世界の劇場「日生劇場」

【ふじやまのぼる先生のオペラ講座(42)】
日生劇場は1963年(昭和38年)10月20日にベルリン・ドイツ・オペラの来日公演による、ベートーヴェンのオペラ「フィデリオ」にて開場しました。これは日本生命保険創立70年を記念し、建築家の村野藤吾(1891-1984)の設計のもと、日本生命日比谷ビル内につくられました。
Nissay Theatre Day
  Wiiii, CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で
日生劇場
(東京都千代田区、村野藤吾設計、1963年)
開場の際の公演ラインナップの凄いこと。カール・ベームの指揮による「フィデリオ」と「フィガロの結婚」、ハインリヒ・ホルライザーの指揮による「ヴォツェック」とロリン・マゼールの指揮による「トリスタンとイゾルデ」は、ともに日本初演でした。歌手陣もまた凄いこと。エリザベート・グリュンマー、エリカ・ケート、エディット・マティス、クリスタ・ルードヴィヒ、ジェームス・キング、ディートリッヒ・フィッシャー=ディスカウ、ワルター・ベリー、グスタフ・ナイトリンガー、ヨーゼフ・グラインドルなど、綺羅星のごとき独墺系の歌手が総出演でした。
ベルリン・ドイツ・オペラの日生劇場での公演は、その後1966年、1970年と続き、1966年には「さまよえるオランダ人(日本初演)」、「魔笛」、「椿姫」、「後宮よりの逃走」、ハンス・ウェルナー・ヘンツェ作曲「若い恋人たちのエレジー(日本初演)」、1970年には「ローエングリン」、「ファルスタッフ」、「モーゼとアロン」、「コジ・ファン・トゥッテ」、「魔弾の射手」、「ルル(2幕版・日本初演)」が上演されました。ヘンツェはこの時、指揮をしたほか、演出・衣装・装置も手掛けています。
話がずれました。日生劇場の座席数は1,334席。2階建てのように思えますが、1階と2階の間に「グランドサークル席」を設けており、都合3層構造。この「グランドサークル席」はとても人気があり、座席数も少ないので、チケットの売れ行きも好調とか。先生は2階の1列目で観ることが多いです。

座席表

GCという部分が、「グランドサークル席」です。
日生劇場座席表
劇場の内部はとても神秘的な雰囲気で、うねうねする壁には銀色に光る貝がちりばめられており、まるで洞窟の中といった感じです。階段はおしゃれならせん階段風。手すりにも意匠を凝らした造りとなっています。床には絨毯が敷かれており、残響はほとんどありません。歌手にとっては自分の声が聞こえにくいので歌いすぎてしまうきらいがあります。
「すぐれた舞台芸術を提供するとともにその向上をはかり、わが国の芸術文化の振興に寄与する」という目的で、様々な企画を行っています。開館翌年から50年間続いた「ニッセイ名作劇場」は、劇団四季と組んで良質なミュージカルを都内の小学生を招いて上演してきました。また、1979年(昭和54年)からは青少年のための「日生劇場オペラ教室」を始めます。2014年(平成26年)からは2つを統合し「ニッセイ名作シリーズ」として、舞台芸術を児童生徒に紹介しています。これは、子ども向けに制作したものではなく、一般向けと全く同じものを子供たちに見せているのです。ここ、とても大事なことだと先生は思っています。一般向けには、「NISSAY OPERA」と銘打っています。
モーツァルト没後200年の1991年には、モーツァルトの6つのオペラの連続公演があり、先生は「コジ・ファン・トゥッテ」を観に行きました。他公演では幼き日の小栗旬さんが、子ども役でオペラに出演しています。余談ですが、小栗旬さんのお父さん小栗哲也さんは、オペラや劇場関係者の中で知らない人がいないほど有名な舞台監督です。その関係での出演だったのでしょうね。
その後、周年記念には様々な意欲的な公演が行われています。ちょうど2023年は、開館60周年にあたり、ケルビーニの「メデア」日本初演や、ヴェルディの「マクベス」、ヘンツェの「午後の曳航」がラインナップされています。
2023年度日生劇場開場60周年記念公演ラインアップ発表(日生劇場ホームページ)
https://www.nissaytheatre.or.jp/news/60thanniversarylineup/
開場55周年のときは、「モーツァルトシリーズ」、開場50周年のときは、ライマンの「メデア」日本初演や、ベートーヴェンの「フィデリオ」を取り上げました。「フィデリオ」は、コンクール審査委員の三浦安浩氏の演出で、ドン・フェルナンドには、審査委員長の木村俊光氏が出演されています。
プログラム(1)
45周年の時は、ヤナーチェクの「マクロプロス家の事」、40周年の時は、ベルクの「ルル」3幕版日本初演と、枚挙にいとまがありません。
プログラム(2)
プログラム(3)
今年2023年公演予定の「メデア」と「午後の曳航」については、いずれご紹介します。お楽しみに!