マスカーニ作曲「カヴァレリア・ルスティカーナ」Cavalleria rusticana (歌詞:イタリア語)

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(30)】
初演:1890年5月17日 ローマ コンスタンツィ劇場

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ

現在(オペラが書かれた頃)の復活祭の日曜日、シチリアのある村
全1幕 シチリアの村の教会の前の広場
遠くからトゥリッドゥの歌うシチリアーナ「色白のローラよ」が聞こえてくる(この部分だけは、シチリアの方言で歌われる)。
朝、教会に人が集まって来る。サントゥッツァは、ルチアにトゥリッドゥの居場所を尋ねるが、ルチアはあいまいな返事しかできない。そこにアルフィオがやってきて、馬車屋の歌「駒は勇んで」を歌い、ルチアに「トゥリッドゥが俺の家の周りをうろついていた」と言って立ち去る。
教会のイラスト
教会からオルガンの音が聞こえてきて、サントゥッツァは祈りをささげる。人々が教会の中に入ると、サントゥッツァはアリア「ママも知るとおり」の中で、「ローラはトゥリッドゥが軍隊に行く前には彼と付き合っていたが、帰ってきたときにはすでにアルフィオの妻になっていた。トゥリッドゥはローラへの当て付けから私を愛したけれど、ローラは私に嫉妬してまたトゥリッドゥとの関係を始めた」と、涙ながらに歌う。いたたまれなくなり、ルチアは教会に入る。
その後トゥリッドゥが現れ、サントゥッツァと二重唱「サントゥッツァ、お前がここに」を歌い、険悪な雰囲気になる。そんな二人を見透かしたかのように小唄を歌いながら通りかかるローラ。トゥリッドゥがローラと教会に入ろうとするのを必死に止めようとするサントゥッツァだが、トゥリッドゥに振り払われ地面に倒れこむ。彼らに呪いの言葉を投げつけるサントゥッツァ。
そこへ何も知らないアルフィオが現れる。怒りに任せ「あんたの奥さんが私の恋人を盗んだ」と口走ってしまう。事情を察し、復讐に燃えるアルフィオ。後悔の念に駆られるサントゥッツァ。二人の激しい二重唱「おお、神様があなたをよこしてくれた」
(間奏曲)
教会から人々が出てきて居酒屋で飲み始める。乾杯の歌を歌ったトゥリッドゥの前にアルフィオが現れる。トゥリッドゥが差し出す杯をアルフィオは受けない。険悪な雰囲気となり女たちはローラを連れて立ち去る。全てを察知したトゥリッドゥはシチリア風にアルフィオの耳に噛み付き、決闘を申し込む。トゥリッドゥは酔った振りをして、アリア「母さん、あの酒は強いね」を歌い、それとなくルチアに別れを告げ、サントゥッツァのことを頼んで決闘に臨む。
一瞬の静けさ。その静けさを切り裂くような女の悲鳴。「トゥリッドゥが殺された」。サントゥッツァとルチアは意識が遠くなる。
*「カヴァレリア・ルスティカーナ」とは、直訳すると「田舎の騎士道」という意味です。

カヴァレリア・ルスティカーナの上演時間

カヴァレリア・ルスティカーナは、1時間ちょっとの上演時間で、一晩の公演には短すぎます。そこで、他の同じような時間のオペラと組み合わせて上演されることが多いです。一番多いのは、ルッジェーロ・レオンカヴァッロ(1857-1919)の「道化師」との組み合わせです。
劇場の舞台のイラスト

自選役

このオペラからは、サントゥッツァが、静岡国際オペラコンクール第2次予選自選役リストに含まれています。

カヴァレリア・ルスティカーナの今後の上演

東京芸術劇場での上演(豊島区西池袋)
2023年2月3日、5日
レオンカヴァッロの「道化師」と組み合わせての上演です。歌手+ダンサーという斬新なアイディアの演出で、ダンサーには日本語名も付いているようです。
https://www.geigeki.jp/performance/concert255/
この上演は愛知でも開催されます。
愛知県芸術劇場(名古屋市東区)
2023年3月3日、5日
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/detail/000728.html
市川市文化会館での上演(市川市大和田)
2023年3月5日
ジョアキーノ・ロッシーニ(1792-1863)作曲の宗教曲「スターバト・マーテル」から第1曲と第10曲と組み合わせての上演です。
https://www.tekona.net/bunkakaikan/event_detail.php?id=1775

豆知識「『カヴァレリア・ルスティカーナ』誕生、あるいはイタリアの2大オペラ楽譜出版社」

イタリアには「リコルディ(Ricordi)」「ソンゾーニョ(Sonzogno)」という主要な2つのオペラ楽譜出版社があるというお話は、以前からしていますね。「カヴァレリア・ルスティカーナ」も、そんな関係から生まれたオペラです。
新興ソンゾーニョは、若手作曲家を専属とさせるため1883年「ソンゾーニョ・コンクール」というオペラの作曲コンクールを開催しました。応募の条件として、
イタリア国籍をもつ若い作曲家のオペラ作品であること
1幕のみで完結すること
がありました。第1回目のコンクールでは、今日全く知られていない2つのオペラが同時に1位となりました。この時ジャコモ・プッチーニ(1858-1924)も処女作「妖精ヴィッリ」で応募していたのですが、締め切りぎりぎりの提出だったことと、楽譜の記入が汚すぎて判読難しかったことで、入賞は逃しました。しかしライヴァル会社のリコルディが目を付け、プッチーニの作品はほとんどがリコルディから出版されることになりました。これは、「エドガール」紹介の時に、お話ししましたね。
プッチーニ作曲「エドガール」(オペラコンクールブログ「トリッチ・トラッチ」)
https://www.suac.ac.jp/opera/blog/2022/04/00111/
第2回は1888年。「カヴァレリア・ルスティカーナ」をもってマスカーニはこのコンクールに挑戦し、見事1位に輝きました。この時応募の条件として、「楽譜はきれいに書くこと」が付け加えられたとか。
第2回の「カヴァレリア・ルスティカーナ」受賞に、「自分にもできる!」とライヴァル心を燃やしたのがレオンカヴァッロでした。彼は自ら「道化師」の台本を書き、それに作曲。第3回のコンクールに応募します。しかし、「一幕物」という条件に合わず失格になります。ところが、ここでもソンゾーニョ社の目に留まり、コンクールとは別に上演されることに。このことはブログにも書きましたので、ぜひご覧ください。
~今月の作曲家~「レオンカヴァッロ」(2022年4月)​(オペラコンクールブログ「トリッチ・トラッチ」)
https://www.suac.ac.jp/opera/blog/2022/04/00111/

参考CD

CDでも1枚で済んでしまいます。
サントゥッツァ:ジュリエッタ・シミオナート
トゥリッドゥ:マリオ・デル・モナコ
指揮:トゥリオ・セラフィン 他(1960年録音)
イタリア・オペラの神的指揮者のトゥリオ・セラフィン(1878-1968)。「自分が中心」という考えの指揮者ではなく、常に歌手を引き立て、歌手のことを考え、それでいて全体が締まるような指揮をする。そんな指揮者でした。この録音も80歳を超えてからのもの。自身よりも40歳も若い歌手たちを上手にまとめ、年齢を感じをさせない、筋肉質の音楽を聴くことができます。マリア・カラス(1923-1977)を見いだし常にサポートしたことでも知られていますが、マリオ・デル・モナコ(1915-1982)も、セラフィンに見いだされた歌手です。セラフィンは、特定のレコード会社の所属ではありませんでした。というか、戦後は、ほとんど特定のポストに就いていなかったんではないでしょうか。そのため、カラスの属するレコード会社にも、デル・モナコの属するレコード会社にも、多くの素晴らしい録音を遺しています。
カヴァレリア・ルスティカーナCD