ベッリーニ作曲「清教徒」 I puritani vol.1

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(5)】
「清教徒革命」って覚えていますか?その時代が舞台となります。9月にコンクール三冠の光岡暁恵さんが出場する藤原歌劇団の公演があります。
初演:1835年1月25日 パリ イタリア劇場

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ

17世紀(1649年前後) イギリス プリマスに近い清教徒軍の城塞
第1幕 第1場 ヴァルトン卿の城塞の外壁
議会派(清教徒=ピューリタン)のリッカルドは、戦場に出る前に、城主のヴァルトン卿から娘エルヴィーラとの結婚を許されていたが、戦場から帰ると婚約解消の連絡があった。城内はエルヴィーラの結婚を寿ぎ、喜びに沸いているが、リッカルドはアリア「ああ、永遠にお前を失ってしまった」で、その悲しみを歌う。友人に、心を祖国と名誉のためにと諭されるが、彼は、恋と怒りに燃えていると答える。
第1幕 第2場 エルヴィーラの部屋
エルヴィーラは、敵方の王党派(カトリック)アルトゥーロと恋に落ちていたが、派閥の違いに悩んでいた。叔父ジョルジョの計らいでアルトゥーロとの結婚が決まり、彼女は喜びを隠し切れない。叔父との二重唱となる。そこにアルトゥーロ到着が告げられる。
第1幕 第3場 城塞内の大広間
アルトゥーロはエルヴィーラへの愛を込めて、アリア「いとしい乙女よ」を歌う。そんな折、この城塞に幽閉されている謎の貴婦人が連れてこられる。彼女は、処刑された前国王チャールズ1世の未亡人エンリケッタで、議会に招集されることをアルトゥーロは知る。エルヴィーラとアルトゥーロの結婚式。エルヴィーラは華やかに着飾って、アリア「私はかわいい乙女」を歌う。彼女はヴェールをエンリケッタに被せ、支度のため自室に去る。このまま議会に赴けば処刑されるのは確実であるエンリケッタの身の案じたアルトゥーロは、エンリケッタが花嫁のヴェールを被っていることを利用して、自身の結婚式の最中にもかかわらず、彼女とともに逃亡する。そこへリッカルドが現れ、決闘を挑むために剣を抜く。エンリケッタは、二人を止めようとヴェールを外す。リッカルドは、連れている女性がエルヴィーラでないことを知ると、わざと二人を逃がす。一方、突然夫となるべきアルトゥーロが他の女と逃げたことを知ったエルヴィーラは発狂してしまう。

豆知識「清教徒革命」


清教徒革命とは、「王様による政治(君主制)ではなく、市民による政治(共和制)に移行しよう」というものでした。最終的に王であるチャールズ1世を処刑し、一旦の終結を見ます。残されたのは元王妃エンリケッタ。英語名ではヘンリエッタ・マリア・オブ・フランスと言います。フランスと付くので、勘の良い人は、「フランス王家の血筋」と気付くでしょう。彼女の父はフランス王アンリ4世、母はマリー・ド・メディシス。あれ、どこかで聞き覚えのある名前。そうです。現存する最古のオペラが演奏されたのが、この2人の結婚式でしたね。忘れちゃった人はここ、見てください。
現在エンリケッタの名前はある地名として残っています。ヘンリエッタ・マリアの「マリア」の英語読み「メリー」をとって、「メリーランド」。アメリカの首都ワシントン近郊の「メリーランド州」の名付けられた由来と言われています(諸説あるようですが)。
アメリカ地図
ピンク色の部分が、メリーランド州です。
第2幕 場内の一室
発狂したエルヴィーラを皆が心配している。ジョルジョは「花冠をつけて」を歌い、錯乱した彼女の日頃の様子を語る。リッカルドが書類を持って現れ、アルトゥーロが議会より死刑を宣告されたと話す。そこに錯乱したエルヴィーラが現れ、狂乱のアリア「優しい声が私を呼んでいた」を歌う。彼女は、その場にいるジョルジョもリッカルドも判別できず怒ったり笑ったりし、その場にアルトゥーロがいるかのように愛を切々と語ったり、アルトゥーロに戻ってきてほしいと泣いたりする。エルヴィーラが去った後、ジョルジョはリッカルドに「元王妃が逃げたのは、本当にアルトゥーロだけのせいなのか」と問う。またエルヴィーラのために、彼を憎むのはやめよと諭す。頑なだったリッカルドも、ついにはジョルジョの気持ちに応える。そして、明日の決戦に向け、二重唱「ラッパを鳴らせ」を歌い気勢を上げる。

聴いてみよう

第2幕最後の二重唱「ラッパを鳴らせ」は、ショパン(1810-1849)がピアノ曲に作り替えています。ショパンはオペラが好きで、「自然な演奏を行うには、イタリアの歌手を聴くこと」とアドバイスしたほどです。ショパンとベッリーニとの人間関係について詳しいことはわかりませんが、同時期に生きた二人は何らかのシンパシーを感じていたのではないかと思います。リストらとの共作ではありますが、変奏曲形式で「ヘクサメロン」と題する作品に作曲されました。勇ましい行進曲風の原曲が、しっとりとしたノクターン風の音楽に生まれ変わっています。オペラコンクールの公式ピアニストの越知晴子先生の演奏がありますので、ぜひお聴きください。
【曲名】ショパン ベッリーニの「清教徒」の行進曲の変奏曲
      Chopin, Variation sur la marche des Puritains de Bellini
【演奏者】静岡国際オペラコンクール公式ピアノ伴奏者 越知晴子
次回第3幕などお伝えします。お楽しみに!