オペラの始まり

【ふじやまのぼる先生のオペラ講座(2)】

オペラは16世紀の終わりごろ、イタリアのフィレンツェで始まったといわれています。ただしその頃イタリアという国はなく、フィレンツェはトスカーナ大公国の首都という位置づけでした。当時はまさにルネッサンス真っ盛り。誰ですか、そこでワイングラスを持ち上げている人は!
イタリア地図
大まかなイタリアの地図を示しました。「ブーツ」の形でしたね。

「ルネッサンス」とは、「再生」を意味するフランス語です。以前は「文芸復興」と言われていたこともありましたが、「文芸」以外も「復興」していたので、日本語にせず「ルネッサンス」と呼ぶのが一般的です。古代ギリシャや古代ローマの文化を「再生」「復興」しようとする文化活動でした。

当時フィレンツェには、古代ギリシャ文化を研究していた「カメラータ」と呼ばれる文化人の集まりがありました。プラトンの開いた学園「アカデミア(アカデメイア)」を模したその集まりには、有名なガリレオ・ガリレイのお父さんヴィンツェンツォ・ガリレイ(1520頃-1591)も参加し、リュート奏者・作曲家として活躍していました。ある時「古代ギリシャ悲劇」を復活させようということになりました。でもなかなか資料が乏しい。ヴィンツェンツォ・ガリレイの研究、ヤコポ・ペーリ(1561-1633)の作曲により、歌うように演じる形態の劇に仕上げました。

最初のオペラは「ダフネ」。アポロに求婚されたダフネが月桂樹へと姿を変えるその題材は、その後もオペラ化されたり美術作品のテーマになったり、芸術家のインスピレーションの源でした。そのつもりではなかったけれど、これが最初のオペラと言われています。残念ながら楽譜が断片的にしか残っていないので、現在その全容を知ることはできません。

そのつもりではなかったけれど、「ダフネ」の評判はとても良かった。ペーリは、野心家ジューリオ・カッチーニ(1546頃-1618)と共作で「エウリディーチェ」を創生します(ほとんどがペーリのものでした)。トスカーナ大公であるメディチ家の娘とフランス国王アンリ4世との結婚式の祝宴の場で初演されました。1600年のことです。日本では天下分け目の関ヶ原の年ですね。

フランス国王と名家メディチ家の娘の結婚式となれば、周辺諸国の領主がこぞってお祝いにやってくる。「エウリディーチェ」の上演の評判は至って上々。「フィレンツェでこんなものをやっていたぞ!我が宮廷でも上演するがよい!」と言ったか言わないかは定かではありませんが、周辺の都市に広がったと考えられます。この新しい劇を大きく発展させたのが、マントヴァ公国の作曲家モンテヴェルディでした。次回、モンテヴェルディの話をしましょう。

豆知識「カッチーニ」

声楽を勉強した人で、カッチーニの歌を歌わなかった人はいないでしょう。え?知らない?「イタリア歌曲集第1巻」の第1曲目の「アマリッリ」ってご存じないですか?「あぁ、歌った!」でしょう。この歌、カッチーニの作曲なんです。イタリア歌曲集の解説によると、オペラの曲ではありませんが、オペラ誕生と前後して、1602年に出版されたようです。

イタリア歌曲集1(高声用) 全音楽譜出版社 より