東京二期会「エドガール」

【ふじやまのぼる先生のオペラ雑感(3)】
 先生が観に行ったオペラの雑感を綴っています。

東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ
プッチーニ作曲「エドガール」

2022年4月23日(土曜日)17時開演
Bunkamuraオーチャードホール
エドガールプログラム表紙
エドガール配役表
先日のブログで、「エドガール」を詳しくご紹介しましたので、今回は、鑑賞した感想のみお届けしますね。
表紙に書かれている通り、この上演は、普通の「舞台上演」と「演奏会形式」の中間にあたる「セミ・ステージ形式」で行われました。感じとしては、「演奏会形式」に似ていて、大きな舞台装置や衣装は伴わないのですが、演技のできるスペースが用意されていて、歌手は、劇進行がわかるような演技をしながら歌い演じます。また、今回の上演では、ステージ後方の幕に映像が投影され、あたかも舞台背景があるように感じさせていたので、鑑賞の一助になっていました。
髙橋絵理さん
髙橋絵理さん
この日一番輝いていたのは、フィデーリアを歌った髙橋絵理さんでしょう。特に輝かしい高音、感情がそのまま歌に現れる表現力、どれをとっても素晴らしかったです。彼女は、第6回静岡国際オペラコンクールで第3位に輝いただけではなく、観客の投票によるオーディエンス賞も見事に獲得しました。フィデーリアは、可憐な村娘という役どころ。悲劇のヒロインといったところでしょうか。プッチーニのその後の作品に現れる「ミミ」や「リュー」の原点だと感じました。
また、ティグラーナを歌った中島郁子さんも見事でした。揺れ動く感情を豊かな中低音にのせて歌いあげていました。
フランクの清水勇磨さんは、1幕のアリア「この恋は僕の恥」で苦しい胸の内を豊かに、グァティエーロの北川辰彦さんは、慈愛あふれる父の姿を表現していました。
エドガールの福井敬さんも、言うまでもなく素晴らしい歌唱でした。福井さんは、日本を代表するテノールで、イタリア語だけでなく、ドイツ語の諸役でも出演されています。こんなことを言ったら怒られてしまうかもしれませんが、もう少し若手のテノールに道を、いや、もう少し若手のテノールが頑張って主役の座を射止めてほしいところです。いつまでも福井+樋口では、今後のオペラ界が心配です。
第3幕、エドガールの偽の葬式の場面。棺には青と黄色の二色の布がかけられていました。その部分の歌詞を引用してみましょう(先生による意訳)。
Il bene il mal discerne, ei vede il giusto e il reo.
Entra nel cielo il buon che cade sotto le inique spade!

(主は良い人と悪い人を識別し、義人と罪人を見ています。
邪悪な剣の下で落命した善人は、天国に入ります!)
また、
Noi nel tuo nome, pel patrio suol, il sangue nostro saprem versar!
Iddio la Fiandra schiava non vuol.

Per te e la patria morremo, Edgar!
(私たちは主の名において、私たちの国のために、私たちの血を流します!
奴隷としてのフランドルを、神は望んでいません。
主と祖国のために、私たちは死ぬ覚悟があります、エドガール!)
きわめて印象的な場面でした。フランドルをかの国に置き換えれば、ぴったりとあてはまる内容が歌われていました。この場面の音楽は、プッチーニの葬儀で演奏されたといいます。世が世ならば、場所が場所ならば、この場面を見て暴動が起きる可能性は十分にあります。オペラには、オペラの歌詞には、オペラ演出には、このように人の心を揺り動かす大きな力があるのです。