Archive岡山会場 意見交換会

公開セミナー岡山会場「多層的ネットワークと拠点づくり」意見交換会

多層的ネットワークについて

各講師が関わるネットワークの多層的なところは?
(「多層的」=地域、国内、海外、個人、団体など、ネットワークの主体における多様性と捉える)
鈴木:黒板とキッチンに普段から来る人は、主に地元在住で近隣にいる人ですが、外から来る人が特に多層的かと思います。経産省や独法法人、他県からの視察での行政関係者、大学の先生、黒板とキッチンの入ったビルの社長が連れて来る、企業の関係者やそのお客さんなど…。

山本:京都芸術センターでは、海外へのネットワーク形成に注力したことがありました。海外のアートセンターやキュレーター、プロデューサーのネットワークは、私たちが支援したいと思っているアーティストのためにあると思っていて、最近ようやく海外のレジデンスの施設とエクスチェンジをしたり、アートセンターと一緒に事業をできるようになってきました。地域の人も、国内も、海外も、全部一緒に並行して、広げていくというようなことをしないといけないのかと思っています。

佐藤:大阪アーツカウンシルが目指したのは、ジャンルごとの「たこつぼ」解消でした。「あつかん談話室」や「芸術文化魅力育成プロジェクト」で実現したいと思っているのは、演劇だけでなく、美術だけでなく、音楽だけでなく、あるいはアーティストだけなく、参加者、創造する人、鑑賞する人が雑多にまじり合えるような場づくり。分野を超えた交流から何かが生まれることもありますし。

佐藤:メーリングリストや、意図的に人を集める会合などですと、頭の中にあるネットワークしかできず、予想外のネットワークが生まれません。何か雑多なものが欲しいのなら、いろいろな人が動くような具体的な場があったほうがいいというのを、(他講師の話を聞いて)痛感しました。

既存のネットワークと新しいネットワーク

既存のネットワークと新しいネットワークとの間にある葛藤や、それの対策は?
鈴木:例えば商店会や同業者組合など、経済的にいい時代につくられていたものが既存のネットワークとしてある気がしています。商店会費を毎月徴収していて、当時は年1回温泉旅行へ行くとか、商店会事業に使うことをしていました。新しいネットワークは、お金を集める仕組みをとっていないので、ネットワークをつくり何かを一緒になってする先頭に、誰かを立たせると役回り的に少し申し訳ないということがあります。漠然と知り合い、気が合った人たちは仲よくなっていくような、自発的な繋がり方に任せる形の消極的なネットワークのつくり方をせざるを得なっていて、それで緩くなっていると思います。

山本:京都市芸術文化協会は、あらゆるジャンルのお家元や人間国宝等の重鎮の先生も会員として参加している団体です。会員になるためには、二人の会員の先生の推薦が必要です。それとはまったく異なるネットワークとしてつくったのが、「京都文化芸術コア・ネットワーク」です。会費を集めず、入りたいと言う人は誰でも入れ、Webとメールだけで情報を発信するといった真逆に振り切った形を試しています。

佐藤:大阪には文化団体連合会があります。また、クラシック音楽ホールやオーケストラ、音楽事務所の人たちの関西のネットワークがあり、小劇場系演劇人のネットワークもあります。そこで、他の業種との交流を話しても反応がないのです。既存の文化団体の人に、新しいネットワークの必要性を感じ、新しい仕事をして、今の時代と一緒に生きていこうというモチベーションがあるかというと、なかなか難しいです。今の大阪の文化状況をもう少しよくするためには、人が交流する別の窓口が必要なのではないかと思います。高齢化も問題ですね。

文化・芸術以外での拠点について

ネットワークの拠点は、芸術や文化だけでなく、商店街や大型商業施設も策を練っているようだが、そのあたりはどうか?
鈴木:商店街や写真屋組合といった既存のネットワークは、恐らく設立から50年位は経っていて、その団体の設立の目的が変わってきているのは当たり前です。変えないといけないと現場は思っていますが、理事会には話が通らず、でも若い人を入れたいと言われる…、そこにずれがある気がします。ただ、現場の判断は結構強くて、現場の人たちがその時代に合わせた目的に変えるという意識を持っているか持っていないかというだけで、随分変わると思います。例えば事務職にしても、事務仕事はもちろんするけれど、事務以外の個人的な特技や興味あることが活かせるゆるみをつくることで変化が生まれるはずで、その団体も変わる。文化施設に限らず他分野の団体をみても、構造的には一緒のように感じます。

佐藤:大阪の事例では、コミュニティづくりに、元気のいい30代が集まって「スーパー町内会活動」をしています。大阪の町内会の協議会の集合体は結構強いですが、若い世代は、既存のネットワークを否定しないで町内会に加入し、運動会でテントをたてるといった地味な仕事もします。人気テーマパークUSJに近い大阪市此花区の町工場や昭和の住宅が混在するエリアに建築事務所を構える「スーパー町内会活動」のドンのような人が世話役となって、アーティストが次々に住み着き、集住区域にしてしまった例があります。

地域の人をどう取り込んでいくか?

京都芸術センターでは、近所の人にギャラリーの監視を急にお願いし、それがきっかけで言葉を交わし、味方になってくれたということ。地域の人を取り込むための具体的なノウハウは?
山本:日々挨拶をし、声をかけてというところからですね。朝、センターの前の道にゴミが落ちていたら、近所の方が掃いてくれて、それを一緒に掃除したり…本当に地道な感じですよね。あとは、何でもいいから事業に一回でも参加してもらうと理解が広がるように思います。普通にコンサートや展覧会に来てもらうということもありますが、京都芸術センターではコミュニティーダンスの事業をした際に、自治会長さんや体育振興会の会長さんがダンサーとして参加してくれました。その時から関係としてはさらに良好になりました。

ネットワークの可能性と課題

片山:多層的ネットワークを考える際にキーになるのは、地域間のネットワークと、音楽、演劇といった分野のネットワーク。もう一つは、マーケティングや技術といった、機能的なネットワーク。三層くらいのネットワークが絡む拠点になると、力を発揮すると思います。
片山:基礎自治体と違い、広域自治体レベルのネットワークの拠点をつくるというのは、なかなか難しく、その際、拠点にいる人が一番問題ではないかと思います。拠点にいる人が各地域とつながっていて、皆がつながっているという状態がつくれるといいと思います。
佐藤:様々なNPOがあるなかで、「NPO渡り鳥壊し屋さん」がいるのですね。承認欲求がとても強く、えてして男性が多く、非常に熱心だが周りの人と歯車が合わない…。その人一人がいることで、周りのネットワークが全て壊れ、NPOが立ち行かなくなったという話を聞きます。そういう人が出てきたときに、最初の目的を掲げたまま、皆でネットワークを保持していくのはなかなか困難です。
佐藤:ネットワークは個人についてしまいがちですが、黒板とキッチンでは、スタッフのキャラクターに合った運営の仕方や、人の集まり方でよしとしています。そういうタイプの緩やかさが、多層性につながると思います。緩さと広さ、いつか何とかなるぐらいの楽観性があったほうがいいかと思います。
高島:緩やかさや多様性を考える際に、決め込まないというのが重要なポイントで、それが従来型のネットワークと大きな違う点で、今の社会で求められていることかと思います。それを人につけずに続かせることは、すごく難しい。どんな人がしても、緩やかさや多様性が保たれることについて、考えていきたいと思いました。