世界の劇場「シュトゥットガルト州立歌劇場」

【ふじやまのぼる先生のオペラ講座(43)】
ドイツ第6の都市シュトゥットガルトは、バーデン=ヴュルテンベルク州の州都であり、ベンツポルシェの本社が置かれていることでも知られています。古くはヴュルテンベルクという領主が治めていた土地で、宮廷が置かれていました。領主は、伯爵→公爵→選帝侯→王という風に変化しました。ヴュルテンベルク王国は1918年のドイツ革命まで存在し、第2次世界大戦後、同じくドイツ革命まで存在していた旧バーデン大公国と合併し、今のバーデン=ヴュルテンベルク州となりました。
Stuttgart Staatstheater 9
Schlaier, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
シュトゥットガルト州立歌劇場
シュトゥットガルトのオペラの歴史は、17世紀まで遡ることができます。他の都市と同じく宮廷文化として取り入れられ、宮廷劇場が建設されました。現在の劇場は1912年に、演劇用の小劇場とオペラ・バレエ用の大劇場がオープンしています。
この小劇場では、1912年10月25日にリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)の「ナクソス島のアリアドネ」が作曲者自身の指揮で初演されています。現行版とは大分違う第1稿としての上演でした。
大劇場は、戦争の被害をほとんど受けなかったので、戦後まもなく公演を再開しています。戦後「バイロイト音楽祭」を率いたワーグナーの孫のヴィーラント・ワーグナー(1917-1966)が、様々な演出を手掛けたため、「冬のバイロイト」と呼ばれたこともあります。バイロイト音楽祭は、真夏の開催ですので、このように呼ばれたのでしょう。また、かのカルロス・クライバー(1930-2004)も若き日に腕を磨いた劇場としても知られています。
また、新作初演を積極的に手掛けた劇場としても知られています。これは、ベンツやポルシェといった大企業のお膝元ということで、経済的に恵まれているということも理由の1つでしょう。シュトゥットガルト中央駅の屋根の上には、ベンツのトレードマークがクルクル回転するオブジェが乗っています。
シュトゥットガルト中央駅(ちょっと見辛いですが…)
シュトゥットガルト中央駅
劇場は、宮廷のあった庭園の中に建っています。庭園の中には池や散策路があり、とても雰囲気の良い立地です。シュトゥットガルト中央駅からのアクセスも良く、当時の権威がよくわかります。座席は1,404席と小ぶりなつくり。どの席からも舞台が良く、近く観る事ができます。
1991年にクラウス・ツェーラインが監督に就任します。また1997年にローター・ツァグロセクが音楽監督に就任します。2006年までその体制が続きますが、この間「Opernwelt(オペラの世界)」誌が実施する批評家投票で、何度も「今年のオペラハウス」に選ばれました。「Opernwelt」誌は、ドイツ語圏内の由緒正しいオペラ雑誌で、この雑誌が選ぶ音楽批評家による投票で上位に選ばれるということは、大変名誉なことです。
これは、モーツァルトの「後宮からの誘拐」のDVDです。まさにこの公演が、1998年の「Opernwelt」誌が選ぶ年間最優秀上演作品でした。このオペラは、ジングシュピールなので、歌をセリフでつないでいくという上演形態をとります。通常の公演では、歌手がセリフもしゃべるのですが、この公演は、1つの役に、歌手と役者の両方が配されていて、それぞれ役割を担っています。先日、日本でも歌手と俳優が出てくるオペラ上演がありましたが、このハンス・ノイエンフェルス(1941-2022)演出のDVDは、そのあたりの住み分けが大変良く練られていて、うっとうしくなく、さすが最優秀だけのことはあります。そうは言っても、初めて見る人にはお勧めしませんが。
モーツァルト「後宮からの誘拐」DVD
先生もこの劇場でいくつかオペラ鑑賞しましたが、そのどれもがとても印象強く残っています。特に上記のツァグロセクが指揮したワーグナーの「ラインの黄金」とシュレーカーの「烙印を押された人々」は、演出、演奏ともに素晴らしく、先生の鑑賞したオペラベスト10に入ります。「ラインの黄金」は、「ニーベルングの指環」の他の3作品とともに、DVDなど映像で観ることができます。4つの作品の演出家がそれぞれ異なるのも、他の劇場では例がないと思います。4作とも写実的な演出ではないので、こちらも初めての方にはお勧めしませんが、「もうワーグナー知ってるぜ」という方は、ぜひご覧いただければと思います。なお、2000年の「Opernwelt」誌が選ぶ年間優秀上演作品第1位が「神々の黄昏」第2位が「ジークフリート」第3位が「ニーベルングの指環」全4作品と、すべてが素晴らしかったということがいえましょう。
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また、2006年には来日公演を行い、モーツァルトの「魔笛」を上演しました。先生は、「魔笛」って正直に言うと、必ず途中で退屈してしまうのですが、かの鬼才ペーター・コンヴィチュニーの演出だったので、なかなか見応えのある舞台で、退屈とはまさに無縁の上演だったと記憶しています。コンヴィチュニーは、「魔笛」に相当な嫌悪感を持っているらしく、ザラストロの言う正義や試練を、相当こき下ろすような演出をしています。さらに「ザラストロによる正義という名の独裁政治」とも。かなり衝撃的な、でもとっても人間味あふれる「魔笛」でした。なお、この公演のスポンサーは「ポルシェ」でした!
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これらの上演の指揮をしたのが、ツァグロセクでした。彼は子どものころ、レーゲンスブルクの大聖堂の聖歌隊(Regensburger Domspatzen)に所属しており、1954年ザルツブルク音楽祭「魔笛」公演には、3人の童子役で出演したといいます。1997年から2006年まで、この劇場の音楽総監督を務めました。その後は、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の首席指揮者を2012年まで務めました。来日も多く、NHK交響楽団読売日本交響楽団を定期的に指揮しています。今シーズンも、読売日本交響楽団に客演の予定があり、先生も楽しみにしています。
読売日本交響楽団ウェブサイト・公演詳細ページ
https://yomikyo.or.jp/concert/2022/12/664.php#concert
ツァグロセクの指揮する、マーラーの交響曲第2番
参考メディア4
第3回コンクール第2位に輝いたリー・シャオリャン(中国・バス)。彼はリアン・リの芸名を用い、ヨーロッパ各地で活躍し、2006年から2019年までは、この劇場の専属歌手として様々な公演に出演しました。その功績が認められ2016年には宮廷歌手(Kammersänger)の称号を得ています。
今年9月に東京二期会が上演する「ドン・カルロ」。この公演には、第8回コンクールで三浦環特別賞に輝いた城宏憲さんが、タイトルロールで出演しますが、演出は、この劇場で初演されています。どんな演出なのか、今から楽しみです。
東京二期会ウェブサイト・公演詳細ページ
http://www.nikikai.net/lineup/don_carlo2023/index.html
リー・シャオリャンさん
リー・シャオリャン
(第3回・第2位)
城宏憲さん
城宏憲
(第8回・三浦環特別賞)