Archive岡山会場 講師レクチャー:山本 麻友美

京都芸術センターのネットワークづくり

山本 麻友美京都芸術センター チーフプログラムディレクター

2017年度は、主に京都芸術センター事業の統括と東アジア文化都市2017京都「アジア回廊 現代美術展」のキュレーションを担当。専門は現代美術、メディアアート論。2000年の開館時からアート・コーディネーターとして伝統芸能やアーティスト・イン・レジデンス等の事業を担当。京都で文化芸術を支える活動を行う専門家による京都文化芸術コア・ネットワークや、アーティスト・イン・レジデンス関連施設・団体のKYOTO AIR ALLIANCEの立ち上げにかかわる。

1. 京都芸術センターの概要

京都芸術センターは、京都のまちなかのとても便利なところにある建物で、元明倫小学校をリノベーションしてつくられた複合型の文化施設です。芸術センターの一番の特徴としては、貸館をしていないことが挙げられます。事業は、自分たちで考えた自主企画で、基本的に買い公演や場所を貸すだけの企画といったものは実施していません。また、制作室と呼んでいるスタジオを創作の場所としてアーティストに無料で提供しています。使用に際しては審査があり、使用条件として、市民の方に向けてワークショップを企画して実施してもらっています。また、ジャンルを問わない、若い世代の芸術家の創作活動の支援がメインの活動になっており、加えて、芸術家と市民あるいは芸術家同士といった、いろいろな人との交流の促進と、情報の発信が活動の柱と考えています。
芸術センターの運営趣意書のなかに、「るつぼとなることを企図する」と書いてありますが、もともと出来たときから、私たちは常に雑多であることを目指しています。いろいろなものが混ざることで、そこからエネルギーが生まれ、新しい創作につながるのではないかと考えて活動をしています。ジャンルを問わないというのも同じ理由からです。美術も伝統芸能も演劇もやるし、さらにそれらが混ざったものが大好き。複数のジャンルにわたるさまざまな形態のものを、同時並行で行っている施設と言えます。

2. 京都芸術センターのもつネットワーク機能
-地域、ボランティア、アーティスト、専門家、アーティスト・イン・レジデンス

芸術センターが持っているネットワークには、場所があるなしによって、ややつながりや活動の内容に強弱や濃淡があると思います。まず地域、京都には学区制度というものがあり、何をするにでも学区のつながりがとても重要です。芸術センターが開設したとき、私たちは地域、特に明倫学区のみなさんと仲良くしたいと思っていたけれど、先方は自分たちの建物が知らない人たちに乗っ取られたと感じていたらしく、多少の軋轢がありました。最近は解消されていますが…。元々、明倫小学校自体、国や京都市が作る前に自分たちで作ったもので、建物も京都市のお金ではなく、地域の方たちの寄付で建っています。現在でも、地域のみなさんは、私たちにとってはとても重要な鑑賞者であり、サポーターであると同時にお目付け役でもあります。
また、ボランティアスタッフには、300人ほどの方に登録をしていただいていて、私たちにとって重要なネットワークになっています。京都で行われている芸術に関するフェスティバル間でのボランティアスタッフの活用というのが、重要かつ有効な仕組みになりつつあると考えています。京都にはもともと「虹の会」という京都市内博物館施設連絡協議会の講座を受けた人たちが登録しているボランティアのネットワークや、京都市が主催する文化ボランティアなどがあります。かなり母数が多く、芸術や文化に興味をお持ちの方はみなさん、だいたいどれかに関わっており、京都のアートシーンをさまざまな場面で支える層として活躍していて、かつ厳しい目を持った鑑賞者としても機能していると思います。京都市の文化ボランティアの仕組みが自立して、すべてを統括してくれると、どの施設にもどのフェスティバルにも潤沢に人が回るシステムができるのにと思いながら、まだそこにはたどり着いていません。ただ、どのフェスティバルに行っても、芸術センターのボランティアスタッフがいる、という状況にはなりつつあり、情報交換やノウハウの蓄積という面では心強い存在です。
アーティストについては、制作室連絡会というのを毎月行い、そのときに施設を使っているアーティストに全員集まってもらい、連絡会をしています。ジャンルやフィールドが違っても皆が知り合いという状況が生まれています。
また、私が所属している京都市芸術文化協会(約260の団体・個人会員が所属)は、京都芸術センターの指定管理者ですが、元々は京都の様々なジャンルの芸術家が自分たちでつくった京都市文化団体懇話会(1959年設置)がもとになり、それに京都市が出資をして財団になったという経緯があります。芸術センターの運営管理を開設当初から行い、途中から指定管理者になり公益法人になっていますが、現在も岡山県文化連盟(本講座受講)と同じように、芸術家や団体を会員として抱える少し特殊な団体です。また現在は、会員の高齢化という問題を抱えています。
専門家のネットワークもいくつか持っていて、そのなかの1つが京都文化芸術コア・ネットワークという、京都で芸術文化を支える活動を専門的に行っている人たち(ギャラリスト、研究者、ジャーナリスト、財団職員、制作者等々)の緩やかなネットワークです。強いイニシアティブを持って活動に取り組んでいるわけでもなく、なんとなくみんな知り合いという状況をつくっているネットワークです。2011年の国民文化祭を受けて作られたもので、組織化のモチベーションは京都市が持っていました。このネットワークの運営を京都芸術センターが行うことになった時に、目的が違う人たちが集まっているため、それらをつなぎ合わせるために何が必要か、ということを考えました。ネットワークにおいて、「何を共有するのか」ということがとても重要だと思います。要するに、それぞれあるシナプスをつなげていくために、そこに流す栄養は一体何かということです。情報や理念、人材、場所を共有するためにつくられるようなネットワークがあるだろうし、あとはお金ですね。とても難しいところだと思いますが、何を共有するのか、によって性質は変わってくると思っています。さらに、京都文化芸術コア・ネットワークについては、継続性を重視していて、私ともう1人コーディネーターの2人で担当をしていますが、すごく省エネで、あまり次に引き継いでいく人に負担がかからないような仕組みにしてあります。それは同時に、担当者のイニシアティブの取り方、どの辺のところを落としどころにするかが、その時々で変えられる仕組みでもあります。何かをしたいと思った時には役にたつかもしれないけれど、何かしたいと思う人がいなければ何も起こらないというようなネットワークで、現在のところは、京都での芸術文化に関する情報を共有するためのメール・ニュースを不定期で発信しています。
また他には、国内外のアーティスト・イン・レジデンス関係の施設や団体のネットワークというのにも、力を入れ始めている状況です。京都のアーティストを海外に接続していくために、海外のネットワークを強化することに注力していた時期があって、成果が出始めています。ただ、個人的には、国内にあるレジデンスの施設・団体間のネットワークには当初懐疑的で、本当にそれが必要なのかと思っていました。海外のアーティストは、日本の中でいずれかのレジデンス施設・団体を選択し応募するので、国内の施設・団体はお互いにライバルだと思っていて、その人たちとネットワークをつくることの意義を見出せなかった。しかし、海外からみると、日本のアーティスト・イン・レジデンスの拠点にどういうものがどこにあるのか全然見えない、わからないと指摘され、そうであればネットワーク化して見えるようにするということにも、意味があるのかなと今は思っています。さらに、ノウハウを共有することで、事業自体のアウトソーシングができるのではないかと考え、新しい可能性も感じ始めている状況です。
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