ベッリーニ作曲「清教徒」 I puritani vol.2

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(5)】

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ(つづき)

第3幕 城塞近くの庭園
追っ手を逃れたアルトゥーロは、ひと目エルヴィーラに会いたいと、エルヴィーラのいる城塞の近くの庭園をさまよっている。彼のもとに、城内から歌声が聞こえてくる。その歌はかつて自分がエルヴィーラに歌った愛の歌だった。城内にエルヴィーラがいることを確信するアルトゥーロ。彼は愛の歌を城内に向かって歌う。その時追っ手の声がするので、彼は隠れる。追手の声が遠ざかると、アルトゥーロの歌う愛の歌に気付きエルヴィーラが現れる。再会する2人。恋人の姿を見てすっかり正気に戻ったエルヴィーラ。二重唱「私の胸の中に」を歌い、喜びに酔う。しかし、アルトゥーロは議会派に捕らえられ、死刑を宣告される。これを聞いたエルヴィーラは再び錯乱状態に陥る。ここで四重唱「彼女は私に裏切られたと思ったのだ」をアルトゥーロから順に歌い出し、一同運命に翻弄されるエルヴィーラへの思いを歌にする。その時新たな知らせが使者によりもたらされ、王朝の崩壊とともに罪人放免が行われ、アルトゥーロが許されたと告げる。エルヴィーラは再び正気に戻り、喜びのうちに幕となる。

自選役

このオペラからは、エルヴィーラが、静岡国際オペラコンクール二次予選自選役リストに含まれています。

豆知識「超高音」

第3幕の四重唱「彼女は私に裏切られたと思ったのだ」内で、アルトゥーロが高いファの音(青丸の音符)を歌うことでも有名です。「夜の女王のアリア」のように、いくつかの音の中の一発というものではなく、1拍半伸ばさなければならないのです。LARGO MAESTOSO(♩=58)というゆっくりとしたテンポで!
清教徒の楽譜
“I Puritani” Ricordi Opera Vocal Score Seriesより
これは伝説のテノール、ジョヴァンニ・バッティスタ・ルビーニ(1794-1854)を想定して書かれています。ルビーニは、このような高音を得意としていました。当時のテノールは高音を裏声で歌っていたと考えられています。それでも高い音です。現在では、高音でも裏声ではなく胸声で歌われるので、実演では高いレのフラットに下げて歌うことが多いです。一発勝負の公演で失敗はしたくないですからね。それでもやっぱり高いのです。ルビーニは、1814年のデビューから1845年に引退するまで、ロッシーニやドニゼッティなどのオペラにも出演し、大きな成功を収めています。

藤原歌劇団での上演

9月10日、11日、12日の3日間、新国立劇場オペラパレスで、「清教徒」の上演があります。この上演に、「エルヴィーラ」役で光岡暁恵さんが出演します。藤原歌劇団も、ダブルキャストで公演を行っています。光岡さんは、11日に出演されます。
光岡さんは、第5回静岡国際オペラコンクールで、第1位、三浦環特別賞、オーディエンス賞の三冠輝きました。日本人初の第1位で、光岡さん以外三冠を達成した人はいません。昨年収録した「ふじのくにオペラweek」では、超高音連発の2つのアリアを歌ってくださいました。インタビューと合わせてお楽しみください。
光岡暁恵さん 「ふじのくにオペラweek」インタビュー&アリア歌唱
※下のバナーをクリックするとYouTubeの動画ページが開きます。
静岡国際オペラコンクール公式YouTubeチャンネルへはこちらから
藤原歌劇団ホームページ
https://www.jof.or.jp/performance/2109_puritani/

参考CD

今回は絞り切れず、4種類紹介します。
参考CD(1)
 
指揮:トゥリオ・セラフィン
エルヴィーラ:マリア・カラス
アルトゥーロ:ジュゼッペ・ディ・ステファノ 他(1953年録音)
まずは、なんといっても不世出のソプラノ、マリア・カラス(1923-1977)のCDです。当時劇場で通常行われていたカットを施しての録音が玉に瑕ですが、主役のカラス+ディ・ステファノ+パネライは強力!ジュゼッペ・ディ・ステファノ(1921-2008)は公私にわたり、カラスとの関係があったそうです。所属レコード会社も同じだったため、両者のオペラ全曲録音は多数あります。指揮は、イタリアオペラの神様的存在のトゥリオ・セラフィン(1878-1968)による安定の統率です。カラスはギリシャ系の移民としてアメリカで生まれています。ギリシャで教育を受け同地でデビュー。イタリアデビューは1947年でした。それから1965年にオペラの舞台を去るまでの約20年間(もっとも絶頂期はもっと短かかったといわれていますが)燦然と輝き散っていったというのにふさわしい歌手人生だったと思います。エルヴィーラは得意とした役で、1949年に初めてヴェネツィアで歌っています。公での最後の公演は、ディ・ステファノとともに世界ツアーを行っていた、1974年11月11日の札幌でのリサイタルでした。

参考CD(2)
 
指揮:ユリウス・ルーデル
エルヴィーラ:ベヴァリー・シルズ
アルトゥーロ:ニコライ・ゲッダ 他(1972年録音)
昔、「清教徒の高いファの音を出しているCDがある」と聞いて、怖いもの見たさ(聴きたさ)で買ったのがこちらです。ニコライ・ゲッダ(1925-2017)というテノールの出している超高音を聴く用のCDです。最近の録音では、他にも「ファ」を出しているものがあります。歌手の方たちの最近の技術向上は、目覚ましいものがあり、以前はカットされたり音を変更したりしていた部分も、楽譜通りの音を普通に聴くことができるようになりました。

参考CD(3)
 
指揮:リチャード・ボニング
エルヴィーラ:マリエッラ・デヴィーア
アルトゥーロ:ウィリアム・マッテウッツィ 他(1989年録音)
こちらはベッリーニのオペラ集から。こちらも高いファの音を出しています。マリエッラ・デヴィーアウィリアム・マッテウッツィのコンビと名指揮者リチャード・ボニングの指揮によるライヴ録音です。ベッリーニの生まれ故郷シチリア・カターニアのその名も「マッシモ・ベッリーニ劇場」での演奏は、シチリアの血故か、熱い演奏に観客も熱く応えています。マッテウッツィは、超高音を得意としたテノールで、「キング・オブ・ハイF」というCDが売られたことのある名歌手です。ライヴでファの音を出し、さらには楽譜の指定以上に引き延ばしている。歌唱後の観客の湧き方も一味違います。それ以上に素晴らしいのは、デヴィーアの滑らかな歌いぶり。これには目を見張ります。ライヴゆえの傷もありますが、それを差し引いてもお勧めしたい録音です。


参考CD(4)
 
指揮:ファビオ・ルイージ
エルヴィーラ:エディタ・グルベローヴァ
アルトゥーロ:ジャスティン・ラヴェンダー 他(1993年録音)
先生は、このCDでエルヴィーラを歌っている、エディタ・グルベローヴァというソプラノ歌手が大好きで、たくさんのCDを持っています。かつてウィーン国立歌劇場で、グルベローヴァの出演した「清教徒」を聴きましたが、ほかの人の存在を忘れるくらいに唖然とするほど素晴らしかったことを覚えています。このCDのもう1つの魅力は、2022年9月からNHK交響楽団の首席指揮者に就任予定のファビオ・ルイージの指揮でしょう。

ウィーン国立歌劇場の配役表
配役表