プッチーニ作曲「トスカ」Tosca(歌詞:イタリア語)vol.2

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(22)】
初演:1900年1月14日 ローマ、コスタンツィ劇場

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ(つづき)

第3幕 6月18日 サンタンジェロ城 早朝
羊飼いの歌が聞こえてくる。少しずつ空が白み始め、教会の鐘が朝の祈りの時を告げる。屋上にカヴァラドッシが連れてこられる。彼は看守に指環を渡し、残していく女性に手紙を書き残したいと願う。看守はそっと席を外す。彼は数行したためるが、トスカのことを思い感極まり、アリア「星は光りぬ」を歌う。
教会のイラスト
そこに思いがけずトスカが現れ、国外への通行許可証を見せる。そして「形だけの処刑が行われるから、うまく演技してね」と今後の状況を説明する。
処刑。銃殺隊が離れると、トスカは倒れているカヴァラドッシに駆け寄る。だが彼は本当に銃殺されていた。驚くトスカのもとに、スカルピア殺害の犯人を捕まえるためにスポレッタたちが現れる。トスカは、「スカルピア、神の御前で」と叫び、屋上から身を投げる。

自選役

このオペラからは、トスカカヴァラドッシの2役が、静岡国際オペラコンクール第2次予選自選役リストに含まれています。

聴いてみよう

第8回コンクールで三浦環特別賞に輝いた城宏憲さんの歌う「星は光りぬ」をお聴きください。城さんは二期会公演でもカヴァラドッシを演じています。先生は第8回コンクール第2次予選で演じた城さんのカヴァラドッシがとても印象に残っています。解説と合わせて、24分くらいからお聴きいただけます。
城宏憲さん「ふじのくにオペラweek」インタビュー&アリア歌唱
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静岡国際オペラコンクール公式YouTubeへはこちらから
城宏憲さん
城 宏憲
(第8回コンクール・三浦環特別賞受賞)

「トスカ」舞台&初演

主要な登場人物がすべて死んでしまうこのオペラ。物語の時代からちょうど100年後に同じローマで初演されました。このオペラは歴史上の事件と密接に関係しているので、珍しく場面の日付が設定されています。また、各幕の舞台となっている3つの場所は現存しています。気兼ねなくローマに行けるようになったら、オペラの舞台巡りを楽しんでみてはいかがでしょう。
Sant Andrea della Valle Roma adjusted
サンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会
第1幕は、美しい天井画や丸天井(クーポラ)で知られているサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会。ロッシーニの「チェネレントラ(シンデレラ)」が初演されたヴァッレ劇場もすぐ近くにあり、同じ「ヴァッレ」という名前が使われています。ちなみに、ヴァッレ(valle)とは、「谷」という意味です。大昔、この辺りが谷だったことが由来とのこと。
第2幕は、現在フランス大使館になっているので、おいそれと見学できませんが、かのミケランジェロ(1475-1564)も関わったという建物の外観だけでも一見の価値があるファルネーゼ宮殿。教会と宮殿の距離は400mと離れていません。
RomaCastelSantAngelo-2
サンタンジェロ城
 
第3幕は、サンタンジェロ城「サンタンジェロ」は聖天使という意味で、屋上に大天使ミカエルの像があることからそう名付けられています。最初はローマ皇帝の墓所として建設され、その後は要塞や牢獄として使用されていました。現在は博物館となっていて見学も可能で、屋上から眺めるローマの街並みも絶景です。1・2幕の場所とは距離があり、ローマ市内を流れるテヴェレ河の対岸にあります。
初演当日は、マルゲリータ王妃(1851-1926)や首相などの要人のほか、ピエトロ・マスカーニ(1863-1945)やフランチェスコ・チレア(1866-1950)などの著名な作曲家も出席していました。初演当時、政情は不安定で、要人殺害目的で劇場内に爆弾が仕掛けられたという噂もあり、最初からピリピリした雰囲気だったといいます。実際にマルゲリータ王妃の夫であるイタリア王ウンベルト1世(1844-1900)は、初演の年の7月に暗殺されてしまいました。
Margherita of Savoy, Queen of Italy
マルゲリータ王妃(1851-1926)
そんな雰囲気の中で初演の幕は開きました。しかし、遅れてきた人を巡ってのトラブルを暴動と勘違いした指揮者のレオポルド・ムニョーネ(1858-1941)は、1幕途中で演奏を中断してしまいます。ムニョーネには苦い思い出があり、1893年バルセロナのリセウ劇場でオペラを指揮中に、アナーキスト(無政府主義者)によって仕掛けられた爆弾が爆発し、20名が亡くなったことがありました。その時ムニョーネにけがはなかったのですが、その記憶がよみがえったのでしょう。しかし再開後は滞りなく進み、まずまずの成功を収めたといいます。

豆知識「マルゲリータ王妃の大好物」

マルゲリータ王妃の大好物は何だと思いますか?そう、その通り。マルゲリータです。正確には、「ピッツァ・マルゲリータ」。1889年にナポリを訪れた王妃のために、バジル(緑)、モッツァレラチーズ(白)、トマト(赤)を使い、イタリア国旗を模したピザを作ったピザ職人。王妃はとても気に入ったとか。ナポリでは一般的なトッピングで、このピザ職人の発明ではないようですが、「ピッツァ・マルゲリータ」と名付け大いに繁盛したとか。ちなみに日本における「ピザの日」は11月20日、この由来もマルゲリータ。彼女の誕生日です。
マルゲリータのイラスト

参考CD

名作オペラだけに、多くの録音が残されています。
参考CD(1)
指揮:ヴィクトル・デ・サバータ
トスカ:マリア・カラス 他 (1953年録音[画像の1954年は誤り])
トスカは、マリア・カラス(1923-1977)の当たり役の1つで、1965年の事実上のオペラ出演からの引退の際にもトスカを選んでいます。録音もこの他に、1964年のパリでの録音もあり、スカルピアは、同じくティト・ゴッビ(1913-1984)が歌っています。カヴァラドッシはジュゼッペ・ディ・ステファノ(1921-2008)。カラスとディ・ステファノは、公私にわたりつかず離れずの関係をずっと続けていました。共演録音も多く、「リゴレット」、「ランメルモールのルチア」、「イル・トロヴァトーレ」など、枚挙にいとまがありません。また、この二人で世界ツアーを行い、カラスが最後に公の場で歌ったのは、1974年、札幌の北海道厚生年金会館でした。
当たり役であり、声の衰えをみせる前の録音であるだけに、本当に素晴らしい。適当な表現かはわかりませんが、彼女の歌唱を例えるならば、この録音は「烈火」のような、1964年の録音は「閃火」のような、そんな表現になるでしょうか。また同じく絶好調のディ・ステファノとゴッビの競演を得て、水を得た魚とはまさにこのこと。指揮のヴィクトル・デ・サバータ(1892-1967)も好サポート。
カラスCD
参考CD(2)
指揮:フランチェスコ・モリナーリ・プラデッリ
トスカ:レナータ・テバルディ 他 (1959年録音)
カラスのライバルと言われているレナータ・テバルディ(1922-2004)。ライバルと言ってもそんなにレパートリーが重なっているわけではなく、有名どころでは、この「トスカ」の他は、「アイーダ」、「レオノーラ(イル・トロヴァトーレ)」、「レオノーラ(運命の力)」、「蝶々夫人」くらいでしょうか。不幸なことに、二人の所属レコード会社が対立関係にあったのと、オペラファンも同時期の2大ソプラノのどちらかに分かれて、「カラス派」、「テバルディ派」として、本人たちの与り知らないところで対立の構図ができてしまったことで、この対立は根深いものとなってしまいました。この「トスカ」は、幸か不幸か二人のレパートリーは重なっており、私たちにとっては、両方の素晴らしい録音を聴くことができます。
テバルディの楚々とした中にも燃えるものを潜んだトスカも素晴らしいですが、男気一本槍のマリオ・デル・モナコ(1915-1982)のカヴァラドッシも見事の一言。アリア「星は光りぬ」の絶唱は一聴の価値があります。
その他、堂守のフェルナンド・コレナのコミカルな歌唱や、スポレッタのピエロ・デ・パルマの本当にスカルピアを恐れてびくびくした歌唱など、隅々まで気を配った配役もこの録音に花を添えています。
テバルディは、1961年の「第3回イタリア歌劇団」の公演でトスカを歌っていて、その録音や映像も残っています。
テバルディCD
もっと新しい録音も映像もたくさんあるのですが、この2点に尽きます。