【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(33)】
これまでこのブログでは、ボーイト作曲の「メフィストーフェレ」と、ブゾーニ作曲の「ファウスト博士」をご紹介しました。ここで、ようやくシャルル・グノー(1818-1893)の「ファウスト」の登場です。三者の違いを比較してお読みくださればうれしいです。
~今月の作曲家~「ブゾーニ」(2023年4月)(オペラコンクールブログ「トリッチ・トラッチ」より)
https://www.suac.ac.jp/opera/blog/2023/04/00185/
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初演:1859年3月19日 パリ テアトル・リリック
初演:1859年3月19日 パリ テアトル・リリック
主な登場人物
あらすじ
第1幕 ファウストの書斎
真夜中。たくさんの書籍に囲まれてファウストが座っている。今まで自分は学問に励んできたが、何も残らなかったと嘆く。夜が明け始める。彼は死を望み毒を飲もうとすると、外から若い娘の朝の歌や農夫の祈りの歌が聞こえてくる。一瞬我に返るが、死を思いとどまるほどではなく、快楽や学問、神を呪い、悪魔を呼ぶ。
真夜中。たくさんの書籍に囲まれてファウストが座っている。今まで自分は学問に励んできたが、何も残らなかったと嘆く。夜が明け始める。彼は死を望み毒を飲もうとすると、外から若い娘の朝の歌や農夫の祈りの歌が聞こえてくる。一瞬我に返るが、死を思いとどまるほどではなく、快楽や学問、神を呪い、悪魔を呼ぶ。
すると突然悪魔メフィストフェレス(以下メフィスト)が現れる。メフィストが望みを尋ねると、ファウストは「青春」と答える。メフィストは、死後の魂と引き換えに青春を与えようと契約書を差し出す。迷うファウスト。メフィストが美しい乙女の幻を出すと、ファウストは即座に契約書にサインする。そして、促されるがまま杯を空けるとたちまち若々しい青年の姿に変わる。
第2幕 定期市のたつフランクフルトの広場
学生たちが飲んだくれている。そこへヴァランタンが妹マルグリートからもらったメダルを付けて現れ、妹を残して出征することを心配する。ジーベルたちは、妹のことは自分たちに任せろと勇気付けるので、ヴァランタンは安心し、カヴァティーナ「門出を前に」を歌う。
学生たちが飲んだくれている。そこへヴァランタンが妹マルグリートからもらったメダルを付けて現れ、妹を残して出征することを心配する。ジーベルたちは、妹のことは自分たちに任せろと勇気付けるので、ヴァランタンは安心し、カヴァティーナ「門出を前に」を歌う。
学生たちが騒いでいると、突然メフィストが現れ、アリア「黄金の子牛の歌」を歌う。彼は、ジーベルたちの手相を見て不吉な予言ばかり言うので、悪魔だということがばれてしまう。メフィストの口からマルグリートの名前が出たことでヴァランタンは怒り剣を抜くが、すぐに折れてしまうので、折れた剣で十字の魔除けを作り一同は去る。
ワルツ。娘たちが踊り始める。ファウストは現れたマルグリートに話しかけるが、やんわりと断られ相手にされない。恋に落ちるファウスト。
第3幕 マルグリート家の前の庭
ジーベルがマルグリートを訪ねてきて、彼女のために花を摘むが、メフィストの予言通り枯れてしまうので、アリア「僕の告白を伝えておくれ(花の歌)」を歌い嘆く。聖水盤の水に手を浸してから摘むと花は枯れない。摘んだ花で花束を作り、マルグリートの家の前に置く。
ジーベルがマルグリートを訪ねてきて、彼女のために花を摘むが、メフィストの予言通り枯れてしまうので、アリア「僕の告白を伝えておくれ(花の歌)」を歌い嘆く。聖水盤の水に手を浸してから摘むと花は枯れない。摘んだ花で花束を作り、マルグリートの家の前に置く。
メフィストとファウストが現れる。ファウストはメフィストを去らせ、アリア「清らかな住まい」を歌う。メフィストは宝石箱を持ってきて、マルグリートの家の前に置く。
家から出てきたマルグリートは、声を掛けてきた見知らぬ男を想って、バラード「トゥーレの王」を歌う。そして花束と宝石箱を見つけ、アリア「宝石の歌」を歌い喜ぶ。現れたマルグリートの友人が、宝石を見に付けたマルグリートを目にして驚く。メフィストとファウストが現れ、ファウストはマルグリートを、メフィストはその友人を誘惑する四重唱「少しの間でも私の腕を取って」を歌う。そして、邪魔しないようにメフィストはその友人を連れ去る。
夜も更け、二重唱「もう遅いわ」で、マルグリートは別れを告げるが、ファウストは愛の告白をする。一度は断るもついに彼の愛を受け入れてしまう。ほくそ笑むメフィスト。
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次回4幕以降をお届けします。
次回4幕以降をお届けします。
ファウスト上演に
「ファウスト」のモデルは、何人かあげられていますが、錬金術師であったヨハン・ファウスト博士(1480?-1540?)もその1人です。このファウスト博士と悪魔との物語を、クリストファー・マーロウ(1564-1593)というイギリス人の劇作家が「フォースタス博士の悲劇」として戯曲化しました。すぐに劇団が上演し好評を博します。というのも、「上演中に本物の悪魔が現れる」といったうわさが広がり、怖いもの見たさに観客が押し寄せたとか。劇団はドイツでも公演を行い、人形劇でも上演されていました。
幼きヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749-1832)は、この人形劇を観て興味を持ち、その後の創作活動に影響を与えました。ゲーテの「ファウスト」は2部から構成されていて、第1部は1808年に刊行され、第2部はゲーテの死の直前に完成され、死後の1833年に発表されています。人生のほとんどをファウスト博士と歩んできたことになりますね。
グノーの「ファウスト」は、「ファウスト第1部」を原作としています。1818年6月17日にパリで生まれたグノーの自伝によると、20歳のころから「ファウスト」を愛読しており、いつか音楽化しようと思っていたと述べています。それから約20年ついに陽の目を見た「ファウスト」でした。オペラ初演時には「オペラ・コミック」の形式で発表されました。爆発的な人気作ではありませんでしたが、その後各地で上演され徐々に人気は高まっていきました。
先生がミュンヘンで観た「ファウスト」は、半分オペラ・コミックのような形で上演され、歌はフランス語、セリフはドイツ語で上演されていました。ドイツでは1861年のドレスデンの上演より「原作を冒とくしている」との理由から、「マルガレーテ(マルグリートのドイツ語読み)」との題で上演されていました。そう思うなら、上演しなければいいと思うのですが。現在では、そんなことはありません。ファウストはフランス語だと「フォースト」と発音されます。
ピンク色部分の日本語訳:「フランス語上演 ドイツ語の字幕付き ドイツ語のセリフ入り」
豆知識「グノーの性格①」
どこかの国の首相が、「私の特技は人の話をよく聞くこと」と言っていましたが、グノーほど人の話をよく聞いて、自作に手を入れた人はいないと思います。この「ファウスト」は、1864年イギリスでの上演の際、第2幕にヴァランタンのアリア「門出を前に」が追加されました。また1869年パリ・オペラ座で上演するために、「グラントペラ」化する必要に迫られ、セリフに音楽を付け、第5幕にバレエが追加されました。
ヒロインであるマルグリートの登場は、初めは第2幕の割と早い段階でしたが、いろいろと切り詰められた結果、第2幕終わり、時間にしてオペラ開始から1時間以上経ってからとなってしまい、挙句の果てに9小節歌った後退場するということに。ある意味とても印象的なヒロインの登場の仕方ではあるのですが…。挙げ始めればきりがない変更や改訂をグノーは認め、現在のような形になりました。
次作のオペラ「ミレイユ(1864年初演)」には、5幕版と3幕版があり、ハッピーエンドで終わる版とミレイユの死で終わる版が存在します。また「ファウスト」と同じくらい人気のある「ロメオとジュリエット(1867年初演)」の中の有名な「ジュリエットのワルツ」と呼ばれるアリアは、人気歌手の要望で取り入れられたとか。
今後の「ファウスト」の上演
江東オペラでの上演
江東区江東公会堂(ティアラこうとう)
https://www.kcf.or.jp/tiara/event/detail/?id=5856
Npo法人江東オペラ
藤原歌劇団での上演
東京文化会館 大ホール
日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
https://www.jof.or.jp/performance/nrml/2401_fausuto.html