Archive静岡会場 講師レクチャー:澤田 澄子

企業による芸術支援

澤田 澄子公益社団法人 企業メセナ協議会 事務局長

慶應義塾大学卒業後キヤノン株式会社入社。社会貢献推進室長、社会文化支援部長、CSR推進部長を歴任。退職後、2017年3月公益社団法人企業メセナ協議会事務局長。日本NPOセンター評議員。静岡県文化政策審議会委員。

1. 企業メセナ協議会について

企業メセナ協議会は、「企業をはじめ芸術文化に関わる団体が参加、協働し、芸術文化振興により創造的で活力にあふれた社会、多様性を尊重する豊かな社会の実現に寄与するための公益社団法人」と定義されています。設立は1990年です。2011年に公益社団法人に移行し、メセナを芸術・文化の振興による社会創造と定めて、目的・事業を再構築して現在に至っています。
企業メセナ協議会の主な事業は、①助成、②認定・顕彰、③調査・研究、④情報発信・提供、⑤政策・提言活動と5つあります。最初の3つを重点的に主な柱として充実させ、時代に合った形に変えていこうと考えており、4つ目の情報発信・提供も非常に重要だと考えています。現在、正会員が民間企業136団体、準会員、文化団体などを含めて35団体、個人の会員の方が22名です。協議会が目指すものは、いろいろなステークホルダーを繋ぎ、皆でより社会を創造的に、かつ多様な価値観が持てるような社会にしていくための、文化振興プラットホームだと思っています。いろいろな方たちと連携し、文化を振興していこうと活動しています。

2. 協議会の助成事業について

基本的な考え方として協議会の助成事業は、創造性にあふれる芸術・文化への寄付は、社会的な投資であるという考え方をしています。公益性も踏まえ、その視点からも活動をしています。寄付者の方にとっては寄付をしやすく、活動者にとっては寄付を集めやすい仕組みを作って、寄付文化の醸成を目指しています。1994年に特定公益増進法人となり、税制優遇が受けられる団体になりましたので、その特性を活用し、芸術・文化活動に対して、民間から寄付を促進するような仕組みを作って運用しています。
仕組みとしては、芸術活動を行う団体や個人に申請していただき、協議会が設けている有識者による選考委員、審査委員会で公益性があると選定された活動を認定します。その団体や個人の方は、認定されていることに基づいて支援の依頼を行います。寄付者は法人も税額控除が受けられます。協議会は、日本各地で行われている地域に根付いた小さな活動も含めて、いい活動であれば認定して促進していきます。公的機関ではないので、助成金の使い方も比較的自由で、活動者にとって使いやすい形になっています。
具体的な制度には「助成認定制度」「2021 Arts Fund」「GBFund」があります。「助成認定制度」は1994年から運用開始しています。芸術文化の活動者による活動申請で、総事業費が3,000万円以内で、弊会を通す寄付総額が1,000万円以内の活動を対象にしています。「2021 Arts Fund」は2020年のオリンピック・パラリンピックを契機に、その先に続く芸術・文化活動の振興のためのファンドです。既に運用している助成認定制度とベースは同じですが、2つの形があります。ひとつは、寄付者の意向を反映して寄付のコーディネートをしていくというもの(損害保険ジャパン日本興亜(株)設立「SOMPOアートファンド」、(株)ホテルオークラ東京設立「Hotel Okura Tokyo Cultural Fund」)、もうひとつは、活動者が自ら参加しているプロジェクトや活動の寄付集めを、2021アーツファンドのなかで申請、認定を得て、寄付を募っていくというものです。「GBFund」は、芸術のGと文化のBの頭文字を取ったもので、これは東日本大震災が起きたときにいち早く立ち上げたファンドです。2017年1月からは災害があった際に芸術・文化の支援のためのファンドとして活用できるような形になっています。
協議会は、助成のウェブシステムを立ち上げて導入しています。これは、カルチャーファンディングの「かるふぁん!」というもので、活動者もウェブシステムを通じて申請でき、寄付者もシステムを使えます。自分の活動のウェブページを持つことができますので、広報的なこともできますし、活動者はサイト上で寄付募集ができます。

3. 企業メセナの現状

最近の企業メセナがどういう状況か?ということですが、協議会は1991年から企業財団のメセナ活動の実施について、毎年アンケート調査を行っています。これは文化庁の助成事業として、活動内容の分析や事例研究を行い、メセナと社会や経済との関わりを明らかにしています。(参考資料:2016年度メセナ活動実態調査の報告書をもとに)2015年度の数字では、日本全国350社ほどから回答を得ましたが、総額848億2,894万円がメセナ活動に使われています。実態はもっと多いと思います。2015年度の文化庁の予算が1,038億円ですから、いかに企業メセナが支えているかということもわかってくると思います。
企業のメセナの目的はいくつかありますが、やはり主なものは「芸術・文化支援そのもののため」と「芸術・文化による社会課題の解決のため」「社業との関連、企業としての価値創造のため」の3つです。また今は、次世代育成や教育、まちづくり、地域の活性化といったことが非常に日本全体で求められていることですので、それらに資するアート、芸術・文化活動は、やはり企業も支援しやすいということがあります。
メセナの形態には、資金援助はもちろん、文化施設の開設や運営もありますが、実は今、非資金支援というものが増えてきています。社員のボランティア活動や、企業の特徴、強みを活かした資材、製品の提供といった支援が増えてきています。もう1つ大きな流れとしては、企業が自主企画、運営に取り組んでいます。企業の特徴を活かしてプログラムを作っていくというのは、普通になっています。対象のプログラムは音楽がとても多いです。次が美術、そして郷土のおまつりなど、プログラムは様々です。
企業がメセナをする理由をもう一度まとめてみます。社会からも期待されている、社会貢献や支援をすることによって企業価値を向上させていくため、また地域文化の振興を重視しているためなどです。足元をきちんと支えて地域文化にも貢献していくということが重要になってきています。それから企業内の多元的な価値を育むためです。企業内で社員の共感を得ることもすごく大事です。これからは、社会でどういうことが起きているか?と視野を広げないと、企業としても生きていけないということだと思います。

4. 企業へのアプローチ

皆さんが企業に支援を求めるための活動をするとしたら、事前に企業理念や事業内容、またどういうところに力を入れて文化活動、社会貢献活動、CSR活動をしているのかといったところを調べ、自分たち自身のやっている活動を、どのように意味をつけて説明できるかということになるかと思います。第1段階で事前準備し、ファーストコンタクトを取る。第2段階でその企画案、予算書を作成し企業を訪問する。第3段階で支援についての採択が決定され、第4段階で事業が終了したら、採択、不採択に関わらず、きちんと報告することです。信頼関係に繋がります。企業の担当者の方もいわゆる市民でもあるわけで、 日常のコミュニケーションが大切で、きちんと理解しあっていくことです。企業の担当者も、限られた予算のなかで何をしたらいいか真剣に考えていますので、皆さんが企業を訪問して活動や考えを話すと、支援するしないにかかわらず、勉強になり、それだけでも相互理解になると思います。最初の第一段階の事前準備や、きちんとしたストーリーを見せていくことが大事になると思います。
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