プッチーニ作曲「ラ・ボエーム」La Bohème(歌詞:イタリア語)vol.1

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(13)】
初演:1896年2月1日 トリノ、レージョ劇場(王立歌劇場)

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ

1830年頃のパリ
第1幕 パリの屋根裏部屋 クリスマス・イヴ
詩人のロドルフォと画家のマルチェッロは、それぞれ仕事をしているが、寒さのため全くはかどらない。暖炉にくべる薪が無いのだ。やむなく詩人の原稿を燃やすが、あっという間に消え、また寒さが戻る。
暖炉のイラスト
そこへ哲学者のコッリーネ、音楽家のショナールが続けて帰ってきて、久々の収入と薪や食べ物を皆にもたらす。喜ぶ四人。だが、そこへ3ヶ月分の家賃の催促に家主がやってくる。宥めすかし、最後には脅かして家主を追い出した彼らは、イヴの街へと繰り出すことにする。しかしロドルフォだけは5分だけ時間をもらい、残り仕事を片付けてから出掛けることにし、三人を見送る。
時間をもらったのはいいが、一向に仕事がはかどらないロドルフォ。そこへ隣人のミミがろうそくの火を借りにやってくる。ろうそくに火を灯すと、急なめまいに襲われたミミ。ロドルフォは介抱し、その美しい顔に見入る。落ち着いたミミはお礼を言って帰ろうとするが、鍵をなくしたことに気付く。帰ってほしくないロドルフォは鍵を見つけるが、知らんぷりして自分のろうそくをそっと消す。
暗闇で鍵を探す二人の手と手が触れる。ロドルフォはアリア「冷たい手を」で自己紹介をする。ミミはアリア「私の名はミミ」で答える。意気投合した二人は、二重唱「ああ愛らしき乙女」を歌い、イヴの街に消えていく。
第2幕 1幕直後のカルティエ・ラタン、カフェ・モミュスの前の雑踏
一足先に着いていた三人に合流したロドルフォとミミ。彼は皆にミミを紹介し、食事を始める。
そこへマルチェッロの元カノのムゼッタが、パトロンの老人と現れる。まだ相手のことが好きなのに、素直になれない二人。ムゼッタはマルチェッロの気を引こうとアリア「私が街を歩くとき」を歌う。イライラするマルチェッロ。
夜の街のイラスト
急に大声を出し、足が痛いと騒ぎだすムゼッタ。パトロンの老人は急いで新しい靴を買いに席を外す。邪魔者がいなくなったムゼッタは、マルチェッロの胸に飛び込む。

そこに今夜の勘定書きが運ばれてくる。その値段に驚く一同だが、ムゼッタはそれを老人に押し付けることにし、六人は雑踏に紛れて消えていく。靴を持った老人が戻ってきたとき、残っていたのは高額の勘定書きだけだった。

豆知識「もう一つ?の『ラ・ボエーム』」

「ラ・ボエーム」は、フランスのアンリ・ミュルジェル(1822-1861)が書いた作品がもとになっています。雑誌の記事に書いたのが最初で、その後戯曲としてまとめ、さらには「ボヘミアン生活の情景(Scènes de la vie de bohème)」として1851年に小説にもしています。
カフェのイラスト
プッチーニ以外にも、この作品をオペラ化しようと思った作曲家がいました。ルッジェーロ・レオンカヴァッロ(1857-1919)です。彼は、オペラ「道化師」の作曲家として有名ですが、その当時は台本も作曲も自分で行っていました。ある日ミラノのカフェで、ばったり出会ったプッチーニとレオンカヴァッロ。会話の中で、2人が同じ「ラ・ボエーム」というオペラを作曲していることがわかります。当時プッチーニはリコルディ、レオンカヴァッロはソンゾーニョという、ライバル関係にあった出版社と関係していたため、状況を知った出版社としても何か手を打たなければなりません。
先手を打ったのはレオンカヴァッロ。新聞に「レオンカヴァッロが『ラ・ボエーム』というオペラを作曲中」と報じさせます。プッチーニも「彼は彼で作曲すればいい、評価は世間が下す」という趣旨のことを述べて反撃しています。
自分で台本を考える必要のないプッチーニは、ルイージ・イッリカ(1857-1919)とジュゼッペ・ジャコーザ(1847-1906)という名コンビに台本を書かせ、レオンカヴァッロより先に初演してしまいました。
レオンカヴァッロの「ラ・ボエーム」は、プッチーニに遅れること1年、1897年5月6日にヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演されています。しかし、評判ははかばかしくありませんでした。以降、レオンカヴァッロはプッチーニとは口もきかないほど険悪な関係になってしまったとか。
2つの作品の違いはいくつかありますが、レオンカヴァッロはミュルジェールの原作に忠実なのに対し、プッチーニは原作にはとらわれず、起承転結のはっきりした、オペラ上演に適したものに作り替えています。また、レオンカヴァッロが、自由奔放な原作のミミの性格をそのままオペラ化していますが、プッチーニは、彼好みの悲劇のヒロインに生まれ変わらせています。いくつかの音源が出ていますので、比較して聴いてみるのも面白いですよ。
Leon Cavallo
またプッチーニの「ラ・ボエーム」初演のちょうど100年後にあたる1996年に初演されたミュージカル「レント」は、「ラ・ボエーム」を下敷きとし、舞台をニューヨークに移した設定で展開されていきます。映画化されDVDにもなっているので、興味のある人は観てくださいね。ちょっとぶっ飛んだ登場人物に驚くかもしれませんが、常識にとらわれない「ボヘミアン」としての彼らに、共感する人も多いとか。日本でも何度も上演され、最近では2020年に公演を行っている人気のミュージカルです。
上演では2幕まで続けて上演して休憩に入ることが多いです。我々もここで休憩しましょう。次回、3幕以降をお届けします。

「ラ・ボエーム」の今後の上演案内

野村道子プロデュース朗読歌劇
2022年1月8日、9日、10日(横浜市磯子区)
https://yes-duo.jp/2022018910laboheme.html

朗読劇ということで、オペラとは少し違った形での上演が楽しみなところです。
1月8日の公演には、第8回コンクールで三浦環特別賞を獲得した城宏憲さんが、ロドルフォ役で出演します。