プッチーニ作曲「ラ・ボエーム」La Bohème(歌詞:イタリア語)vol.2

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(13)】
初演:1896年2月1日 トリノ、レージョ劇場(王立歌劇場)

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ

1830年頃のパリ
第3幕 小雪舞う2月。アンフェール門近くの居酒屋。早朝。
ミミは、マルチェッロとムゼッタが働く場末の居酒屋にやって来る。現れたマルッチェロに、ミミは二重唱「あなたがここにいると思って」で、ロドルフォはとても嫉妬深く、「お前は自分には合わないから、他の恋人を見つけろ」と言い出し、もう生活は破綻しかけていると、涙ながらに訴える。ミミのひどい咳に驚くマルチェッロ。
雪景色のイラスト
折り悪くロドルフォが起きてくるので、ミミは物陰に隠れる。マルチェッロに事情を聞かれたロドルフォは、強がって「浮気なミミとは別れる」と言うが、本心は「ミミは病気で貧乏人の自分と一緒にいると、薬も買えず死んでしまうから別れる」と言う。
そこへミミの咳とすすり泣きが聞こえてくる。驚くロドルフォにアリア「あなたの愛の呼ぶ声に」を歌い、ミミは別れを告げる。居酒屋の中からは、マルチェッロとムゼッタのけんかの声が聞こえる。動と静の二組の恋人たちは、お互いに別れを告げる。
第4幕 1幕と同じ屋根裏部屋。第3幕から数か月後。
ロドルフォとマルチェッロは、仕事をしている…ように見せかけて、彼らはミミやムゼッタのことが忘れられず、まったく仕事が手についていない。お互い相手に気付かれないように元カノとの思い出の品を手に、二重唱「もうミミは戻って来ない」を歌う。
そこにショナールとコッリーネが食料を持って帰ってきて、しばしの昼食となる。食事をしながら遊びに興じ、さらに各種ダンスを踊り狂い、最後には火かき棒やスコップを持ち出してのふざけた決闘となる。
そこにムゼッタが血相を変えて飛び込んでくる。ミミの具合が悪いのだ。ベッドに横になるミミ。ムゼッタは薬を買うお金を工面するため、自分のイヤリングを売りに、マルチェッロと出ていく。
コッリーネは、アリア「さらば古外套よ」を歌い二人に続き質屋へ向かい、ショナールも気を利かせて出ていく。
イヤリングのイラスト
二人きりになったミミとロドルフォ。ミミは初めて会った時のことを語りだす。ロドルフォがわざと鍵を隠したことも知っていると。
しばらくして皆が帰ってくると、ミミは静かに永遠の眠りにつく。すでに息を引き取っていることに気付く一同。様子がおかしいのを察したロドルフォは、「ミミ!」と叫び、彼女の上に泣き伏す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
のぼる先生のイラスト
ボエームは、起承転結がはっきりしていること、音楽が何より素晴らしいこと、感動のフィナーレ、など初心者が最初に観ることをお勧めするオペラです。時間的にもそう長くないですしね。1・2幕がクリスマスを描いているため、クリスマスシーズンに上演されることも多いです。先生は、最後ロドルフォが「ミミ!」と叫ぶ場面で、必ず泣いてしまいます。ボエームを観られる方は、いつもより多めにハンカチを持って劇場に行かれることをお勧めします。

自選役

このオペラからは、ミミ、ロドルフォの2役が、静岡国際オペラコンクール二次予選自選役リストに含まれています。

参考CD

参考CD(1)
指揮:トゥリオ・セラフィン
ミミ:レナータ・テバルディ
ロドルフォ:カルロ・ベルゴンツィ 他(1959年録音)
先生が最初に聴いた「ラ・ボエーム」のCDです。大学生の時、ミミのアリアのピアノ伴奏を頼まれて、必死に練習しながら、曲の雰囲気をつかむため何度も聴いた思い出深いCDです。大学の先輩から、「イタリアオペラを聴くなら、ソプラノはカラステバルディ」と言われ、手に入りやすかったテバルディのCDを買いました。ミミを歌うレナータ・テバルディ(1922-2004)は、このコーナーによく登場するマリア・カラスのライバルとして位置づけられてしまった感があります。しかし、二人の得意とするレパートリーには微妙なズレがあり、スカラ座などの天井桟敷の住人が勝手に作り上げたものだと思います。テバルディのミミは絶品。ロドルフォのカルロ・ベルゴンツィ(1924-2014)との二重唱も美の極致です。
テバルディCD
参考CD(2)
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ミミ:ミレッラ・フレーニ
ロドルフォ:ジャンニ・ライモンディ 他(1963年録音)
これは、ウィーン国立歌劇場のライヴ録音です。この日、この劇場では初めて、イタリア語で「ラ・ボエーム」が演じられました。この年の6月まではドイツ語で上演されていたのです。この言語の変更を巡り、カラヤンや劇場の首脳陣と劇場スタッフとの間にかなりのいざこざがあり、初日の上演は劇場スタッフのストライキにより中止に追い込まれます(この件は、後日お伝えしますね)。このCDは2日目の公演に当たるものですが、この上演は、絶賛の嵐だったといいます。ライヴならではのキズもありますが、それ以上の熱気を含んでいて、先生は気に入っています。ミレッラ・フレーニ(1935-2020)のウィーン国立歌劇場へのデビューでもありました。主要な役はイタリア人歌手が歌い、端役をウィーン国立歌劇場の座付き歌手が歌っています。ウィーンの名花ヒルデ・ギューデン(1917-1988)が、ムゼッタを演じています。録音なので見ることはできませんが、フランコ・ゼッフィレッリ(1923-2019)の演出は名舞台として、その後443回上演され続けて現在に至っています。今後は、来年1月に再演の予定。名舞台は演出家が亡くなっても生き続けるのです。先生もクリスマスのウィーンで289回目の上演を観ましたが、第2幕の二段構造になっているカルティエ・ラタンの雑踏は何とも言えず、クリスマスの雰囲気を醸し出していました。後年カラヤンは、フレーニをミミとして、ベルリンフィルと再録音しています。
カラヤンCD
参考CD(3)
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ミミ:ミレッラ・フレーニ
ロドルフォ:ルチアーノ・パヴァロッティ 他(1972年録音)
カラヤンの再録音です。ミミは同じフレーニが担当しています。ロドルフォは、フレーニと同郷で同い年のルチアーノ・パヴァロッティ(1935-2007)。三大テノールの一人として、また唯一のイタリア人として知られています。とても大きな体の歌手としても知られており、細かい演技を得意とはしていませんでしたが、その体から発せられる音圧はすさまじいものがあります。高音も楽々出しているように見えました。オーケストラはカラヤンの手兵ベルリンフィル。ちなみにコッリーネ(コルリーネ)を歌うニコライ・ギャウロフ(1929-2004)は、フレーニの旦那さんです。
カラヤン・ベルリンCD