声部のはなし(1)~テノール~

【ふじやまのぼる先生のオペラ講座(8)】
今回から4回にわたり、声部の話をします。
合唱をやったことのある人、あーほとんどみんなですね。中学校って、合唱コンクール盛んですよね。混声四部合唱にはソプラノ、アルト、テノール、バスの4つの声部があります。合唱ではそれぞれの声部で何かキャラクターの違いを鮮明に表すような仕掛けは少ないと思います。オペラは、声部によって、何となくそれに見合った役が与えられています。ちょっと考えてみてください、「おじいさん」の声って、どんな声?いろいろな答えがあると思います。人それぞれのおじいさんのイメージですね。
オペラを作曲するときには、作曲家は登場人物をどんな声部にするか考えます。年齢、肩書、性格などが分類の基準になるでしょうか。また、「この人にこの役を歌ってほしい」と思って、作曲する人もいるでしょう。「十人十色」というように、「十人十声」、上にあげた4つの声部も、さらに細分化されています。一般に耳にするような分類と、その分類された声部には、どんなオペラの役があるかをあげてみましょう。これは、声の高低と質で分類されますが、例えば「高いドの音が出たら」とか「30秒以上音を伸ばすことができたら」などというように、数値などで分かれているわけではないので、微妙な線引きもあります。「こんな感じかな」と思っていただければ嬉しいです。
まず女声から?いやいや、テノールから行きましょう。何を隠そう先生もテノールです。ちなみに、「『テノール歌手』のふじやまのぼるです」という人がいますが、「テノール」は歌手の声域を示す言葉なので、「『テノール』のふじやまのぼるです」が正しいです。厳密には。

テノール

ムン・セフンの画像
ムン・セフン<第8回第1位受賞>
(テノール・韓国)
男声の高い声ですね。もともとの語源は引き延ばす(tenere)からきています。その昔教会で歌われていた讃美歌などは、1つのメロディーの歌が主流でした。2つ以上のメロディーがハモるようになったとき、基準となるメロディーを出していたのがテノールパートでした。
 
テノールと言っても様々な役があります。主なものをご紹介します。どちらかというと、若い主役を張るイケメンの役が多いです。(1)から(5)に進んでいくうちに、だんだんイメージがマッチョ化していきます。
(1)レッジェーロ
軽い、という意味です。音楽用語にもなっていますね。典型的な役としては、ロッシーニの「セビリャの理髪師」のアルマヴィーヴァ伯爵や「シンデレラ」のドン・ラミーロなど、王子さま的な提灯ブルマの似合う役どころです。コロコロと細かく声を動かすコロラトゥーラという超絶技巧を駆使することがあります。
(2)リリコ
リリックな、抒情的なということです。もっとも一般的なテノールですね。役柄としても普通の人。ヴェルディの「椿姫」のアルフレードやプッチーニの「ラ・ボエーム」のロドルフォなど。
(3)リリコ・スピント
スピントとは「押し出された」という意味です。リリコより力強く役柄も重みが増し、さらに劇的表現が求められます。ヴェルディの「アイーダ」のラダメスや「イル・トロヴァトーレ」のマンリーコ、プッチーニの「トスカ」のカヴァラドッシや「トゥーランドット」のカラフなど。
(4)ドラマティコ
ドラマティックなつまり劇的なテノールです。本物にはなかなかお目にかかれません。ヴェルディの「オテロ」のオテロ、レオンカヴァッロの「道化師」のカニオなど。
(5)ヘルデンテノール
ワーグナーの主役級テノールに使われます。ヘルデンとは英雄のこと。(1)から(4)はイタリア語でしたが、(5)はドイツ語。ワーグナー以外ですと、R.シュトラウスの「影のない女」の皇帝、ベルクの「ヴォツェック」の鼓手長など。
その他、声の種類ではありませんが、劇にスパイスを与えたり、狂言回しの役割を担ったりするキャラクター・テノールがあります。こちらはイケメンでもマッチョでもありません。年齢もどちらかというと高めです。ワーグナーの「ニーベルングの指環」のローゲやミーメ、ベルクの「ヴォツェック」の大尉など。
次回は、低い方に行ってみましょう。