ブラボーのはなし

【ふじやまのぼる先生のオペラ講座(39)】
最近「ブラボー」が話題になりましたね。なかなかオペラやコンサートでステージに声援を贈ることができない昨今ですが、ちょっと引っかかったので今回は「ブラボー」の話をしたいと思います。
ブラボーのイラスト
「待ってました!」「成田屋!」とは、歌舞伎の掛け声ですが、オペラにも掛け声があります。よほど手慣れた人でないと、曲間の掛け声は難しいです。初心者は無理せず、他の方々に任せておきましょう。残念ながら、このコロナ禍で、演奏後掛け声をかけることはできません。ですが、晴れて声を出せた暁には参考にしてくださいね。

演奏が素晴らしかったとき

1. ブラーヴォ(bravo)
男性一人に送る掛け声です。日本人は「ブラボーーーーー!」と言いがちですが、「ラ」にアクセントがあるので、「ブラーヴォ」が正確です。伸びても「ブラーーーヴォ」です。外国人が「ブラボーーーーー!」と聞くと、「ブーイング」と聞き間違えて、ショックを受けるようです。気を付けましょう。
2. ブラーヴァ(brava)
「ブラーヴォ」の女性形で女性1人に送る掛け声です。
3. ブラーヴィ(bravi)
これは「ブラーヴォ」の複数形で、男性が複数いるときや、男女が複数いるときの掛け声です。
4. ブラーヴェ(brave)
これは「ブラーヴァ」の複数形で、女性が複数いるときの掛け声です。
14を使い分けるべし」という人がいます。先生の師匠は、ローマ歌劇場「ブラーヴォ」と言っていたら、隣のイタリア紳士に「ブラーヴィ」と注意されたそうです。しかし、使い分けているのはイタリア人と、「自分は物知りなんだぜ!」とイキっている日本人くらいです。ドイツなどのオペラハウスでは特に使い分けておらず、みんな「ブラーヴォ」でした。
「一番にブラボーって言ってやったぜ!」と自慢する人がいますが、ただのおバカさんです(ギョウカイヨウゴで「ブラボーおじさん」と呼ばれます)。これも「自分はこの曲をよく知っているぜ」と周りにアピールしたい日本人だけです。本当に感動したとき、人は何のリアクションも起こせなくなりますからね。最後の音が鳴り終わって、余韻が消えてからにしましょう。
5. ビス(bis)
「アンコール(フランス語)」のことです。ちなみにフランスで「アンコール」といっても、日本で使うような意味としては取られませんのでご注意を。オペラでは、劇の進行の妨げになるのでアンコールされることは極めて稀です。しかし、「この人はこのアリアを必ずアンコールする」というお決まりのようなものがあると、聴衆は「ビス、ビス!」と言ってねだることがあります。
ペルー生まれのファン・ディエゴ・フローレスというテノールがいます。ロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニなどベルカントと呼ばれるオペラがレパートリーの中心です。彼が2006年ボローニャ歌劇場公演で来日したとき、ドニゼッティの「連隊の娘」を上演しました。その中でトニオが歌う「ああ!友よ、何と楽しい日」は、高い「ド」の音が連発する超難曲。この曲はフローレスの持ち歌で、この日もアンコールしていたのを思い出します。

演奏が良くなかったとき

1. ブー
ブーイングですね。海外の「ブー」は強烈です。言われた歌手や指揮者、演出家も睨みつけたり指をさしたり応戦する場合があります。客席内で騒動になる場合も。ブーイングをしている人に向けて拍手を送っていた歌手もいました。演出家は一種の賞賛としてとらえている人が多いようです。きちんと見て考えて、それに対する反応と感じるんでしょうね。
2. シーッ
ブーイングは賞賛の裏返しなので、拍手する人と拮抗する場合もありますが、「シーッ」は、おそらく全員が拍手する気にならない場合に起こります。冷たーーい空気に支配されます。聴く気がなかった、見る気がなかったという証明ですね。日本ではあまり見られません。
シーッのイラスト
ブラボー屋(サクラ)
観客が公演に対して意思表示できるのは、拍手や掛け声です。アンケートを書かせる場合もありますね。拍手が多いと、「ああ、この公演は良かったんだな」と実感できますし、ブーイングが出ると、「ああ、あの歌手は何か良くなかったんだな」と他人の感想を知ることができます。歌手にしてみれば、ブーイングによって「あの歌手は下手だったんだ」と、知らない人にも感覚的に植え付けられることになりかねません。そこで、金を払ってサクラを雇い、「ブラボー」を叫ばせるのです。19世紀フランスには「クラック(claque)」と呼ばれるプロのサクラ集団があったそうです。いろいろな役割があり、拍手・ブラボー・休憩時にその歌手の良さを大声で話す、など。ライバル歌手にブーイングをすることもあったようです。現在組織的な集団はないと思うのですが、サクラがいないとは言い切れません。芸術家も大変ですね。
最近のコンサートやオペラでは、開幕前に「ブラボーなどの掛け声はご遠慮ください」とのアナウンスが入ることがあります。コロナ禍の現在の状況を考えると確かにそうなのですが、「このコンサートやオペラは、ブラボーと叫ぶだけの価値がある素晴らしい演奏ですが、掛けないでください」と言っているようなもので、先生はあまりこのようなアナウンスは好きではありません。とくに酷い公演でアナウンスがあったときには…。