モーツァルト作曲「コジ・ファン・トゥッテ」Così fan tutte(歌詞:イタリア語) vol.1

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(21)】
モーツァルトが台本作家ダ・ポンテと組んだ3つの作品の第3作。
初演:1790年1月26日 ウィーン、ブルク劇場

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ

現代(オペラが書かれたころ)のナポリ
第1幕
士官のグリエルモフェランド、老哲学者のドン・アルフォンソがカフェで言い争いをしている。グリエルモはフィオルディリージと、フェランドはドラベッラと相思相愛で、愛の誠を信じ切っている。海千山千のドン・アルフォンソは、愛ほど儚いものは無いと言う。そこで三人は愛についての賭けを行うことにする。
こちらも愛を疑わないフィオルディリージとドラベッラの姉妹は、海の見える庭園で互いの恋人の写真の入ったロケットペンダントに見入っている。そこへドン・アルフォンソが元気なく現れる。姉妹たちが心配すると彼は、アリア「話したいが勇気がない」を歌う。さらに問われるので、恋人たちが任地に赴くことになったと告げる。悲しみのあまり失神しそうになる姉妹。そこに恋人たちが現れ、ドン・アルフォンソを交えたコミカルな五重唱となる。
ロケットペンダントのイラスト
海岸に船が現れ、兵隊たちが二人を迎えに来る。太鼓が響き、二人は別れを惜しみながら出征していく。姉妹とドン・アルフォンソは三重唱「風よ穏やかに」を歌う。姉妹が退場すると、ドン・アルフォンソは「女心を信じるのは、海を耕し、砂地で種を蒔くようなもの」と歌い、このバカげた計画を進める準備に向かう。
ホットチョコレートのイラスト
姉妹が住む家の居間。デスピーナは、小間使いの運命を嘆いているが、姉妹たちのホットチョコレートの味見は欠かさない。そこへ悲しみに沈んだ姉妹が現れる。ドラベッラはチョコレートを準備したデスピーナに、アリア「どうしようもないこの思い」を歌って八つ当たりをする。デスピーナは、アリア「男に、兵隊に」を歌って、男なんてごまんといるから、留守中に浮気の一つもなさいませとそそのかす。
実はこの出征は真っ赤なウソ。留守中の姉妹たちの心変わりを試す芝居であった。しかし心配なのは頭の切れるデスピーナ。ドン・アルフォンソは彼女を買収し、協力させることにする。そこで士官たちはアルバニア人に変装させられ、姉妹の家にやってくる。彼らを見てデスピーナは変装とは気付かず笑い出し、正体がばれていないことに安心するドン・アルフォンソ。
その騒ぎに駆け付けた姉妹に、アルバニア人たちは愛の告白をする。それも互いの恋人ではないほうに。姉妹はこの珍客を追い出そうとするが、ドン・アルフォンソの旧友だと聞いて、雑にも扱えない。さらに告白を続ける二人にフィオルディリージは、アリア「岩のように」を歌い、はっきりと拒絶する。ドン・アルフォンソのとりなしで、グリエルモもアリア「そんなにかたくなにならずに」を歌うが、歌の途中で姉妹は自室に逃げ込んでしまう。大満足で大笑いの二人。静かにするよう鎮めるドン・アルフォンソ。フェランドはアリア「愛のそよ風は」を歌い、満足げにグリエルモと出ていく。新たな仕掛けが必要と案を練るドン・アルフォンソ。
庭園。姉妹がこの状況を嘆いていると、「愛が報われないなら死んでやる」とグリエルモとフェランドがなだれ込み、二人は毒薬を飲む。さすがの姉妹も二人を介抱する。デスピーナが化けたニセ医者が現れ、磁石の力で二人を救う。気が付いた二人は、姉妹たちにキスをせがむ。姉妹たちは怒り出し、大騒ぎのうちに1幕が終わる。

豆知識「『コジ・ファン・トゥッテ』とは?」


「コジ・ファン・トゥッテ」とは、「女はみんなこうしたもの」という意味のイタリア語です。モーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」の中に、このセリフが出てきます。言い伝えによると、時の皇帝ヨーゼフ2世がこの「コジ・ファン・トゥッテ」というセリフをもとにオペラを創れと命じたとか。真実かどうかは別として、「フィガロの結婚」の中で、このせりふが歌われるメロディーが、「コジ・ファン・トゥッテ」の序曲にそっくりそのまま出てきます(一音高くなっていますが)。
「フィガロの結婚」で「コジ・ファン・トゥッテ」の歌詞が出てくる
楽譜1
「コジ・ファン・トゥッテ」序曲
楽譜2
このオペラの滑り出しは、順調とはいきませんでした。初演の1ヶ月後、ヨーゼフ2世が崩御します。モーツァルト生前のウィーンでの公演は10回で終わってしまいました。その後は、内容をかなりいじったドイツ語上演や、レチタティーヴォをセリフに変えての上演など、正しい形ではない再構築をされて、各地で上演されます。題名も「恋とたくらみ」だの「娘の貞節」だの、「ゲリラ」なんて題名にされたこともありました。客引きのための浅知恵だと思います。
音楽はともかく、内容が19世紀の人々にあまり良い感情を与えず、いろいろな人が酷評しています。ベートーヴェンは、友人のルートヴィヒ・レルシュタープ*に「…『ドン・ジョヴァンニ』や『コジ・ファン・トゥッテ』のようなオペラは私には作曲できないでしょう。こうしたものには嫌悪感を感じるのです。…」と述べています。ベートーヴェンは、「ドン・ジョヴァンニ」の曲を使って変奏曲を作曲していますが、「コジ・ファン・トゥッテ」に関しては、そのような作品は存在しません。
しかし、19世紀末から20世紀になるといろいろな場所で原語やきちんとしたドイツ語訳で上演されるようになりました。登場人物は男女3人ずつ、合唱もそんなに多くない。そんな理由で音楽大学公演や市民オペラなどで取り上げやすいかもしれません。先生も大学生の時に、日本語訳でしたがフェランドを演じました。内容はこんなでも、モーツァルトの音楽は絶品です。
ルートヴィヒ・レルシュタープ(1799-1860)はドイツの詩人、作曲家、ピアニスト、音楽評論家です。なんとも肩書の多い人ですね。ベートーヴェンのピアノソナタに「月光」という副題を付けたのは、レルシュタープでした。「スイスのルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟のよう」と表現したそうです。まさに詩人。HNKの長寿番組「名曲アルバム」でも、「月光」は、ルツェルン湖の映像が流れていたと記憶しています。詩人としてレルシュタープが知られているのは、シューベルト(1797-1828)の歌曲集「白鳥の歌」の中に作曲された詩が7曲あるからでしょう。レルシュタープはベートーヴェンに詩集を託し、作曲を依頼したようですが、ベートーヴェンの死によりその依頼は果たされませんでした。しかし、シューベルトの死後出版された「白鳥の歌」中に、自分の詩を見つけたレルシュタープは大変驚いたといいます。ベートーヴェンからシューベルトに詩が渡った経緯は不明ですが、素晴らしい作品として世に出たことは、私たちにとても幸せなことだと思います。
Ludwig Rellstab
ルートヴィヒ・レルシュタープ
(1799-1860)
Public domain, via Wikimedia Commons

「コジ・ファン・トゥッテ」の今後の上演案内

(1)藤原歌劇団での上演
日生劇場(千代田区有楽町)
2022年7月1日、2日、3日
詳細は下記URLをご参照下さい。
https://www.jof.or.jp/performance/2207_cosifantutte/
(2)仙台オペラ協会での上演
日立システムズホール仙台(仙台市青葉区)
2022年9月18日、19日
詳細は下記URLをご参照ください。
http://sendai-opera.com/
(3)みつなかオペラでの上演
みつなかホール(兵庫県川西市)
2022年11月5日、6日
詳細は下記URLをご参照ください。
https://www.kawanishi-bunka-sports.com/bunka/kouen/1/1079.html