リヒャルト・ワーグナー作曲「トリスタンとイゾルデ」 Tristan und Isolde vol.1

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(23)】
初演:1865年6月10日 ミュンヘン 宮廷劇場

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

時代背景

伝説上の中世

あらすじ

第1幕 アイルランドのコーンウォールの間の海の上
前奏曲
トリスタンとイゾルデの心理状態を表しているような、安定を求めず常に流転しているような、何とも言えない美しい音楽です。オーケストラのコンサートでも取り上げられます。
第1幕第1場
水夫の歌う歌が聞こえてくる。アイルランドの王女イゾルデは、コーンウォールのマルケ王に嫁ぐため、トリスタンに護衛されて航海している。水夫の歌の中に「アイルランドの娘」との歌詞が出てくるので、それに反応したイゾルデは、侍女ブランゲーネに今の船の位置を訪ね、自分の身の上を嘆く。息が詰まりそうになるのを感じたイゾルデは、ブランゲーネに天幕を開けさせる。するとそこにかじを取るトリスタンの姿が垣間見られる。イゾルデは、トリスタンに挨拶に来るよう侍女ブランゲーネに命じる。
第1幕第2場
ブランゲーネはトリスタンに会い、イゾルデへの挨拶を促すが、トリスタンの代わりに従者のクルヴェナールが答える。クルヴェナールは、イゾルデの婚約者モロルトとトリスタンとの戦いの様子を面白おかしく「海に乗り出したモロルト殿は」を歌う。
第1幕第3場
その歌声を聞き、怒りに震えるイゾルデ。かつてトリスタンはモロルトを討ち、そのとき負った傷をイゾルデに治療してもらったことがあった。イゾルデは、そのことを「一艘の小舟に」を歌い回想する。そんな彼女は治療に現れたトリスタンを見て、すぐに仇だと気付いたが、彼を殺すことができず恋に落ちてしまった。そんな愛するトリスタンが自分のことを王の妻とするために先導するなんて。トリスタンを呪い、ブランゲーネに秘薬の箱を用意させる。
第1幕第4場
船がコーンウォールに近付くので、下船の準備を促すクルヴェナールに、イゾルデはトリスタンに罪の償いをしてもらうまでは下船しない旨伝える。
第1幕第5場
ついにイゾルデのもとに現れたトリスタン。トリスタンは自分を殺せと言うが、そんなことをしてはマルケ王が何と思うかと言うイゾルデ。二人は和解と称して秘薬を飲むが、ブランゲーネが差し出したのは「愛の薬」。船がコーンウォールの港に接岸したときに、トリスタンとイゾルデは愛に陥っていた。

自選役

自選役リスト
このオペラからは、ブランゲーネが、静岡国際オペラコンクール第ニ次自選役リストに含まれています。
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第2幕 コーンウォールのマルケ王の館にある庭園、夜。
マルケ王が狩に出掛ける音の描写で幕が開く。
第2幕第1場
マルケ王の一行の角笛の音が遠ざかっていく。イゾルデはトリスタンが来るのを待っている。やがて角笛の音が近くの泉の流れ出る音に変わる。ブランゲーネがメロートに注意し、松明の火は消さぬよう忠告するが、イゾルデの耳には入らない。
松明のイラスト
第2幕第2場
ついに松明の火は消され、トリスタンが現れる。愛の炎はさらに燃え上がる。途中ブランゲーネの「夜に一人で見張る」との忠告も聞こえてくるが、二人の耳には届かない。愛の二重唱「降りてきておくれ、愛の夜」を歌う。究極の愛は、愛の死にあると二重唱「こうして二人は死ぬのです」を歌う。
第2幕第3場
そのときクルヴェナールが危険を告げ、マルケ王の一行が戻ってくる。マルケ王は、信頼していたトリスタンと妻の裏切りに深く傷つく。王の問いにトリスタンは返す言葉を知らない。彼はイゾルデに死の国へ行くがあなたも共に来るかと静かに問う。イゾルデはどこへでもお供しますと答える。メロートは怒り、斬りかかってくる。トリスタンは剣を抜いて立ち向かうが、メロートの一撃に傷つき倒れる。

豆知識「防火壁」

オペラハウスはよく焼失します。昔はろうそくの明かりで公演していたので、よく燃えました。また、緞帳だの割幕だの、燃えやすいものはたくさんありました。現在では燃えない素材の幕を使用したり、各所に防火壁を設置したりして、延焼を防ぎます。
一番大きな防火壁は、ステージと客席との間に置かれるものです。「それって緞帳のこと?」いやいや、緞帳のほかに、金属の壁があるのです。
1881年に400名近い死者を出した火災が、ウィーンの劇場でありました。火が出た時に、警報装置も鳴らずいきなり明かりが消えたために、パニックに陥った人々がドアに殺到しました。しかしドアは内開きだったので迅速に脱出することができず、甚大な被害になったと伝えられています。この惨事を教訓に、火災に対する様々な備えが義務付けられました。また、ドアは必ず外開きになっています。また消防士の常駐も決められました。ウィーン国立歌劇場の防火壁は、1999年から毎年デザインを公募し、新しいものに変わります。
「あわや火事」という公演がありました。先生がベルリン州立歌劇場で「トリスタンとイゾルデ」を観ていた時、2幕で「小山にある松明の火を地面に投げて消す」という演出がとられていました。イゾルデ役のデボラ・ポラスキが松明を投げようとしましたが、うまく松明が取れず、小山に燃え移ったことがありました。その時その防火壁が途中まで降りてきたのです。ポラスキが懸命に対処し、幸いにもすぐ火を消し止めることができたので、壁は元に戻り、演奏が止まることなく続きました。焼け死ぬのは嫌ですが、何が起こるかわからないのがオペラの面白いところです。
火事と消防士のイラスト
次回第3幕をお届けします。