オペラの登場人物

【ふじやまのぼる先生のオペラ講座(38)】
オペラには様々な登場人物が舞台上で演じます。「何人ぐらいですかって?」ちょっと例を挙げてみましょう。

1.たくさん出てくるもの

よく上演されて、先生が知っている登場人物の多いオペラは、ワーグナー作曲の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」です。2021年の11月から12月にかけて、新国立劇場でも上演されたので、ご覧になった方もいるのでは。
「マイスタージンガー」とは、ドイツの手工業の集まり(ギルト)が与えたマイスター(親方、師匠)の資格の1つで、専門の歌手ではない職人が集まって歌の技を競っていました。歌や詩の形式を覚え、試験を経て、「生徒(Schüler)」「学友(Schulfreund)」「歌手(Sänger)」「詩人(Dichter)」「マイスター(Meister)」と進んでいきます。「ニュルンベルクの名歌手」と訳されることもありますが、「職業歌手」ではないので、ちょっとニュアンスが違ってしまいます。
おっと、話がそれました。登場人物ですが、マイスタージンガー12人、その他が5人、合計17人。そのうち、男声がなんと15名!それに大勢の合唱が出ます。爆撃で破壊されたウィーンミュンヘンの歌劇場が再建され、再開したときに演奏されたこともあり、祝典的な雰囲気をたたえたオペラです。
これは1981年二期会で上演された「ニュルンベルクのマイスタージンガー」のキャスト表です(当日は一部変更があったようです)。静岡国際オペラコンクールの審査委員長である木村俊光先生が、ハンス・ザックスを演じています。この表を見てもおわかりのとおり、エヴァマグダレーネ以外はすべて男声。
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」のキャスト表
2023年の3月には、びわ湖ホールでの公演があります。
https://www.biwako-hall.or.jp/performance/meistersinger2022
また、2023年4月には、東京・春・音楽祭での公演があります。
https://www.tokyo-harusai.com/program_info/2023_die-meistersinger01/
なかなか上演される機会はありませんが、セルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)作曲の「戦争と平和」というオペラは、トルストイの小説を原作としています。ナポレオンロシア侵攻を描いた原作の登場人物は、559人とその多さでも知られていますが、オペラも負けず劣らず、有名無名、主役からチョイ役まで72人(「新グローヴオペラ辞典」による)が登場します。先生が知る限り、これが一番大人数ではないでしょうか。名前を覚えるだけで大変ですね。
登場人物が多いオペラを上演する場合、人物分人を集めるのではなく、登場が重ならない役は、同じ人物が何役かを演じます。
これは、「戦争と平和」CDのキャスト表ですが、たいていのオペラは1ページか多くても2ページで収まるのですが、これは5ページを費やしています。
War and Peace
War and Peace
War and Peace
War and Peace
War and Peace

2.偏った配役

「ニュルンベルクのマイスタージンガー」も男臭いオペラですが、ベンジャミン・ブリテン(1913-1977)作曲の「ビリー・バッド」軍艦上で展開される男だけのオペラです。
ビリー・バッドCD
また、男子修道院で展開されるジュール・マスネ(1842-1912)作曲の「ノートルダムの曲芸師」も、最後の天使の声以外は男声のみ。
反対に女声のみのオペラの代表としては、女子修道院の話のプッチーニ作曲の「修道女アンジェリカ」。こちらも天使の合唱に男声が入りますが、役付きは女声のみです。

3.少ないもの

登場人物1人。一人芝居ってありますよね。同じように一人オペラもあります。ドメニコ・チマローザ(1749-1801)作曲の「宮廷楽師長」は、宮廷楽師長がオーケストラの練習をするという20分弱の面白おかしい内容です。ホルンが怒られてばかり。
またプーランクの回で紹介した、「人間の声」は、恋人に捨てられた女が、電話をするというもの。最終的に恋人と会話しながら、電話のコードを首に巻いて自死するというもの。45分ほどの大作です。シロフォン(木琴)の音が、電話の着信音を模しているのですが、なんとも冷たく響きます。
同じ電話を扱ったオペラに、ジャン・カルロ・メノッティ(1911-2007)作曲の「電話」というオペラがあり、こちらの登場人物は一組のカップル。結婚を切り出したい男の子が、かかってくる電話に何度も邪魔されて女の子に言い出せない、それならと外に出て公衆電話から電話し、ようやく結婚を申し込み、OKをもらうという、25分ほどのなんともほほえましいオペラです。副題がついていて、その名も「恋の三角関係」。なんともユーモラスな副題ですね。
プーランクの回参照
「人間の声」と「電話」のピアノ伴奏用の楽譜の表紙には、対照的なイラストが描かれています。「人間の声」は、このオペラの台本を書いたジャン・コクトー(1889-1963)が、「電話」は、ルーマニア生まれのアメリカ合衆国の漫画家でイラストレーターの、ソール・スタインバーグ(1914-1999)が書いています。この表紙を見るだけで、どちらのオペラの楽譜かわかる気がします。
「人間の声」
人間の声
「電話」
電話