東京春祭「ローエングリン」

【ふじやまのぼる先生のオペラ雑感(1)】
先生が観に行ったオペラの雑感を、これから少しずつ綴って行こうと思います。

東京・春・音楽祭  東京春祭ワーグナーシリーズ vol.13
ワーグナー作曲「ローエングリン」

2022年4月2日(土曜日)15時開演
東京文化会館大ホール
ローエングリンチラシ表
ローエングリンチラシ裏
何よりも、マレク・ヤノフスキの圧巻の指揮、これに尽きます。「以上、雑感終わり」でも良いくらい。
マレク・ヤノフスキは、1939年ワルシャワで生まれたドイツの指揮者です。今年83歳。「東京春祭ワーグナーシリーズ」には2014年から2017年まで、ワーグナーの四部作「ニーベルングの指環」を毎年1作ずつ指揮し、先生も4年間通ったものです。オペラの録音も多く、40代にドレスデンで録音した「ニーベルングの指環」を先生はよく聴いていました。しかし、ワーグナー生誕200年にあたる2013年を完成目標に、ベルリン放送交響楽団のコンサートで、ワーグナーの主要作品を次々と上演、同時に録音され販売もされたので、新たな「ニーベルングの指環」が誕生しました。どちらも素晴らしい演奏ですが、最近の70代での録音のほうが若々しい指揮ぶりなのには驚かされます。
のぼる先生のイラスト
「ローエングリン」は、「ロマンティック・オペラ」という副題がついています。ヤノフスキの指揮は、「ロマンチック」とは少し距離があり、「感情豊かにたっぷり鳴らす」というものではありません。言い方は悪いかもしれませんが、そっけなくさえ感じるところもあるでしょう。公演も第1幕60分、第2幕80分、第3幕60分と、超高速といっても過言ではありません。しかし、緩急を織り交ぜ、歌手に寄り添い、時にはまくしたてる。特に各幕終景の、一気に畳みかける演奏には、納得の一言。全身に電流が走ったことを告白します。
歌手について、先生はなかなか厳しいので、辛口のコメントになることをお許しください。今回の主要メンバーで合格点をあげられる人は残念ながらいませんでした。2日間の公演の2日目だったので、1日目を聴かれた人と少し感想は違うかと思います。個人の感想なので、ご容赦ください。
エルザを歌ったオオストラムは、清楚なエルザを演じていましたが、もう少しメリハリがつくとよいかと思いました。
ローエングリンのヴォルフシャタイナーは、「白鳥の騎士」には似ていませんでした。まあ、それはないものねだりなので良いのですが、終始音程が下がり気味だったのはとても気になりました。世界中探してローエングリンをきちんと歌うことのできる歌手で、見た目も「白鳥の騎士」にふさわしいイケメンテノールは、5人もいないのではないでしょうか。
テルラムントのシリンスは、「東京春祭ワーグナーシリーズ」の常連。ヴォータンなど主役級のバリトンを演じています。いつも「もう少し華があるといいなあ」と思っていました。今回はなかなかの健闘だったと思います。
オルトルートのキウリは、急遽の代役。おどろおどろしい役柄には合っていましたが、下からずり上げる発声は聴いていてあまり気持ちの良いものではありません。高音も安定せず、とても残念でした。
ハインリヒ王のナズミと王の伝令のホレンダーは、真摯な歌い方で好感が持てました。もう少し大きな役で聴いてみたいと思いました。
その他の役で出ていた日本人と合唱は、大健闘だったと思います。特に合唱は素晴らしかった。
小姓の1人藤井玲南さんは、第7回コンクールの入選者。8小節のみの出演でしたが、ヤノフスキの指揮で歌う機会を得たことは、今後の歌手生活に大きな影響を及ぼすことでしょう。
藤井玲南さん
藤井玲南さん
オーケストラはNHK交響楽団。ステージ上での演奏なので、一人一人の演奏を、細部まで見ることができ、耳と目でオーケストラを楽しむことができました。今回のコンサートマスターは、元某有名オーケストラの某有名コンサートマスターではありませんでした。先生はそれでいいと思います。
「東京春祭ワーグナーシリーズ」は、演奏会形式で行われています。例年は舞台後方の背景に映像が投影されていました。内容に沿ったものであれば全く違和感なく鑑賞の手助けになるのですが、「うんっ?」という映像もありました。今回は映像なしで、照明の色を少し変化させながらの上演でした。本当に音楽に集中できる素晴らしい公演でした。
来年の「東京春祭ワーグナーシリーズ」は、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」です。今から楽しみです。