【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(22)】
初演:1900年1月14日 ローマ、コスタンツィ劇場
主な登場人物
登場人物相関図
時代背景
ナポレオン(1769-1821)がヨーロッパの勢力図を一変させた時代。当時のイタリアは、ミラノ公国、ナポリ王国、ローマ教皇領など、様々な小国に分かれていた。イタリアに進軍したナポレオン率いるフランス軍は、ミラノ公国を滅ぼし、手中に収めたのを手始めに、徐々に南下、各地にフランスの息のかかった共和国を樹立していった。ローマは教皇領であったが、フランス軍はローマ市民を味方に付け、1798年ローマ共和国を建国。しかし反ナポレオンを掲げるナポリ軍や教皇庁に再びローマは奪い返されていた。そんな中、北イタリアの小村マレンゴで、フランス軍とミヒャエル・フォン・メラス将軍(1729-1806)率いるオーストリア軍が決戦を繰り広げていた。
あらすじ
第1幕 6月17日 サンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会 日中
政治犯として、サンタンジェロ城に投獄されていたローマ共和国の元執政官アンジェロッティが、脱獄し教会に駆け込んで来る。彼は、妹の嫁ぎ先であるアッタヴァンティ家の礼拝堂のカギを持っており、その中に逃げ込む。
画家のマリオ・カヴァラドッシは、教会に掲げるマグダラのマリアの絵を描いている。彼はアリア「妙なる調和」を歌いながら、マリアのモデルとした熱心に祈る見知らぬ金髪の女性と、自分の恋人である黒髪の歌姫フローリア・トスカとを対比する。
そこに変わり果てた旧友アンジェロッティが現れ、再会を喜ぶ。折り悪くトスカが現れるので、カヴァラドッシは自分の食事をアンジェロッティに与え、再び礼拝堂に隠れさせる。
人の声が聞こえたことで、トスカは恋人が他の女と会っていたのではないかと疑うが、カヴァラドッシは今夜会うことを約束し、トスカを帰す。再び現れたアンジェロッティが、モデルとしていた女性の兄だと気づくカヴァラドッシ。その時脱獄露見の大砲がとどろき、カヴァラドッシは旧友を連れて教会裏手にある自分の別荘へ急ぐ。
教会にナポレオン大敗のニュースが飛び込む。堂守や聖歌隊の子どもたちが大喜びしていると、警視総監スカルピアが現れ、皆をたしなめる。スカルピアはテ・デウムの準備をさせ、密偵に辺りを捜索させる。そして自らも礼拝堂に入る。
スカルピアは、アッタヴァンティ家の紋章の入った扇子を手に現れる。密偵は空の籠を礼拝堂から見つける。堂守の話から、「アンジェロッティがカヴァラドッシの昼食を食べ逃げた」とスカルピアは推測する。
トスカが「今夜戦勝祝賀会で歌うことになったので会えない」とカヴァラドッシに伝えようと現れるが、彼はいない。代わりにスカルピアが見つけた扇子をトスカに見せ、彼女の嫉妬心をあおる。荘厳なテ・デウム。スカルピアはよこしまな心を歌い、トスカをものにする決意を混ぜ、祈りに加わる。
豆知識「テ・デウムとは?」
テ・デウム(Te Deum)は、キリスト教の讃歌のひとつで、「私たちはあなたを神として賞賛し(Te Deum laudamus)」という歌詞で始まるので、そう呼ばれています。この歌詞を用いて、いろいろな作曲家が作品を残しています。もっとも有名な「テ・デウム」は、アントン・ブルックナー(1824-1896)の作品でしょう。
第2幕 6月17日 ファルネーゼ宮殿 夜
夕食をとるスカルピア。開け放たれた窓からは、階下で催されているナポリ王妃マリア・カロリーナ(女帝マリア・テレジアの娘)主催の戦勝祝賀会の音楽が聞こえてくる。そこにカヴァラドッシが別荘から連行されてくる。アンジェロッティの居場所を問い詰めるスカルピア。「知らない」の一点張りのカヴァラドッシ。
そこに歌い終わったトスカが現れる。スカルピアは、トスカに聞こえるようにカヴァラドッシを拷問にかける。恋人の拷問に耐え切れなくなったトスカは、アンジェロッティの居場所を話してしまう。
そこに、戦勝は誤報、勝ったのはナポレオン軍との知らせが。喜び叫ぶカヴァラドッシはさんざんにスカルピアを罵倒する。怒り心頭のスカルピアは彼を連行させる。
二人きりになったトスカは、スカルピアに恋人を解放するための身代金の額を聞く。スカルピアは金ではなく、身体を要求する。トスカはアリア「歌に生き、愛に生き」を歌い、今までの善行がこの報いとなって帰ってくるとはと、この状況を嘆く。
トスカは身を任せる代わりに、二人の自由を約束させる。スカルピアは、形だけの処刑を行うようスポレッタに命じ、通行許可証など書類を整える。これでトスカは自分のものと喜ぶのも束の間、スカルピアはトスカが手にしたナイフで刺され絶命する。通行許可証をもって恋人のもとに走るトスカ。
第3幕は次回ご紹介します。
「トスカ」の今後の上演案内
奥州市文化会館開館30周年記念事業(岩手県奥州市)
2022年7月31日
http://www.oshu-bunka.or.jp/publics/index/185/
https://www.jof.or.jp/performance/nrml/230102_tosca.html
東京文化会館(台東区上野公園)
愛知県芸術劇場(名古屋市東区)