Case Study事例集

ミッション・ビジョン

ミッションが財団に与える影響

公益財団法人 宝塚市文化財団
1994年4月、宝塚市の市制40周年を機に財団法人 宝塚市文化振興財団として設立された。市民会館、ベガ・ホール、ソリオホールの管理運営を行う。2006年4月、指定管理者制度移行に伴い、ベガ・ホール、ソリオホールの指定管理者となる(市民会館は阪神淡路大震災の影響により、1997年3月に閉館)。2011年には宝塚文化創造館の指定管理者となり、翌年に公益財団法人に移行し「宝塚市文化財団」へ改称した。
公益財団法人 宝塚市文化財団は、地域に密着した財団を目指し、施設内のみならず学校や公園といった外での事業も積極的に展開している。こうした同財団の地域への志向は設立当初から定まっていたものではなく、経営理念の確立によってその事業展開が大きく転換・拡大したという。
当初、同財団には、寄付行為上の目的や事業が定められていたが、組織のミッションやビジョンといったものが明確でなく、その事業内容は舞台芸術を中心として構成されていた。指定管理者制度導入後の2010年に財団独自の5年間の中期振興ビジョンを策定。第2次ビジョンの策定前に、宝塚市において文化施策の軸となる文化芸術に関する基本条例及び文化芸術振興基本計画が策定されることとなり、それを踏まえながら財団の経営理念・ビジョンを検討することになった。新たに策定された経営理念には、芸術文化活動の振興を通じて社会に貢献することや、宝塚市を元気な街にしていく文化事業を地域住民とともに展開することが謳われた。これにより、音楽や美術、落語や伝統芸能といったこれまでの事業に加えて、学校コンサートや公園でステージイベントやワークショップを実施するといったより地域と関わる事業が増えていった。事業の発信の仕方にも変化が見られ、単なるイベントの紹介に留まらず、その事業の目的や育成したい能力といった背景にある「想い」を提示するようになったという。また、財団の「想い」が明確になったことで、その想いに共感してくれる地域住民や市民団体との協働での事業が実現し、そこでの関係が新たなつながりを生むことで、多様なネットワークが地域に形成されるに至った。
同財団の地域とのつながりは文化事業に限ったものではない。同財団は、地域の防災訓練への参加や自治会にも顔を出すなどして日ごろから地域とのつながりを深めている。こうして培った地域内のつながりは、財団の認知度の向上につながっているだけではなく、指定管理者の選定の際にも同財団の大きな強みになると考えられる。
同財団は、ミッション(経営理念)の明確化によって新たな組織の方向性が定まったとともに、その「想い」の発信・共有によって地域との多様な関係を築いた事例であるといえる。財団のミッションの策定に当たっては、組織がどうありたいかという点だけでなく、それによってどのような「想い」を他者へ発信し共有したいのか、という側面についても併せて検討することが肝要である。
Point
  • 財団のミッションが明確になることは内部の行動方針に影響するだけでなく、外部に対してその「想い」を発信する契機となる。
  • 共有できる「想い」があることで、異なる多様な分野との協働や協力が可能になる。