アリアのいろいろ(2)

【ふじやまのぼる先生のオペラ講座(7)】

カンタービレとカバレッタ

「ダ・カーポ・アリア」のように「A-B-A」の形式ではなく、性格の異なる「A」と「B」を対比させて作曲し、1つの大きなアリアにしたものが現れます。これはドニゼッティ後期やベッリーニ、ヴェルディの前・中期のオペラによく見られ、主として19世紀のイタリアオペラで聴くことができます。このアリアの形式は、「ゆったり歌われる部分(A)」と「早く歌われる部分(B)」の2つから成ります。前半のゆったりした部分を「カンタービレ(cantabile)」、後半の早い部分を「カバレッタ(cabaletta)」と呼びます。「カンタービレ」は、「歌うように」という意味です。「カバレッタ」は馬の走る様子からきているといわれています。

シェーナ

「scena」と綴ります。イタリア語です。英語だと「シーン(scene)」です。「レチタティーヴォ・アッコンパニャート」の変化形と考えてください。「カンタービレ」の前に置かれることが多く、劇を進めるため経過報告や状況確認、また登場人物の心情などが語られます。
組み合わせてみると
有名なものとしては、「椿姫」の第1幕最後でヴィオレッタによって歌われる「そはかの人か-花から花へ」でしょう。アリアの紹介でも、「〇〇(カンタービレ)-△△(カバレッタ)」と2つの言葉が並ぶことが多いです(シェーナの部分は、入れないことが多いです)。この場合、シェーナ「不思議だわ」で自分の置かれている状況を示し、カンタービレ「そはかの人か」で自分の感情を吐露し、つなぎの部分があって、カバレッタ「花から花へ」で今後の人生について超絶技巧を凝らし歌う、という感じでしょうか。最後は超高音の高いミのフラットを出して1幕を締めくくります。

聴いてみよう

「そはかの人か-花から花へ」は実演がありますので、こちらにお進みください。18分30秒くらいから解説も含めてお楽しみください。

光岡暁恵さん 「ふじのくにオペラweek」インタビュー&アリア歌唱
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その後
ワーグナーやヴェルディの、後期のオペラになると、明確に他の曲と区別されることが無くなっていきます。特にワーグナーは、拍手のために曲が中断されるのを嫌いました。なので、最初の音が鳴り出すと、その幕の終わりまで切れ目なく演奏されるよう作曲したのです。このようにして通作された曲としてのオペラが主流となりました。このようなオペラでも、取り出して歌うことのできる「アリア」は存在します。作曲家も「何となくここで拍手されたほうが歌手も気持ちいいし、咽喉を休めることができるかな」と考えて作曲したと思わせるようなイタリアオペラは多いです。このような場合、上演によって指揮者が演奏を止めて拍手させる場合もあれば、そのまま楽譜通り進む場合もあります。
近年は、あえて「アリア」と名付けて作曲する場合もあり、上記に挙げた様々な様式が混じり、まったく自由に創作されているようです。