ワーグナー作曲「さまよえるオランダ人」 Der fliegende Holländer vol.1

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(12)】
初演:1843年1月2日 ドレスデン 宮廷歌劇場

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ

18世紀 ノルウェーの海岸地方
物語が始まる前の物語
かつてオランダ人は、その傲慢さから、彼の乗る船は悪魔に呪われ、死ぬことも許されず、永遠に海をさまよい続けることになってしまった。ただ7年に1度だけは上陸が許されており、上陸した時オランダ人に「心からの愛」を誓う女性が現れたら、その呪いは解かれるのであった。そして、その7年目がやって来た…。
嵐の中の船のイラスト
第1幕 ノルウェーの海上
ダーラント船長の船の水夫たちは、嵐を避け陽気に歌いながら船を入り江に避難させる。ダーラントは、「母港にこんなに近くまで来ているのに」と嘆くが、嵐に立ち向かった水夫たちに休息をとらせ、舵手に見張りを任せて仮眠をとる。
舵手は「はるかな海から」を歌い見張りを続けるが、睡魔に襲われ眠ってしまう。
そこに黒いマストに赤い帆を張ったオランダ人の船が現れる。待ちに待った7年目の今日、オランダ人は上陸する。彼はアリア「期限は切れた」を歌い、自身のこれまでの体験や思いを語り、自分のために生涯を捧げてくれる女性など現れるのかと嘆く。
ダーラントが目を覚まし、横にいる船に驚き舵手を起こす。慌てて起きた舵手が、横の船に声をかけるが返事はない。ダーラントは、陸上にいるオランダ人を見つけ声をかける。オランダ人はダーラントに一夜の宿を求め、お礼に高価な宝石を与えるという。欲に目がくらんだダーラントは断る理由もなく家に招くことにする。さらにオランダ人は、ダーラントに娘がいたら私と結婚させてくれと申し出る。お礼は船に積んでいる宝石すべて。垂涎の眼差しでダーラントは、結婚も承諾。そこに穏やかな風が吹き始め、二艘揃って娘の待つ港へ急ぐ。
第2幕 ダーラントの家
娘たちが「糸つむぎの歌」を歌いながら糸車を回している。部屋の壁には、オランダ人の肖像画が掛けられている。ダーラントの娘ゼンタは、糸つむぎもせずに難しい顔をして、肖像画のオランダ人のことを考えている。
皆にせがまれたゼンタは、バラード「海で、あの船に出会ったことがあって」を歌い、「さまよえるオランダ人の伝説」を皆に聞かせる。最後は非常に興奮し、自分こそオランダ人を救う娘だと歌う。
そこに恋人の猟師エリックがやってくる。彼は、ダーラントたちの帰宅を告げ、娘たちは出迎えに行く。迎えに出ようとするゼンタを引き留めて、エリックは結婚の話をするが、ゼンタは「迎えに出ないと父がどう思うか」と言い訳し、エリックのそばから離れたい様子を見せる。エリックは昨夜見た夢の話をする。それは、ダーラントが見知らぬ男を連れ帰り、ゼンタと二人海の遠くに去るという夢。その男とは、壁にかかる「オランダ人」であったと。ゼンタは運命的なものを感じ、再び絵に向かい歌いかける。エリックは絶望し去る。
そこへダーラントが見知らぬ男を連れて帰ってきて、アリア「娘よ、この見知らぬ方を歓迎しておくれ」を歌い、オランダ人を紹介する。ゼンタは一目見て、その男が「さまよえるオランダ人」だと気付き、自分の運命を感じる。ダーラントが座を外した後、二人はお互いの身の上を話す。ゼンタは永遠の愛を誓う。ダーラントが戻ってきて二人の意思を確認し、婚約成立を喜ぶ。
結婚のイラスト

「さまよえるオランダ人」の今後の上演案内

新国立劇場での上演
2022年1月26日、29日、2月2日、6日(東京都渋谷区)
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/derfliegendehollander/

豆知識「さまよえるオランダ人は、今もさまよっている!?」

自身が経験した嵐の航海を、荒々しい音楽に描写したといわれています。また物語はハイネを基にし、いろいろなエッセンスを加えて完成されました。
飲み物のイラスト
あらすじでは3つの幕に分けて紹介していますが、最初の構想では、全体を1つの幕として切れ目なく上演されるように作曲されました。ワーグナーは劇場を知り尽くしていたので、それぞれの劇場の機能性を考えて、1幕でも3幕仕立てでも上演できるよう楽譜に指示がしてあります。休憩があれば、観客に飲み物などの販売もできますから、劇場としても複数幕の方が良いのかもしれませんね。現在では舞台転換を円滑に行える歌劇場では、ワーグナーの意図した通り全体を1つの幕として切れ目なく上演しています。
その他にも、1841年に最初の完成を見てから、様々な劇場での上演に際し、細々とした改訂が加えられ、「これが完成品」というものは存在しません。一応1896年にベルリンで刊行された、指揮者フェリックス・ワインガルトナー(1863-1942)の校訂による楽譜を使うことが多いですが、その楽譜をそのまま演奏するのではなく、劇場や指揮者により、様々な手が加えられることも事実です。ぱっと違いがよくわかるのは、ゼンタのバラードの調性(初稿はイ長調、ワインガルトナー版はト長調)や、序曲と終幕の終結部でしょうか。