Archive岡山会場 講師レクチャー:佐藤 千晴

大阪アーツカウンシル ネットワーク形成の課題

佐藤 千晴大阪アーツカウンシル 統括責任者

1962年東京生まれ。85年朝日新聞社に入社。徳島支局を振り出しに大阪本社・東京本社学芸部などに勤務。クラシック音楽や宝塚歌劇を中心に、生活文化や街についても取材を重ねた。2013年4月に退社、同年6月、新たに設立された大阪アーツカウンシル(大阪府市文化振興会議アーツカウンシル部会)の統括責任者(部会長)に公募で選ばれた。

1. 大阪アーツカウンシルの概要

今アーツカウンシルは日本に少しずつ増えています。最初にアーツカウンシルができた「第1次ブーム」が2012年、13年頃で、大阪アーツカウンシルも2013年にできました。「第2次ブーム」は2016年からで、文化庁が助成を始めたからです。少しずつアーツカウンシルが日本に増えていて、地域の文化の振興のハブ、拠点になろうとしています。
アーツカウンシルは大きくは、文化財団の一事業として運営されているアーツカウンシルと、そうではないタイプのアーツカウンシルに分かれます。多くは文化財団型ですが、大阪アーツカウンシルはそうではないアーツカウンシルです。どういう形かというと、審議会で、条例に基づいて知事や市長といった自治体の長に、さまざまな意見を具申するために作られる組織です。大阪府と大阪市が共同で設置した文化審議会「大阪府市文化振興会議」の専門部会として生まれたのが大阪アーツカウンシルで、審議会方式といいます。運営メンバーは、統括責任者が1人、委員が4人、他にアーツマネージャーという、大阪府・市が出している助成金を使って事業をしている団体の事業を視察・報告する人が、登録制で今20人位います。常勤がおらず、私が一番アーツカウンシルの仕事をする機会が多いですが、それでも週に3回か4回です。オフィスは大阪府立江之子島文化芸術創造センター(愛称:enoco)にありますが、5年目(2017年)にようやくできた拠点です。
審議会は基本的に会合をするためにできている組織なので、事業をするための人と予算はありません。場所も会議室などを持っているわけではありません。人がいない、場所に恵まれない、お金が自由にならないという組織が、どうやって何かをしていこうかという話です。大阪府・市が作った組織図「大阪アーツカウンシルの体制」では、一番上に知事や市長がいます。知事、市長の諮問機関として大阪府市文化振興会議があり、そのなかの専門部会としてアーツカウンシル部会があるという構造になっています。

2. 大阪アーツカウンシルのミッション-<審査・評価><調査><企画>

大阪アーツカウンシルは、文化行政を円滑に進めるという目的を掲げているので、行政寄りです。具体的な使命は、3本柱があります。1つは<審査・評価>、2つ目に<調査>、3つ目に<企画>です。
<審査・評価>に関しては、大阪府も大阪市も文化関係の公募型助成金があります。この助成金の予算化、お金のやり取りは、大阪府・市がしていますが、公募した事業の採択審査の部分をアーツカウンシルが担っています。大阪アーツカウンシルの委員と外部の委員で、審査委員会を編成しています。アーツカウンシルができてからは、採択した団体の事業を見に行きレポートを書き、それを次の年の審査や、助成金の事業設計に生かすというフィードバック機能もできました。また、大阪府・市の主催事業について、意見を交わしたりコメントしたりの「評価」も行っています。(大阪府「おおさかカンヴァス」事業、大阪市「大阪クラシック」事業等)
<調査>機能は、民間シンクタンクのような大きな調査はできないのですが、例えば、大阪府・市がしてきた文化事業を、文化振興計画の求める方向性にひもづけて一覧表にしました。明らかな空白部分があり、特にコミュニティや地域をつくるタイプの事業を増やした方がいいと大阪府・市に提案をし、事業も生まれました。また、調査という形で、助成金について知ってもらうためのフォーラムを行い、民間の財団の方などを呼んで話をしてもらい、内容を冊子にまとめ、多くの人に見てもらえるようにしました。
<企画>は、アーツカウンシルでは、先ほどの文化事業の空白部分で、コミュニティ、地域、ネットワーク関連の事業が少ないことに少し心を痛めておりました。特に、演劇の人は演劇で、音楽の人は音楽で固まってしまい、異なるジャンル間の交流がないという傾向が見えました。ジャンルを超えてネットワークを作り、そういうネットワークを促進する世話人のようなプロデューサーを育成する事業を、大阪府・市でしてはどうかという提案をしました。その結果生まれたのが、「芸術文化魅力育成プロジェクト」です。これは大阪府と大阪市が本格的に組んで新しく始める事業としては第1号でした。(芸術文化魅力育成プロジェクト:2015年度「中之島のっと」、2016年度「ストリートダンスONPS」、2017年度「Osaka Creative Archipelago」)

3. 大阪アーツカウンシルのネットワークと課題

<企画>は、審議会としてスタートしたアーツカウンシルが、予算も持てる財団等になり、大きな事業をやれたらいいなという意味もこもっていたと思うのですが、残念ながらその道は見えていません。人もない、お金もない、場所も十分でないアーツカウンシルに何ができるか?というときに、交流、ネットワークに力を入れた方がいいのではないかということになりました。「あつかん談話室」と名付けた交流サロンを、毎月1回のペースで開催しています。enocoの共有スペースを借りて、月に1回トークサロンをしています。これは自転車操業で、1年間のラインナップが決まっているわけでもなく、少しずつ新しいネットワークを作ろうとしています。
では、どこにどうやってネットワークを蓄積していくのか? それが大阪アーツカウンシルが今直面している課題です。先ほどの「芸術文化魅力育成プロジェクト」は、毎年違う事業者がやっています。単年度予算なので、時間のないなかでの委託には限界があります。文化事業には、2年、3年の仕込みは必要です。しかしそれを単年度で、しかも外部に委託してやらなくてはいけないというのが、今、大阪府・市が抱えている課題だと私は思っています。「あつかん談話室」は小さな集まりですが、丁寧にレポートしてウェブで発信することで、ゲストの方の財産にもしてもらえます。また、検索サイトの上位に来るように、いろいろ工夫しているので、これで情報を見て初めて知ったという方もいらっしゃいます。このように工夫を重ねながら試行錯誤したものが、大阪アーツカウンシルのネットワークの現状です。アーツカウンシルの小さな拠点は、定員5人の会議室ですが、拠点があると人が来てくれますので大事だと思います。

4. 府立江之子島文化芸術創造センター(enoco)と大阪アーツカウンシル

大阪府立江之子島文化芸術創造センターは、2012年にできました。「Be Creative」をキーワードに、都市の魅力の創造、次世代の創造、産業の創出といった事業領域を設定しています。民間の企業が指定管理者ですが、とにかく収入を上げることを大阪府から言われるようです。教育事業では、「enocoの学校」と称して、さまざまな講師を招いて次世代のクリエイターを作るということもやっています。そういうプラットフォーム、皆が集まって課題を解決する土台を作ろうというのをミッションに掲げているアートセンターです。
大阪アーツカウンシルとenocoの関係についてですが、大阪アーツカウンシルは、大阪府と大阪市が共同設置した審議会で、enocoは大阪府の施設です。指定管理者は財団ではなく、民間の企業のJV(Joint Venture:共同企業体)で、施設管理をする人々と企画をする人々とが知恵を出し合って運営しています。アーツカウンシルとenocoが連携する話は、なかなか進みません。相互に交流はあるのですが、審議会と指定管理施設には壁があるのが現状です。
アーカイブ・2017年度公開講座のページへ移動します。
事例集から入られた方はブラウザバックでお戻りください。