真ん中に囲炉裏があって、こっち側で何かのイベントがある、向こう側で何かのイベントがあるときに、声が聞こえたり干渉し合ってしまう。そこを主催者同士の話し合いにしてもらうのです。そうすると全然知らなかった人の活動を知ったりするし、ものすごく緩いつながりができてきます。顔見知りになっていったりすると、突然何かを一緒にやり出したりします。そういう偶然が起こる確率が上がる。黒板とキッチンは意図的に仕組みましたが、ビル全体は戦略を練ったわけではないのですが、うまくいっています。

4. 多様なものの受け皿

「黒板とキッチン」については、一応目的設定はしています。まちのことを考えている社長の話を聞いて、こんなことだろうと推測しているのが、雑多さが特長の商店街をより雑多にするということ。雑多な状態のままなので方針は一切ないのですが、逆にそれが強みになっていて、商店街自体が本当に多様なものの受け皿になる。一方で、商店のほうを見てみると、実は多様性をつくるっていうことがプラスに働いている部分もある。プレイヤーを増やす、街を遊べる人を増やすとか、自分のクラスターのなかでは会わないような人たちに会うとか、何でも受け入れてくれる受け皿があるというのは、使う人次第でものすごく面白くなるので、だいぶ試されます。
お金の匂いがしないとよく言われますが、それがうまくいっている秘訣なのだろうと思います。それから人が人間としてつながります。職種とか肩書とかでつながることはあまりなく、様々なバックグラウンドや肩書、知恵を持っている人たちが混在して、人間としてしゃべっているので、刺激が多いですね。自分の業界ではない人なので、変に崇めたてないで、単純に人として尊重して話を聞くし、自分もそれに対して反応するみたいなことが普通に起こっています。
運営は基本はアルバイトで回していて、彼らスタッフの興味や気質によって雰囲気や企画や方針は変化します。料金設定などいろいろなシステムがありますが、全部ただの窓口です。食指が動くネタは人によって違うので、中に入って混ざるということにつなげるための窓だと捉えています。そういう手抜きのプロデュースをしています。会社としてのメリットは、外部から関心を向けてもらえます。ちょっと雑多な職種の人との出会いもあります。あとは拠点の立ち上げ関連の仕事が来たりということもあります。

5. ネットワークの場

場があると、初期の関係性の構築の機会になりやすいと思います。場がないと、基本は友人関係でネットワークは保たれ、とても曖昧な目的か、またはとてもきっちりとした目的か、どちらか両極でないと、遠く離れている人とのネットワークは、どこかで切れてしまうような印象を持っています。
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