ビゼー作曲「カルメン」Carmen(歌詞:フランス語)vol.2

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(37)】
初演:1875年3月3日 パリ、オペラ・コミック座

主な登場人物

登場人物一覧

あらすじ(つづき)

第3幕 山の中の密輸団の休憩地
先に進むための偵察を行っている間、密輸団が休憩をしている。もともと真面目な性格のホセが密輸団に溶け込めるはずもなく、カルメンももう気持ちが冷めている。
ロマの女たちはカルタ占いを始め、一喜一憂している。カルメンも占ってみるが、出るのは死自分が死んで、ホセも死ぬという運命を歌う「カルタの歌」。一瞬目が合うカルメンとホセ。
偵察が戻り、この先に税関吏がいると報告するので、女たちは色仕掛けで通り抜けようと移動を開始する。ホセは見張りに残る。
密輸団たちが去ったあとの休憩地にミカエラが現れ、アリア「何を恐れることがありましょう」で、ホセに会って故郷へ連れ帰る決意を歌う。
そこへ銃声。それは突然現れたエスカミーリョに向かいホセが発砲したのだ。エスカミーリョの訪問の理由はカルメンに会うこと。それを知ったホセは彼と決闘する。
「決闘の二重唱」
騒ぎを聞きつけ戻ってきた密輸団が二人を止める。エスカミーリョは一同を闘牛に招待し去る。その時隠れていたミカエラが見つかり、母の危篤をホセに伝える。やむなくホセは山を下りる。遠くからエスカミーリョの歌声が聞こえるところで幕となる。
第4幕 セビリャの闘牛場の前の広場
広場では物売りが、闘牛の観客目当てに商売をしている。闘牛士が次々に入場していく。最後にエスカミーリョが登場し、カルメンに挨拶し、愛を語り合う。
広場の隅には落ちぶれたホセが徘徊している。仲間にホセの存在を告げられたカルメンだが、闘牛の前に話をつけるとホセに会うことにする。
再会した2人。もう全くホセに気持ちのないカルメンに対し、彼女に未練たっぷりのホセは、「何でもする、また仲間になる」と必死に訴える。場内に湧き上がる歓声。カルメンはプレゼントされた指輪を投げつけ、エスカミーリョのもとへ行こうとする。逆上したホセは、カルメンを刺し殺す。カルメンの死体に泣き崩れるホセ。

こぼればなし

先生の母校の高校では、毎年オペラ公演を行っています。先生も「カルメン」に出演して、ホセの役を務めました。創められた恩師の先生は残念ながら先年亡くなりましたが、その先生が興味深い話をしてくださったのを今でも覚えています。
ある日の「カルメン」公演。カルメンがカルタ占いを行っていると、本当に「死」の結果が出たとか。自分が死ぬのではないかと気が気ではないカルメンを歌った歌手は、何とか最後まで歌い通します。そんな彼女のもとに届いた知らせは、「ビゼーの死」だったそうです。本当だったら怖いですね。
占いのイラスト

参考CD

出版楽譜の多くがグラントペラ様式だったため、グラントペラ様式で録音されたものが多かったですが、1964年に研究調査に基づいた初演当時のオペラ・コミック様式に復元した楽譜が出版されたため、それ以降はどちらの録音も見られます。
参考CD(1)
指揮:ロリン・マゼール
カルメン:アンナ・モッフォ 他(1970年録音)
これは、オペラ・コミック様式で録音された最初期のものと思われます。カルメンを歌うアンナ・モッフォ(1932-2006)は本来「リゴレット」ジルダ役や「椿姫」ヴィオレッタ役を得意としていて、「カルメン」でもミカエラ役を舞台でも演じていました。カルメンを録音することについてはこのCDの解説書で「わたしが理想とするカルメンを具現させたかった」と述べています。先生はこの録音から、メゾソプラノの歌うカルメンよりもちょっと若い印象を受けました。フランコ・コレッリ(1921-2003)のホセも瑞々しく、ピエロ・カップッチッリ(1929-2005)のノーブルなエスカミーリョも絶品です。
CD1
参考CD(2)
指揮:クラウディオ・アバド
カルメン:テレサ・ベルガンサ 他(1977年録音)
こちらもオペラ・コミック様式での録音です。テレサ・ベルガンサは、モーツァルトやロッシーニのメゾソプラノを歌わせたら絶品のスペインの歌手です。第7回の静岡国際オペラコンクール審査委員をお願いしていたのですが、ご都合が悪くなりキャンセルされたのは返す返すも残念でした。ホセのプラシド・ドミンゴは、最近はバリトン役ばかり歌っていますが、若いころの歌にはオーラがあり、色気がありました。ドミンゴのホセを聴いていると、「エスカミーリョに乗り換えるカルメンの気持ちがわからない」といつも感じてしまいます。ロンドン交響楽団を指揮するクラウディオ・アバド(1933-2014)ですが、録音の2年後の1979年から1983年までロンドン交響楽団の首席指揮者を務めることになります。両者の関係は良好で、多くのオペラや管弦楽曲の録音が残されました。
CD2
参考CD(3)
指揮:ヘルベルト・ケーゲル
カルメン:ソーニャ・チェルヴェナー 他(1960年録音)
これは、万人にお勧めできるものではないのですが、先生が最も気に入っているカルメンのCDです。まずオリジナルのフランス語ではないこと。当時の東ドイツの録音のため、ドイツ語で歌われています。歌手も当時の東ドイツやチェコの歌手が集められています。決して華やかな顔ぶれではありません。次に鬼才ヘルベルト・ケーゲル(1920-1990)の指揮によること。先生はケーゲルという指揮者が好きで、いろいろなCDを聴きました。演奏に弛緩している部分は全くなく、まさに切ったら鮮血が噴き出すといった感のあるものです。楽譜に書かれていることを忠実に音にしていく。それ以上でもそれ以下でもない演奏。音を奏でたことのある人だったら、「ここは少し伸ばしたい」とか、少し「溜め」を作りたいと思う箇所が楽譜にはあります。しかしそういったことは眼中になく、進んでいきます。あっさりとは違う、まさに進み始めたら決して立ち止まらない重戦車といった演奏です。怖いもの見たさ(聴きたさ)の方は是非ご一聴を。
CD3