「メデア」Vol.3

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(34)】
2023年5月27日、28日に、日生劇場で上演されるケルビーニのオペラ「メデア」。今回は、いろいろな音源を紹介します。あまり知られていないオペラなので、ちょっと多めに紹介しますね。

参考CD

参考CD(1)
指揮:ヴィットリオ・グイ
メデア:マリア・カラス
ジャゾーネ:カルロス・グイチャンドゥト 他 (1953年録音)
忘れられていた「メデア(メデ)」が永い眠りから覚め、再び注目を集めた1953年5月の歴史的な録音です。ケルビーニの生まれ故郷のフィレンツェでのライヴ録音です。何と言っても、マリア・カラスの起用が、このオペラには必要でした。よく「オペラはカラス以前とカラス以降に分けられる」と言われますが、「メデア」も「カラス以降」に復活を遂げたオペラと言えましょう。グラウチェ役に、デビュー間もないガブリエッラ・トゥッチ先生(1929-2020)の声が聴けるのも、先生にとっては嬉しいところです。音質はとても悪いですが、有り余る熱気は充分に伝わります。ヴィットリオ・グイ(1885-1975)も隠れた立役者。
CD1
参考CD(2)
指揮:レナード・バーンスタイン
メデア:マリア・カラス
ジャゾーネ:ジーノ・ペンノ 他 (1953年録音)
フィレンツェでの復活上演と同じ年の12月、ミラノ・スカラ座でのライヴ録音です。他のヨーロッパの国々もオペラハウスとは異なり、ミラノ・スカラ座は12月にそのシーズン初日を迎えます。本来ならば1953年は、全く別のオペラで開幕の予定でしたが、フィレンツェの大成功を目の当たりにしたスカラ座の支配人は大いに慌て、「メデアでオープンしよう」と思い立ちます。しかし、指揮者のグイは別の予定で出演できず、たまたま演奏旅行でイタリアにいた、若手のレナード・バーンスタイン(1918-1990)が指揮することになりました。彼は、ろくにオペラなど振ったこともなく、ましてや「メデア」なんて聴いたこともない。しかし、その大役を見事に果たしました。歌手もカラスとネリスのフェドーラ・バルビエーリ(1920-2003)以外は一新。こちらも音質は悪いですが、「我こそはミラノ・スカラ座だ!」という気迫に満ちあふれた演奏が聴けます。
CD2
参考CD(3)
指揮:トゥリオ・セラフィン
メデア:マリア・カラス
ジャゾーネ:ミルト・ピッキ 他 (1957年録音)
これは、スタジオで録音されたものです。オペラファンのない物ねだりですが、ライヴのような熱い音楽は聴けませんが、録り直しもきくのでその点ではきちんとした音楽が聴けます。やはり、カラスはライヴの方が緊張感もあって良いかもしれません。
CD4
☆これ以外にも、カラスによるライヴ録音の「メデア」は、他にもいくつか存在します。最後にスカラ座に出演したのも「メデア」だったとか。「王女メディア」という映画にも出演しています。ただし、歌は歌っていません。
参考CD(4)
指揮:ランベルド・ガルデッリ
メデア:ギネス・ジョーンズ
ジャゾーネ:ブルーノ・プレヴェーディ 他(1967年録音)
「名前は知られているけれど、録音がない」という珍しいオペラ、特にヴェルディマイナーなオペラを数多く録音しているランベルド・ガルデッリ(1915-1998)の「ツボ」をおさえた安定の指揮です。ギネス・ジョーンズは、先生にとってワーグナーR.シュトラウスのイメージがあり、イタリア語のオペラはこれが唯一です。でも威厳たっぷりのメデアを聴くことができます。
CD4
参考CD(5)
指揮:ホルスト・シュタイン
メデア:レオニー・リザネク
ジャゾーネ:ブルーノ・プレヴェーディ 他(1972年録音)
先生の大好きなホルスト・シュタイン(1928-2008)の指揮による、ウィーン国立歌劇場でのライヴ録音です。シュタインは、NHK交響楽団の名誉指揮者だったドイツの指揮者です。劇場たたき上げの職人的な指揮に先生はとても惹かれます。シュタインというと、ワーグナーR.シュトラウスといった独墺系のオペラを指揮するイメージが多いですが、ウィーン国立歌劇場へのデビューは「カルメン」でした。ジャゾーネはガルデッリ盤と同じくブルーノ・プレヴェーディ(1928-1988)。レオニー・リザネク(1926-1998)もワーグナーR.シュトラウスのイメージのあるソプラノですが、イタリア物も得意としていました。ルチア・ポップ(1939-1993)やエディタ・グルベローヴァ(1946-2021)の名前が見えるのも、ウィーンならではでしょう。
CD5
参考CD(6)
指揮:パトリック・フルニリエ
メデ:ヤーノ・タマール
ジャゾン:ルカ・ロンバルド 他 (1995年録音)
これは、オリジナルのフランス語によるライヴ録音です。もともとがオペラコミックなので、曲をセリフでつなぐ形式がとられています。先生も長年イタリア語訳のレチタティーヴォに慣れてしまっているので、フランス語の「メデ」は新鮮に聞こえます。
CD6
「メデ」は、2019年のザルツブルク音楽祭でも上演され、NHK-FMでも紹介されていましたので、お聴きになった方もいるのでは。
 
次回は、同じような「心変わりの男」の出てくるオペラの解説をいたします。お楽しみに。