Archive静岡会場 講師レクチャー:藤井 さゆり

アートNPO・芸術公社の活動

藤井 さゆり特定非営利活動法人 芸術公社 コーディネーター/制作

2011年より「フェスティバル/トーキョー」に制作スタッフとして勤務。都市空間で展開するパフォーマンスプロジェクトの企画・制作を担当。14年からはフリーランスとして、アートプロジェクトのコーディネートや舞台制作を行う。16年より芸術公社メンバー。

1. 特定非営利活動法人 芸術公社について

アートNPOである芸術公社が、どういう理念で活動していて、どのようにパートナーと一緒に事業を推進しているのかを、お話ししたいと思います。
芸術公社は、2014年に設立された法人です。フェスティバル/トーキョーという舞台芸術のフェスティバルの初代ディレクターであった相馬千秋が中心になって立ち上げました。異なる専門性をもった人たちによるコレクティブとして活動をしています。ミッション事業型NPOのため、何かを依頼されて事業を行うということはほとんどなく、基本的には自分たちが社会に問いたいアート、芸術と社会の関係性において立ち上がってくるプロジェクトを企画し、文化庁や自治体、助成機関、諸外国の文化団体などのパートナー組織と連携して展開しています。主な活動地域は国内各地、アジアで、2017年度の予算規模は3,500万円程度です。芸術公社はプロデューサー、キュレーター、パブリシスト、翻訳、編集など、異なる専門性をもつ15人のメンバーで活動しています。メンバーはいつも一緒にいるわけではなく、プロジェクトごとにユニットを組んで事業を展開しています。

2. ミッション

日々活動をするなかで考えていることは、まず1番目に「新しい公共」を提案し体現するということです。インディペンデントな形で、個と公を繋ぐようなことをやっていくことが理念にあります。個でありつつも、社会とつながるため、パブリックに問うことも目指さなければいけないという意識を持っています。既存の公共の考え方では担えない部分を「新しい公共」として提案し、体現していく活動をしています。
2番目は1番目に付随する問題意識ですが、(代表理事の)相馬は社会を予言して内側から食い破っていく力は、日々、芸術の実践を繰り返していくことでしか生まれて来ないとよく言っています。問題を提起する力を自分たちNPOに課し、その方法論を更新し続けることが重要と考えています。
3番目は、1番目と2番目の理念を体現するために、異なるスキルを持つメンバーがプロジェクトごとにユニットを組んで活動しているということです。4番目は、アジアにおけるプラットフォームを目指すことで、インディペンデントな立場のアジアで活動している人たちと相互に関係し合うことが大事と思い、彼らとの繋がりを作っていきたいと思い活動しています。
このような理念の基に実際にいろいろな事業を行っていますが、事業を分けると「プロデュース事業」「シンクタンク事業」「教育・基盤整備事業」「メディア事業」の4つのカテゴリーになります。単発で終わっているものもありますが、継続的に続いているものでは、プロデュース事業の「THEATER COMMONS TOKYO」や、教育・基盤整備事業の「THEATER COMMONS LAB」や「r:ead」が特徴的な事業形態で、事例としてお話していきます。

3. 事例①-「THEATER COMMONS TOKYO」

シアターコモンズは港区との共催事業で行なっているものです。もともとは2015年にレクチャーパフォーマンス・シリーズという、劇場の概念を拡張したいという思いで立ち上げたプロジェクトでした。NPOができて間もない頃で、すぐにパートナーを組んでくれる相手はあまりいませんでしたが、「SHIBAURA HOUSE」という、港区内にある広告会社が持っているスペースを使って、いろいろなことをやりました。港区は諸外国の文化施設も多いエリアなので、そういったところとパートナーシップを組んで連携していけばいいと1年目に思い始め、2016年には台湾文化センターやドイツ文化センター、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセというような、諸外国の文化機関と一緒に事業を展開するところまで行き着きました。
2017年度も2月22日~3月11日まで、フランス、ドイツ、オランダ、台湾、マレーシアといった諸外国のアーティストを招いたプログラムを実施します。港区にある慶應義塾大学のアートセンターも今年から共催に入っていただきました。実施体制としては、港区に拠点をもつ国際的文化機関と芸術公社が実行委員会を形成し、港区と連携しています。諸外国の文化機関は、基本的には実行委員会の予算を分担しています。港区からもお金をいただいています。また諸外国の文化機関は、直接その国のアーティストのプログラムに対して資金援助する場合や、場所の提供、現場での人的サポートをするなど、様々な形で協力いただいています。2016年から2021年のロードマップに細く目標を立て、それぞれの連携機関と共有をしながら進めています。まだ2017年度は2回目なので、今後は振り返りながら改善すべきところは改善し、ブラッシュアップしつつ進んでいければと思っています。

4. 事例②-「THEATER COMMONS LAB」

シアターコモンズ・ラボは、文化庁委託事業「平成29年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」です。2015年度から継続的に提案した企画が文化庁に採択され、芸術公社に業務委託されるかたちで、事業を運営しています。先ほどのシアターコモンズも、ワークショップなど参加者と一緒に考えていくものではありますが、シアターコモンズ・ラボの方がより一層人数を限定し、私たちと同じようなことを考えてくれる人たちと一緒に、悩みながら実験していくような場として企画しています。ワークショップがメインですが、作品未満やプロジェクト未満のものに芽が出るよう、一緒にやっていく形で運営しています。通年の事業で、私たちと一緒に何かを作ることを、長い期間かけてする人を育てていく、見つけていくような場にもなっています。
ここに至る変遷としては、2015年に「みちのくアート巡礼キャンプ」という企画が文化庁に採択されましたが、これを2016年も少し予算を大きくして実施しました。この2年間の実績を作った上で、事業規模を拡大してシアターコモンズ・ラボという通年の事業として実施することにしました。3年目に規模を拡大し、私たちのやりたいことが徐々に実現しているという感覚は持っています。

5. 事例③-「r:ead」

「r:eadレジデンス・東アジア・ダイアローグ」というプログラムは、2014年は台湾、2015年韓国、今年は香港で実施されたもので、東アジアに特化して、日本、韓国、中国、台湾の4カ国をメインに、アーティストとキュレーターが一堂に会し対話やリサーチをしながら自身の活動の芽を耕していくものです。企画運営チームとしては、開催地の芸術公社のようなインディペンデントな組織の人がディレクターになり、これまでに参加した過去のディレクターたちが共同ディレクターとして名を連ねています。2017年は香港のチームがディレクターで、主催も彼らの団体で芸術公社は共催となっています。基本的にはそれぞれの国の団体がホストになって、プログラムを実施するという形です。ファンドレイジングについても、その国々で行われています。

6. 寄付

芸術公社では寄付は募ってはいますが、専門のスタッフも常勤スタッフもいないので、手が回っていない状態です。そろそろ法人として次のフェーズにいかなければいけないので、もっと違うお金の集め方を目指していこうかという話が出ているところです。
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