Case Study事例集

特色ある事業

チームでつくる
クリエイションの聖地

山口情報芸術センター(YCAM)/公益財団法人山口市文化振興財団
2003年山口県山口市に開館し、公益財団法人山口市文化振興財団が指定管理するアートセンター(非公募)。図書館、映画館などを併設し、メディア・テクノロジーを用いた研究開発(R&D)を柱に、主にメディアアート・教育・地域の3つの分野で活動。YCAMの企画事業費(人件費を除く)は年間約1億6千万円。財団はYCAMのほか山口市民会館、中原中也記念館も管理。
撮影=丸尾隆一(YCAM) 写真提供=山口情報芸術センター[YCAM]
YCAMは開館以来、地域と世界を結ぶ創造拠点として、メディアアート作品の制作を中心に「未来の山口の授業」「Perception Engineering」、「YCAMバイオ・リサーチ」など、独自性の高い事業を数多く生み出している。「未来の山口の授業」はメディア・テクノロジーを教育分野に応用した事業で、「Perception Engineering」は身体の動きに反応する映像や音を体験し、知覚やコミュニケーションの変化を探るダンス制作から派生したプロジェクトである。「YCAMバイオ・リサーチ」では、近年、技術発達が著しいバイオ・テクノロジーの応用可能性を探ることを目的に食品発酵、DNA解析等に関する教育プログラムの開発や展示を行なっている。
YCAMのスタッフは約40名で、「インターラボ」(以下、ラボ)とよばれる事業担当部門と総務管理部門に分かれる。ラボのスタッフはキュレーター、エデュケーターなどの学芸専門員、プログラマ、舞台、映像、音響、デバイスエンジニア、グラフィックデザイナーなど技術専門員ら約20名で構成されている。ラボスタッフは全て5年の任期付で、専門員、副専門員、常勤職員と呼ばれる常勤スタッフと最長3年契約の臨時スタッフに分かれる。国内外からスタッフを採用し、芸術系や理系大学出身者、企業や文化施設等での実務経験者などバックグラウンドが多様である。
事業はプロジェクトごとに編成されるチームで取り組み、フラットでボトムアップ型の組織づくりが意識されている。YCAM内には3Dプリンターやレーザカッターなど豊富な制作機材が整備されている為、外注ではなく内製で制作することが多い。これはラボの技術的な知見の蓄積という観点から重要である。バイオ・テクノロジーへの取り組みでは、バイオ領域の国際的ネットワーク形成も見据え、担当のラボスタッフが研修の一環としてハーバード大学らが開催したオンラインプログラムを受講した。施設内には専用機材等を備えたバイオラボを作る等、スタッフの育成同様、設備投資も積極的に行っている。これらの設備購入は市が負担しており、YCAMと市の厚い信頼関係がうかがえる。YCAMへの市の理解は、YCAMの事業枠組みが市のオリジナリティの創出やブランディングにもつながっているためと考えられる。
事業のフェーズとしてR&D→社会実装(普及)を意識し、オープンソース化やサービス化など多角的な展開を視野に入れた事業立案を行っている。これはYCAMの活動がYCAMの内側だけで完結するのではなく、コラボレーター(アーティスト、クリエイター、研究者、市民)と共に、より広く発展させていくための仕組みづくりである。
撮影=丸尾隆一(YCAM)
撮影=山岡大地(YCAM)
撮影=大林直行(101DESIGN)
Point
  • 多様な専門性を持ったスタッフがチームで取り組むことによる相乗効果が内製化を実現し、課題解決も容易にする。加えて、事業のオリジナリティを生みだす。
  • 実験的な事業だからこそ、成果を発信する仕組みを作り、公益性を見える化する。これにより事業やミッションへの理解が得やすくなる。