声部のはなし(2)~アルト・バス~

【ふじやまのぼる先生のオペラ講座(9)】
今回は低い方の、アルト・バスについてご紹介します。

アルト

ムン・セフンの画像
伊原 直子<審査委員>
(アルト・日本)
女声の低い声ですね。語源はなんと「高い」。「背が高い」の意味の高いです。上ってことですね。基準音の上の音、ですからテノールよりも高いパートを「アルト」って言ったんです。だからアルト=高い。「ソプラノのほうが高いじゃん!」その話は、次回いたしましょう。
「アルトにもリリコとかレッジェーロとかってあるの?」いい質問ですね。残念ながらあまり使われません。それから、厳密に女声の低い声を表す場合、「コントラルト」というのが正確です。フランスで「アルト」と言うと、ヴィオラのこと。
アルト(コントラルト)の役は、超人的な能力を持った人に割り振られることが多いです。ヴェルディの「イル・トロヴァトーレ」のアズチェーナ(ロマの老婆)や「仮面舞踏会」のウルリカ(占い女)、ワーグナーの「ラインの黄金」と「ジークフリート」の両方に登場するエルダ(智の女神)など。
アルトはとても貴重な存在。絶滅危惧種です。オペラコンクールの審査委員の伊原直子先生は、本当に素晴らしい深く知性に富んだ声で、ワーグナーの作品やマーラーの交響曲には欠かせないアルトです。
*ロマ:以前はジプシーと呼んでいました。

バス

男声の低い声です。「基礎」という意味もあります。英語の(base)とも繋がります。役としては、おじいさんやお父さん、王様や高僧などの偉い人。好色な金持ちやけちん坊、その金に群がる従僕。日陰の職業などに割り振られることが多いです。バスが「王子様やりたい!」と言っても、残念ながらバスの王子様って聞いたことがありません。バスにはいくつかの種類があります。厳密に区分するのは至難の業なので、ここでは3つご紹介。大まかに。
(1)バッソ・ブッフォ
ブッフォは喜劇性を表します。モーツァルトの「フィガロの結婚」とロッシーニの「セビリャの理髪師」の両方に出てくるバルトロ(好色な医師)や、「ドン・ジョヴァンニ」のレポレッロ(従僕)、ドニゼッティの「愛の妙薬」のドゥルカマーラ(いんちき薬売り)など。朗々と歌うというよりは、早口でまくし立てる歌い方がしばしば登場します。
(2)バッソ・カンタンテ
カンタンテは直訳すると歌手ということです。まあ、歌うようなバス、言い換えれば美しい旋律を得意とする叙情的で少し高めのバス、ということになります。ヴェルディの「ドン・カルロ」のフィリッポ2世(王様)や、R.シュトラウスの「ばらの騎士」のオックス男爵(好色なけちん坊)など。
(3)バッソ・プロフォンド
プロフォンドは「深い」です。深く豊かな歌声のバスということになります。モーツァルトの「魔笛」のザラストロ(高僧)や、ヴェルディの「リゴレット」のスパラフチーレ(殺し屋)など。
次回は、真ん中のお話をしましょう。