モーツァルト作曲「ドン・ジョヴァンニ」 Don Giovanni(歌詞:イタリア語) vol.2

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(4)】
初演:1787年10月29日 プラハ国立劇場

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ

17世紀 スペインのセビリャ
第2幕
[街路]
主人の行いに嫌気のさしたレポレッロは暇を願い出るが、金を握らされてやむなく腐れ縁を続ける。次にドン・ジョヴァンニは、ドンナ・エルヴィーラの女中を目標に定め、身分の違いをなくすために、レポレッロと衣装を取り換える。レポレッロがドン・ジョヴァンニの服装に着替えたとき、窓辺にドンナ・エルヴィーラが現れる。夕暮れ時をいいことに、レポレッロを窓下に立たせ、身振り手振りをさせながら、ドン・ジョヴァンニは彼女を口説き始める。ドンナ・エルヴィーラもその気になって家から出てくる。彼女はドン・ジョヴァンニの服を着たレポレッロと愛を交わすが、ドン・ジョヴァンニが大声を出すので、二人は逃げ去る。邪魔者がいなくなったところで、レポレッロに変装したドン・ジョヴァンニは、マンドリンを弾きながらカンツォネッタ(小さい歌)「さあ、窓辺においで」を歌い女中を誘い出す。しかし折り悪く、女中の代わりにマゼットが、ドン・ジョヴァンニを懲らしめるために仲間を集め武装してやってくる。レポレッロの服を着ていることをいいことに、ドン・ジョヴァンニはアリア「お前たちの半分は」を歌い、攻撃の威力を半分にさせ、マゼットを一人にさせた後、彼をボコボコにして逃げ去る。マゼットの悲痛な叫びを聞いたゼルリーナが現れ、アリア「あんたが良い子にしていたら」を歌い、彼を慰める。
[夜の暗い庭]
ドンナ・エルヴィーラと偽ドン・ジョヴァンニが庭で抱き合っていると、ドンナ・アンナとドン・オッターヴィオが現れるので逃げるが、逃げた方からゼルリーナとマゼットがやってくるので見つかってしまう。ドンナ・エルヴィーラは、「この人は私の夫になるので許して」と言うが、敵を殺そうと四人は息巻く。仕方なくレポレッロは正体を現し、アリア「ああ、お許しください」を歌い、隙を見て逃げ去る。ドン・オッターヴィオは、アリア「私の恋人を慰めて」を歌い、殺人犯への復讐に向かう。残ったドンナ・エルヴィーラは、アリア「あの恩知らずは私を裏切り」を歌い、いまだにドン・ジョヴァンニのことが忘れられない苦しさを訴える。
[墓地]
ドン・ジョヴァンニとレポレッロが現れ、ドン・ジョヴァンニはこれまでの顛末を笑いながら話す。するとどこからか「その笑いも明日の朝まで」との声が聞こえてくる。あたりを探してみると、そこには恨みを残し死んでいった騎士長の石像が。レポレッロは腰を抜かす。ドン・ジョヴァンニが戯れに石像を晩餐に招くと、その石像は頷く。逃げ去る二人。
[ドンナ・アンナの部屋]
ドン・オッターヴィオはドンナ・アンナと早く結ばれたいと願うが、彼女に「こんな時にそんな話は・・・」と言われるので、思わず「冷たい人」と言ってしまう。ドンナ・アンナは、私の気持ちもわかってと、アリア「おっしゃらないで、愛しい人よ」を歌う。
[ドン・ジョヴァンニの屋敷]
ドン・ジョヴァンニが晩餐を楽しんでいる。レポレッロはつまみ食いをしている。BGMには、当時流行っていたオペラ「ウナ・コーザ・ラーラ(椿事)」や、オペラ「漁夫の利」、「フィガロの結婚」の「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」などが演奏される。そこにドンナ・エルヴィーラが現れ、「どうぞ、改心してください」と訴えるが、ドン・ジョヴァンニは取り合わない。彼女はあきらめて帰ろうとするが、入り口で悲鳴を上げて逃げ去る。レポレッロに見に行かせると、彼も悲鳴を上げて戻ってきて、「本当に石像が来た」と告げる。現れた騎士長はドン・ジョヴァンニに改心を迫るが、彼は拒絶する。最後には床が割れ、地獄の業火が燃え上がり、石像は彼の手をつかんで、地獄に引きずり込む。すると舞台は元通りに戻り、そこにドンナ・アンナたちが現れる。レポレッロは事の次第を皆に告げる。驚く一同。そして、ドンナ・アンナはドン・オッターヴィオに結婚は一年待ってと告げ、彼も同意する。ドンナ・エルヴィーラは修道院に入ると言い、ゼルリーナとマゼットは新婚生活を楽しむことにする。レポレッロはもっとまともな主人を探しに出かける。悪行を行う者の最後はこの通りと歌って幕となる。

自選役

このオペラからは、ドンナ・アンナ、ドン・ジョヴァンニの2役が、静岡国際オペラコンクールの第二次予選自選役リストに含まれています。

「ドン・ジョヴァンニ」の今後の上演案内

(1)ひろしまオペラルネッサンスでの上演
    2021年8月21日、22日(広島市)
    http://h-culture.jp/opera/renaissance/event3/entry-2601.html#ttl
(2)みつなかオペラでの上演
         2021年12月11日、12日(兵庫県川西市)
    https://www.kawanishi-bunka-sports.com/bunka/opera/index.html
(3)関西二期会での上演
    2022年3月12日、13日(兵庫県西宮市)
         https://www.kansai-nikikai.com/publics/index/69/

ドン・ジョヴァンニとプラハ

ウィーンであまり人気がなく危険視され、早々に上演中止された前作「フィガロの結婚」。しかしプラハでは熱狂的に迎えられました。「ドン・ジョヴァンニ」は、そんなプラハからの依頼で作曲され、初演されています。最後の晩餐のBGMで使われたビセンテ・マルティーン・イ・ソレル(1754-1806)作曲の「ウナ・コーザ・ラーラ(椿事)」は、上演中止に追い込まれた「フィガロの結婚」の代わりに上演されたオペラです。またジュゼッペ・サルティ(1729-1802)作曲の「漁夫の利」は、「フィガロの結婚」と同じような「貴族vs召使」的な内容のオペラでした。このあたりにモーツァルトの遊び心を感じます。最後に「フィガロ」のメロディーが出てくると、レポレッロが「これは有名なやつだ」と歌うのもご愛敬。プラハへのお礼も含まれていたと思われます。ちなみに、モーツァルトはこの「漁夫の利」のメロディーを気に入っていたのか、はたまた当時の人気の曲だったからか、このメロディーを使って「ピアノのための変奏曲KV.460(454a)」を作曲しています。

参考CD

有名なオペラだけに、数多くのCDが存在します。ここでは、2つご紹介します。
参考CD(1)
指揮:ミヒャエル・ハラース
ドン・ジョヴァンニ:ボー・スコウフス 他(2002年録音)
有名どころはいません。ですが良いんです。若手・中堅歌手がみんな一丸となって「ドン・ジョヴァンニ」に取り組んでいる感じです。中でもスコウフスのドン・ジョヴァンニ、ピエチョンカのドンナ・アンナがとても良いんです。指揮のハラースは劇場の人。オペラをまとめる腕は天下一品。求心力のある音楽が、常に躍動しています。プラハで初演されたあと、ウィーンで演奏されたときに、オッターヴィオを歌った歌手が「こんなアリア歌えない」と言ったので、モーツァルトは新たなアリアを作曲して、いくつか手を加えています。そのため、「プラハ版」「ウィーン版」という2つのヴァージョンが存在します。たいていの上演や録音は、2つのヴァージョンを混ぜて行われることが多いのですが、このCDはその両方の違いがわかるように収録されています。
参考CD1画像
参考CD(2)
指揮:テオドール・クルレンツィス
ドン・ジョヴァンニ:ディミトリス・ティリアコス 他(2014年録音)
先生はこのCDを聴いて、衝撃を受けました。なんというドン・ジョヴァンニ。なんというモーツァルト。モーツァルトの音楽って、みなさんも何となくのイメージはお持ちですよね。しかし「ドン・ジョヴァンニ」は、そんなモーツァルトの中でも最も衝撃的な音楽だと思います。先生の英文学の先生は、「ドン・ジョヴァンニは2枚目しか聴かない」と言っていました。「ドン・ジョヴァンニ」のCDは、全曲で3枚を要します。そのうちの2枚目は、割とモーツァルトのイメージに近い音楽がちりばめられています。しかしこのCDは全く違う。2枚目ですら、寒風吹きすさぶ激しいモーツァルト。疾風怒濤のモーツァルト。「ドン・ジョヴァンニを初めて聴く」という方にはお勧めしません。が、一聴の価値あり!ちなみにクルレンツィスは、「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トゥッテ」も録音しています。
参考CD2画像