ヴェルディ作曲「イル・トロヴァトーレ」 Il trovatore(歌詞:イタリア語)vol.2

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(14)】
初演:1853年1月19日 ローマ アポッロ劇場

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ(つづき)

第3部 「ロマの子」
第1場 遠くにカステロール城を望むルーナ伯爵の野営地
兵士たちが怪しいロマの老婆を捕まえてくる。伯爵はその老婆がアズチェーナで、マンリーコの母であり、昔自分の弟をさらったことを知る。彼は火刑台を用意させ、マンリーコをおびき出す道具として老婆を利用する。
チャペルのイラスト
第2場 カステロール城内
マンリーコとレオノーラは愛を確かめ合い、彼はアリア「いとしの君よ」を歌う。二人が城内の礼拝堂で結婚式を挙げようとしたとき、アズチェーナが捕らえられ火刑台で火あぶりにされそうだという知らせが舞い込む。マンリーコは「恐ろしい炎」を歌い、驚くレオノーラを残し、母救出に向かう。
第4部 「処刑」
第1場 城壁の下、近くに塔が見える
マンリーコは戦いに敗れ、塔の中に幽閉されている。レオノーラが現れ、アリア「恋はばら色の翼に乗って」を歌う。祈りの声と、マンリーコの別れの歌が聞こえてくる。伯爵が現れ、レオノーラはマンリーコの命乞いをする。伯爵は彼女が自分のものになるなら助命しようと約束する。応じる彼女だったが、その時持っていた毒を飲む。
第2場 城内の牢獄
アズチェーナとマンリーコが捕らえられている。二重唱「われらの山に」を歌い、彼女はマンリーコを眠らせる。そこにレオノーラが入ってきて、マンリーコに命は救われたから逃げるよう促す。マンリーコは自分のために体を捧げるのかと怒るが、彼女が毒で徐々に弱っていくのを目の当たりにする。そこに伯爵が現れ、彼女の裏切りを知り、マンリーコを断頭台へと向かわせる。アズチェーナが処刑をやめさせようとするが、時すでに遅し。彼女は「あれはお前の弟だよ、母さん、復讐は果たした」と言ってこと切れる。立ち尽くす伯爵。

ロマ:以前はジプシーと呼んでいました。
毒瓶のイラスト

豆知識「楽譜にない音」

ヴェルディの中期の名作です。同年に「椿姫」が、2年前には「リゴレット」が初演されています。また各登場人物にアリアが用意され、声の競演としても楽しむことができます。
男性歌手のイラスト
しかし何といっても、第3部の幕切れで歌われるマンリーコの「恐ろしい炎」は聞きものです。ここでテノールは、楽譜に書いていない高い「ド」の音を出すことが通例となっています。観客もこの音を出すか出さないか、固唾を呑んで見守ります。ちゃんと出れば拍手喝采!
で、す、が…。外すとテノールとしての生命を絶たれる可能性もあります。最近日本でも時々見られますが、海外の、とくにイタリアの天井桟敷からのブーイングを受けた歌手は、相当へこみます。このアリアではないですが、ブーイングされて、怒ってそのまま帰っちゃった歌手もいますから!
そ、こ、で…。心配なテノールは、このアリアだけ半音下げてオーケストラに演奏してもらいます。ということは、高い「シ」の音まで出せば(出れば)大丈夫。絶対音感のない人にはわからないし。
わかりますよ!転調するとき、何だかトップギアで走っていた車が突然セカンドに落とすような「ガコン」という感じがしますから。
自身のないテノールは、リッカルド・ムーティに指揮していただきましょう。ムーティ先生は、「楽譜に書かれていない音は出すべからず」というゴリゴリの楽譜第一主義ですから、高い「ド」の音など関係ございません。
楽譜のイラスト
オペラの題材は、よく宝塚歌劇団の演目に編まれます。「イル・トロヴァトーレ」も、“『炎にくちづけを』~「イル・トロヴァトーレ」より~”として、和央ようかさんのマンリーコ、花總まりさんのレオノーラで2005年に上演されました。

参考CD

参考CD (1)
指揮:アルベルト・エレーデ
レオノーラ:レナータ・テバルディ 他(1959年 録音)
マリオ・デル・モナコ(1915-1982)とレナータ・テバルディ(1922-2004)のコンビは向かうもの敵なしといった感じで、この録音の花といえましょう。ジュリエッタ・シミオナート(1910-2010)を含めたこの三人は、日本との関わりが深く、1956年(昭和31年)から始まった「NHKイタリア歌劇団」で来日しています。三人揃って出演という公演は見つけられませんでしたが、同時期の日本の聴衆を知る貴重な存在といえましょう。「愛の妙薬」にもご登場いただいた、指揮のアルベルト・エレーデ(1908-2001)に率いられたジュネーヴの歌劇場のオーケストラの音、何とも言えず先生は好きです。
eredeCD
参考CD (2)
指揮:トーマス・シッパーズ
レオノーラ:ガブリエッラ・トゥッチ 他(1965年 録音)
フランコ・コレッリ(1921-2003)のマンリーコはすべての音域でよく響く声を出し、早めのテンポでぐいぐいと進めるトーマス・シッパーズ(1930-1977)の指揮と相まって、良い味を出しています。ガブリエッラ・トゥッチ先生(1929-2020)のあたたか味のあるレオノーラは、とてもふくよかで素晴らしい。ここでもシミオナートがアズチェーナを担当し、全体を締めています。
TucciCD
参考CD (3)
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
レオノーラ:ライナ・カバイヴァンスカ 他(1978年 録音)
カラヤンは、1964年にウィーン国立歌劇場音楽監督を辞任してから、しばらくこの歌劇場での指揮は行っていませんでした。しかし10年以上経た1977年に返り咲き「イル・トロヴァトーレ」「フィガロの結婚」「ラ・ボエーム」の3作を指揮しました。この時の「フィガロの結婚」は、CDで聴くことができます。その翌年の「イル・トロヴァトーレ」がこのCDです。知名度ではナンバーワンのカラヤンが連れてくるだけあって、豪華絢爛な歌手陣にまず驚かされます。若々しいカバイヴァンスカのレオノーラ、輝かしい高音を響かせるドミンゴ、気品高い貴族を演じるカップッチッリコッソットヴァン・ダム。挙げだしたらきりがありません。先生の好きな名脇役ツェドニクも登場。ライヴ録音なので、会場の熱狂もストレートに伝わってきます。カラヤンが登場しただけで、公演が終わったかのような熱狂的な拍手。おまけにカラヤンへのインタビューが収録されているのもうれしいところです。
KarajanCD