ヴェルディ作曲「ドン・カルロ」 Don Carlo vol.1

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(1)】

最初に紹介するにはとても重い内容のオペラですが、今月にコンクール入賞者である髙田智宏さん、光岡暁恵さん、城宏憲さんが出演する公演があるので、あえてオペラ紹介第1作に選びました。
 
ドン・カルロ上演史
ドイツの劇作家・詩人フリードリヒ・フォン・シラー(1759-1805)の原作をもとに、フランス語の台本に作曲された「ドン・カルロス」は5幕仕立てで、1867年パリ・オペラ座で初演されました。しかし初演は失敗。原因はいろいろありました。パリ・オペラ座特有の制約もあり、ヴェルディは相当譲歩して作曲し、完成後もいくつかの変更を求められました(この旧態依然とした態度に嫌気がさし、彼は初演後すぐにイタリアに帰国しています)。また、臨席していた時の皇帝ナポレオン3世の妻ウジェニーは敬虔なカトリックで、宗教裁判長とフィリッポとの場面で、席を立って退出したとも言われています。しかし完全な失敗ではなく、その後10回以上連続で上演されています。
ヴェルディは、パリのような制約のない形で上演するため、様々な変更を施しました。まず母国語であるイタリア語に変更。イタリア語では、「ドン・カルロ」となります。またウィーンからの要請もあり、5幕から4幕に仕立て直しました。現在上演される場合には、フランス語上演かイタリア語上演か、また5幕版か4幕版か明記されます。コンクールでは、第二次予選の自選役にこのオペラの登場人物を選ぶ場合、出場者にイタリア語4幕版で演奏という指定をしています。「リコルディ」というイタリアを代表する楽譜出版会社は、5幕と4幕の両方を出版しています。
今回は4幕版についてあらすじを紹介いたします。5幕版と4幕版の違いについてはここでは触れません。興味のある人は調べてみてくださいね。
初演:1867年3月11日 パリ・オペラ座(「ドン・カルロス」としてフランス語)
4幕版初演:1884年1月10日 ミラノ・スカラ座(「ドン・カルロ」としてイタリア語)

主な登場人物

登場人物一覧

オペラ「ドン・カルロ」登場人物相関図

ドン・カルロ相関図

あらすじ

1560年頃 スペイン マドリード
始まる前の物語
スペイン王フィリッポ2世(=フェリペ2世)の王子ドン・カルロは、婚約者であるフランス王女エリザベッタと思いを通じ合っていたが、政治的な圧力により、エリザベッタはフィリッポの妃になるよう変更されてしまう。カルロは、かつての許婚を母として迎えることになる。
第1幕 第1場 サン・ジュスト修道院内
修道士たちが、亡き前王カルロ5世(カルロス1世)のために祈りを捧げている。悲嘆に沈むカルロは、アリア「僕は彼女を見た、そしてあの笑顔は」で、父によって引き裂かれた恋の悩みを歌う。その時ある修道士の祈りの声が響いてくる。その声があまりにも祖父であるカルロ5世の声に似ているので、前王が生きているという噂を思い出したカルロは恐れおののく。そこへ親友のロドリーゴが現れ、悩みがあるなら打ち明けてほしいと告げる。カルロは、義母を愛していると告白する。ロドリーゴは驚くが、気持ちを圧政に苦しむフランドルの惨状に向けるようカルロに勧める。カトリックのスペインに対し、フランドルはプロテスタント。二人は手を取り二重唱「我らの魂に友情と希望を」を歌い、永遠の友情を誓う。
第1幕 第2場 サン・ジュスト修道院の前庭
庭で女官たちが王妃登場を待っている間、エボリ公女が「美しいサラセンの宮殿の庭に(ヴェールの歌)」を歌い、座を盛り上げる。王妃エリザベッタが登場するので、皆うやうやしく迎える。ロドリーゴが現れ、エリザベッタに「フランスのお母上からの手紙」を手渡すと同時に、カルロからの手紙も渡す。続いて「カルロは苦しい日々を送っている」と会いたがっていることをほのめかす。エボリは、カルロが自分への恋に悩んでいると勘違いする。そこに現れたカルロはエリザベッタを見つけ、表向きは自分のフランドル行きを王に取り成すよう頼むが、恋心を抑えきれない。エリザベッタは、過去の思い出に心が揺らぎながらも、きっぱり拒絶する。カルロが去った後突然フィリッポが現れ、エリザベッタが一人でいることを見咎め、王妃付きの女官を職務怠慢によりフランスへ帰るよう言い渡す。エリザベッタは「お泣きにならないで、友よ」を歌い、彼女を慰める。涙にくれるエリザベッタとともに皆退場するが、王はロドリーゴを呼び止める。ロドリーゴはフランドルの惨状を訴え、自治権を与えるよう要求する。王は拒否し、「血によって平和を得る」と言い放つ。ロドリーゴは「それでは歴史家があなたを暴君ネロと呼ぶ」と断じる。歯に衣着せぬロドリーゴにフィリッポは見所を感じ、宗教裁判官に注意するよう忠告した上で、王妃と王子の仲を探るよう命じる。ロドリーゴは王の信頼を勝ち得た喜びを隠しつつ命に従う。
第2幕 第1場 噴水のある王妃の庭園
密会を誘う手紙を受け取ったカルロは、エリザベッタからの手紙と信じ切っている。現れたヴェールの女性に「あなたこそ、あこがれの君」と愛を打ち明ける。しかしヴェールの女性はエボリで、義母を愛している本心を知られてしまう。取り乱すカルロ。現れたロドリーゴは事態を執り成そうとする。三者三様の三重唱「気をつけよ、偽りの息子」となり、エボリは怒り去る。ロドリーゴは、カルロの身を案じ、王妃との手紙を預かることにする。
第2幕 第2場 ノストラ・ドンナ・ダトーチャ大聖堂の前の広場
異端者の火刑の日。異端者の火刑はかなりのイベントであり、見物人でごった返している。そこへ異端者たちが引き立てられてくる。カトリックの国スペインではプロテスタントは異端であり、処罰の対象となる。国王夫妻が到着し、フィリッポは「神の敵に死を」と宣言する。そこへカルロがフランドルの使節を連れて現れ、王にフランドルのプロテスタントへの慈悲を乞う。エリザベッタはじめ皆も慈悲を願うが、フィリッポは許そうとしない。そのフィリッポの前にカルロが剣を抜き立ちふさがる。フィリッポはカルロを取り押さえるよう命じるが、誰も動けない。その剣を納めさせたのは親友ロドリーゴだった。驚きつつも剣を渡し、縛に就くカルロ。王はロドリーゴに公爵の位を授ける。
3幕以降は次回ご紹介いたします。お楽しみに!